最終話 モナルダに行きたいか?
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
次期当主ミチルが陸へと向かった翌日。淡い光が差し込む中庭。
海面のようにゆらめく光をぼんやりと眺めながら、カケルとユウは縁側に腰掛けていた。
彼の首にはもう、あの罰の看板はない。
けれど――代わりに、どこかぽっかりとした空白が胸の奥に残っていた。
「……姉上は、もう陸に着いた頃でしょうか。」
ぽつりと呟く声に、ユウが隣で顔を向ける。
「うん……そっか、もう行っちゃったんだね」
「――別に、寂しくなんかはありませんが。」
と、カケルは砂利をつまんで、池に投げ込む。
水音が静かに弾けて、すぐにまた沈黙が戻る。
「……でも、変な感じです。
今までずっと一緒にいたのに、昨日まで普通に怒ってきたのに、
もういないって思うと……こう……」
彼は言葉を探すように唇を噛んだ。
「胸を締め付けるような感じなんです。」
ユウは少し考えてから、そっと笑う。
「それって、さびしいってことじゃないの?」
「……そう、なのでしょうか。」
カケルは視線を落とし、
小さな泡が流れていくのを見つめながら、
どこか戸惑ったように息をついた。
そんな穏やかな空気を切り裂くように――
中庭の奥から、軽やかな靴の音が響く。
「あら、いい雰囲気ね。」
ふたりが振り返ると、
珊瑚色の髪を揺らしながらリンが歩いてくる。
手には扇を持ち、いつもの商人めいた笑みを浮かべて。
「仲良しさんね、カケル坊ちゃま、ユウくん」
「リンさん……」
「さて、今日はちょっとしたお知らせがあって来たの。
あなたたち二人に良いことしかない話よ」
その言葉に、ユウとカケルは顔を見合わせる。
リンの笑みはいつもの柔らかさを保ったまま、
どこか底の見えない光を宿していた――。
2
とある小さな部屋にて。
薄青い光が揺らめき、壁面には珊瑚の装飾。
ケイは長椅子に腰を下ろし、向かいに座る魔女を凝視していた。
その前に、にこやかな笑みを浮かべて座るリン。
「今回は本当に助かったわ。ミチルお嬢様もあなたのおかげで随分と地上の作法に慣れたもの。」
「仕事だ。それ以上でも以下でもない。」
ケイは短く答え、眉間に少しシワを寄せる。
「でも――」
リンは頬杖をつきながら目を細めた。
「次も、少しばかり“お使い”をお願いしたくてね」
ケイは溜息を吐く。
「……またか。僕は都合の良い便利屋じゃない。」
「まあまあ、そんな顔しないで」
とリンは楽しげに笑い、机の上に一枚の地図を広げた。
地図の中央には、“モナルダ”の文字が刻まれている。
「陸の大国、モナルダ。あなたが探している“門”――あれのひとつが、そこにあるわ」
ケイの瞳がわずかに揺れる。
「……それは確かな情報か?」
「もちろん。あなたが“計画”を進めるには、あの門は不可欠でしょう?」
リンは唇をゆるめる。
「深桜に長く居座るより、次に進む時期よ」
ケイは黙ってしばらく考え込み、やがて肩をすくめた。
「……わかった。それで、ユウはどうする」
「ふふっ、それが一番の見どころよ」
リンの口角がゆるりと上がる。
───
数刻前。
「――モナルダという国を聞いたことはある?」
「もなるだ?」
ふたりが縁側で同時に首をかしげる。
「ユウくんが前に行った白無窮よりも、もっと高い建物がたくさん立ち並ぶ国よ。そうね。丹梅くらいに大きな国かしら。」
「あの丹梅と同じくらいですか!?」
深桜で唯一の貿易相手の国が挙がった途端、カケルが前のめりに興味を示す。
その反応を見たリンは微笑みながら続きを話す。
「夜になるとビルの窓が光って、まるで星空が地上に降りてきたみたいなの。」
いろんな国の人が集まっていてね、通りを歩くだけで十の言葉が聞こえるくらい。
菓子も娯楽も、こことは比べものにならないほど豊富なのよ」
「お菓子も!?」
ユウの目が一気に輝く。
リンはおどけたように笑った。
「ええ。色んな味の飴に、とろける美味しさのアイスクリーム。
そして、究極の都市“スマラグドス”――
一度行ったら、二度と忘れられないわ」
カケルは思わず身を乗り出す。
「そんなすごいところがあるのですか...! 行ってみたい!」
「きっと気に入るわ」
リンは立ち上がり、扇で頬を隠しながら小さく笑った。
「……そのうち、行けるようにしてあげる。準備が整ったらね」
「ほんとに!?」
ユウが身を乗り出すと、リンはいたずらっぽく片目をつぶった。
「約束よ、坊やたち」
───
「リンさんっ!」
彼女が2人を呼んだ途端、
小さな部屋にユウとカケルが駆け込んできた。
ふたりの目はまるで宝石のように輝いている。
「もしかして、もうモナルダに行けるのですか!?」
「すっごく楽しみなんだ! お菓子も光るアイスもあるんでしょ!?」
リンはくすりと笑い、扇を開いて顔半分を隠す。
「ええ、ええ。約束どおり――案内してあげるわ。今からね」
「ほんと!?」
ユウの瞳がさらに大きくなり、カケルも興奮を抑えきれない様子でうなずく。
リンは軽やかに立ち上がり、廊下を進む。
「こちらへ。モナルダ行きの浮上ポットの準備は整っているわ」
その背を追いかけながら、ユウは隣のケイに笑いかけた。
「ケイ先生も一緒に行くんだよね? やった! 心強ーい!」
「……まあね。」
ケイは小さく笑い返した。だがその視線は、前を歩くリンの後ろ姿に注がれている。
(この女……自分の“計画”をどこまで知っている?)
胸の奥でわずかな警戒が灯る。
その気配を察したように、リンは歩を止め、振り返らずに口角を上げた。
「ふふ……行きましょう、みなさん」
その笑みは、何もかもを見通している魔女のそれだった。
君のためなら、何でもできる
第3章─泡沫の姉弟編─
終




