第1話 ご案内
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
がらんとした地下鉄の車内に、電車の揺れだけが静かに響いていた。
乗客はユウ、カケル、ケイ、そしてリンの四人だけ。
広い車両なのに空席ばかりで、どこか秘密の旅に出るような特別感がある。
ユウとカケルは並んで座り、すっかり上陸前の高揚感に包まれていた。
「ねぇユウ、スマラグドスってほんとに高い建物がいっぱいあるのでしょうか?」
「あるある! しかも全部光ってるって! リンさんが言ってた!」
カケルは慣れない陸用スーツの袖をひっぱりながら、落ち着きなく足を揺らす。
上陸前にリンに着替えさせられたせいで、普段の海底服よりずっと締め付け感があるらしい。
「私、“すかいすくれいぱあ”というものを見てみたいです。」
「ぼくも! 白無窮よりすごいんだって! 想像つかないなあ!」
二人がキャッキャと話しているのを、ケイは「元気だね」と穏やかに笑って見守っていた。
リンはというと、静かに、何も言わずに微笑んでいる。
――その笑みは、いつもより少し“意味深”に見えた。
***
電車が減速し、アナウンスが流れた。
――次は、スマラグドス中央駅。
「わっ、着く……!」
「よーし、いこう、カケル!」
はしゃぐ二人に、リンがそっと立ち上がる。
「私とケイはここで別行動よ。先にやっておくことがあるから」
「えっ、いっしょに来ないの?」
「後で合流するわ。あなたたちには案内人を用意してあるから安心して」
ケイも軽く手を振る。
「優秀な人を呼んでるよ。変なところへは行かないと思うから心配はいらない」
二人がホームの別通路へ消えていく。
ユウとカケルは、少しだけ不安そうに顔を見合わせた。
そして――。
「コンニチハ、ユウ坊、カケル坊。迎えニ来マシタ」
まるで霧の中から現れたみたいに、静かに女性が姿を現した。
白。
頭から足元まで、とにかく白かった。
頭には薄いレースのベール。
首元まで覆う長袖の白いロングワンピース。
指先まで隠す白い手袋。
肌がほとんど見えない、異様なほど“端正な”服装なのに、
彼女の笑顔だけは太陽みたいに明るい。
「ワタシ、ジェーン。リン様ニ頼マレタ案内人デス。
スマラグドス、タノシイ所。二人、ヨロシク」
「……お、お姫さまみたい?」
「いや、なんか……すごい服だけど……優しそう!」
ジェーンはぱぁっと笑う。
「さぁ、地上ヘ行キマショウ。モナルダは夜がキレイデスヨ!」
白いベールを揺らしながら、ジェーンは先に立って歩き出した。
ユウとカケルはその後ろをワクワクしながら追いかける。
こうして――
モナルダ最大の街・スマラグドスでの新しい冒険が始まった。
2
ユウの父であるロスティスラフが、タイガの小屋に訪れて去ったあと。
ヴェラは荒れた小屋の中で、粗末なテーブルに腰を下ろし、空の瓶を手の中で弄んでいた。
息子の安否は無事だったと聞けた――それだけは救いだった。
だけど、その報告と同時に、胸の中ではどうしようもない苛立ちが渦を巻く。
「……結局、離れ離れになったのは、全部己の不手際ってわけかよ」
瓶の口に直接唇をつけて酒を流し込む。
けれど、どれだけ飲もうと、酔いは一向にやってこない。
国外に飛ばされたようなもののユウの行方は追えない。
なのに、面と体だけ優れた雑魚は“仕事”を優先して、さっさと去っていった。
「はぁ……。望んでできた子でもねぇのに、なんで己ばっかり……」
苛立ちを隠そうともせず、空の瓶をテーブルに叩きつける。
ガタン、と音が鳴った瞬間——
コン、コン。
静かなタイガに不釣り合いな、軽いノックの音が響く。
「……は?」
こんな場所に、訪ねてくるやつなんかいるわけない。
誰だよ、と苛立ちのまま眉を寄せて、乱暴にドアを開ける。
その瞬間――
吹きつける冷たい空気のかわりに、目の前に広がったのは豪奢なホテルの客室。
磨かれた大理石の床、金縁の鏡、シャンデリア。
木の小屋とはまったく別世界の光景が、唐突に口を開けていた。
呆然と目を見開くヴェラの前に、ふわりと影が跳ねる。
コウモリに似た、しかし明らかに普通ではない気配をまとった“使い魔”が姿を現した。
「――ご招待にあがりました、ヴェラさま」
落ち着いた声で、使い魔は深々と頭を下げる。
「あなたは**スマラグドスにて開催される“魔女会”**へ、正式に招かれました」
「………………は?」
ヴェラの間抜けな声だけが、豪華な空間に響いた。




