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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第4章 ─錆びし黄金時代編─
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第2話 張り子の黄金

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

1

駅舎から出た瞬間、ユウは思わず息をのんだ。


 ――高い。


 見上げても見上げても終わらない黒い壁。

 無数の窓が光り、夜空の星よりも強く瞬いている。

 白無窮とは、まるで世界が違う。


「スマラグドス、ようこそネ~!」


 リンが呼んだ案内人――

 レースのベール越しに笑顔をのぞかせるジェーンが、

 白いワンピースをふわりと揺らしながら跳ねるように近づいてくる。


 隣では、陸用スーツを着せられたカケルが

 袖をちょいちょい引っ張って落ち着かない表情をしていた。


「すごいですよ、ユウ! ビルが……なんか、全部、剣みたいに尖ってます!」


「う、うん……ぼく、こんなに大きい建物、初めて……」


 胸がどきどきする。

 怖さでも、興奮でもなく、その両方。


 


 ジェーンに連れられ、三人は魔灯の歩道を進む。

 人の数、音、光――すべてがユウの世界を埋め尽くしていく。


 ふと、ショーウィンドウが目に入った。


 そこには、光沢のある黒のジャージ。

 胸元には金文字のロゴ“MONARDAPRIME”。

 どこか偉そうな光を放っている。


「……あ、ジャージだ」


 思わずつぶやく。


(母さん……ジャージ好きだったな)


 父さんが小屋にいた時はワンピース姿だったが、仕事で小屋を離れてからはヘタったジャージをいつも着ていた。

 けれども、あんなふうにくつろぐ母の姿は、大好きだった。


 値札をのぞく。


「…………」


 数字の桁が、ユウの常識を静かに飛び越えてくる。


「え、えっと……」


「高すぎませんか? これ?」


 横からカケルが顔を寄せてくる。

 しかしその目は商品ではなく“縫い目”に向けられていた。


「ユウ、これ……生地、とても硬いです。触らなくても分かります。

あと縫い目、ほら。雑ですよこれ。糸が出てます。」


 カケルはショーケースに指を近づけ、

 職人のような真剣な目で観察する。


「なのにこの値段で売られてるなんて…

ぼったくりですよ。」


「そうネ~! モナルダで作ラれたっテだけで高いネ~!」

 明るく笑うジェーン。

 その笑顔は軽やかだが、目の奥が少しだけ冷たい。


「でも人気あるヨ。着るだけで“真のモナルダ人”なれるからネ」


(――見た目だけ)


 カケルの小さなため息が、ユウの胸に引っかかる。


 この国の光はまぶしい。

 でも――

 光の裏にある影も、同じくらい濃かった。


2

とある高層ビルの一室にて。


 マダムは白い手袋越しにボトルを持ち上げ、ロスティスラフにグラスを差し出す。


「どうぞ、召し上がって。

モナルダ産じゃないから安心してね」


 口調は軽いが、意味は重い。


「最近のモナルダのワインったら、もうひどいものよ。

香りは立派、値段は一流――でも味は“薄めた虚栄心”そのものだわ」


 ロスティスラフは、細く息を吐き、ただ静かにグラスを受け取る。

治安統制庁 監察官長 として、外交上の棘は飲み下すしかない。


「……本題を伺いましょう」


 マダムは唇に落ち着いた笑みを浮かべ、椅子へ腰掛けた。


「あなたがここにいる理由は分かっているわ。

**治安統制庁を通じて依頼したのは、私たち“モナルダ政府”**よ」


 彼女の声には、政治の裏側に立つ者の落ち着きがあった。


「建前では各国の治安維持を監査する国際機関――

でも、あなたが“魔女”に精通しているのは有名でしょ?」


 ロスティスラフのまなざしが鋭く揺れる。


「……それで、私に白羽の矢が?」


「ええ。

スマラグドスに巣くうとある魔女を、この街から追放してほしいの。

そして、あの女が保有する“門”の回収。

可能なら、国家管理下に置きたい。それだけ」


 ロスはグラスを傾け、深い赤を一口飲む。


「対価は?」


「不要よ。

あなたはあくまで“治安統制庁の監察任務”として来ている。

こちらがあなたに支払うのは筋違いでしょう?」


 涼やかに断言し、マダムは脚を組む。


「私たちは、ただこの街を守りたいだけ。

――あなたの力が必要なのよ、ロスティスラフ監察官長」


 ロスは、しばし沈黙したのち、ゆっくりと頷く。


「……承知しました。

治安統制庁の名において、調査を開始します」


 マダムは満足げに微笑み、グラスを軽く掲げた。


「では、“宴”の最中で片をつけましょう。

あの(クソアマ)の時代を――終わらせるために。」


 乾いたグラスの音が、薄闇に冷たく響いた。


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