第4話 利潤主義
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
利潤主義
1
翌朝。
ホステルの廊下に、揃いすぎた足音が響いた。
白い手袋に艶のある靴。
無駄のない動きの小綺麗な男女が、まっすぐユウの前に立つ。
「ユウ様ですね。本日は特別に、パーティー会場へご案内いたします」
「え……ぼく、ひとり?」
ユウが不安そうに振り返ると、ジェーンが慌てて前に出た。
「チョ、ちょっとマってくだサイ。
ユウ、ひとり? ソれ、おかしいデス。」
小綺麗な人々は微笑んだまま、答えない。
そこへ、廊下の奥から足音が近づく。
現れたのは、ホステルの長だった。
状況を一目で察した彼女は、にこやかに口を開く。
「まあまあ、落ち着いて」
ジェーンは食い下がる。
「センセイ……
ワタシたち、子どもミマもるたメ、ここにいマス。
それ、ジゼンじゃ、ないデスか?」
ホステルの長──センセイは一瞬だけ目を細め、すぐに柔らかな笑みに戻った。
「ええ。でもね、現実はいつも理想通りじゃないの」
小綺麗な人々が差し出した封筒を、センセイはためらいなく受け取る。
それを見て、ジェーンの同僚たちが顔を見合わせた。
「…Again?」
「Figures. Always money first.」
「This place is getting worse.」
英語のやり取りを、ユウは理解できず、ただ不安そうに立ち尽くす。
「センセイ……こレは、ただのオカネ、デスか?」
ジェーンの問いに、先生は肩をすくめた。
「“ただのお金”なんてものは、この国には存在しないわ」
そう言って背を向ける。
「私はこの後、別の客人と話し合いがあるの。
あとは任せるわね」
先生はそのまま客間へと消えていった。
「ジェーン……?」
ユウの声に、ジェーンはすぐ答えられない。
代わりに、小綺麗な人々の手が、やさしく、しかし逃がさない力でユウの背に添えられた。
「行きましょう、ユウ様」
その声は終始丁寧で、感情がなかった。
ジェーンの同僚の一人が、小さく吐き捨てる。
「Poor kid.」
こうしてユウは、
善意と金の狭間で、ひとりパーティー会場へとゆくリムジンに乗せられた。
2
ホステルの長が客間の扉を開けると、そこにいたのは若い女だった。
淡く揺れるクラゲの髪。仮面を着けたジェーンと同年代くらいの少女。
石蛇家の当主、ミチル。
彼女はにこやかに微笑んだが、ミチルの反応は薄い。
警戒と嫌悪を隠そうともしない反応だった。
「……氷のように冷たいわね」
ホステルの長が、独り言のように呟く。
「執行局の人?」
その言葉に、ミチルの眉がわずかに動いた。
「……余計な詮索はしないで」
「ふふ。なるほど」
彼女はそれ以上踏み込まず、席を示す。
「それで?
“話し合い”とは、どの方のお話かしら」
ミチルは椅子に座らず、単刀直入に切り出した。
「このホステルにいる女――
ハサミ・エイコ。今は“ジェーン”と名乗っている子よ」
彼女の目が、ほんの一瞬だけ細まった。
「……彼女を、連れ出したいのね」
「ええ」
即答だった。
「不本意ながら交渉に来たわ。
条件は出す。金でも、権利でも」
だが彼女は、あくまで穏やかに首を横に振る。
「申し訳ありませんが、お断りします」
ミチルの眉がぴくりと動く。
「……まだ条件を――」
「連れ戻したところで、意味がありませんよ」
ホステルの長は淡々と続けた。
「彼女は、政府によって記憶を消されています。
家族、故郷、信仰、そしてあなたのことも、……何一つ、分からないでしょう」
ミチルの表情が、凍りつく。
「それに――」
彼女は指先を組み、静かに告げた。
「ジェーンを含め、ここにいる者たちは皆、“外から来た存在”。
下働きを嫌うモナルダ人の代替労働力として、
“モナルダ人にされた”子たちです」
「……保護している、と言いたいの?」
「ええ。消費されないように、ね」
その言葉に、ミチルの声が鋭くなる。
「それなら、あなたも同じじゃない。
宿の従業員として、下働きをさせている」
一歩、踏み出す。
「違いがあると言うなら、言ってみなさい」
彼女は、その強硬な態度を前にしても動じなかった。
「……そうですか」
そして、あっさりと言う。
「では、破談ですね」
「なっ――」
「忠告しておきます」
彼女は立ち上がり、ミチルを見下ろす。
「政府の人間には、気をつけなさい。あなたも使い捨ての歯車になるわよ。」
ミチルの目が、細くなる。
その言葉を最後に、ホステルの長は扉を開けた。
「お引き取りください。
ここは、あなたの“正義”が通る場所ではありません」
ミチルは何も言わず、踵を返す。
だがその背中は、怒りと無力感を押し殺したように、強張っていた。




