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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第3章 ─泡沫の姉弟編─
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最終話 モナルダに行きたいか?

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

1

次期当主ミチルが陸へと向かった翌日。淡い光が差し込む中庭。

海面のようにゆらめく光をぼんやりと眺めながら、カケルとユウは縁側に腰掛けていた。


彼の首にはもう、あの罰の看板はない。

けれど――代わりに、どこかぽっかりとした空白が胸の奥に残っていた。


「……姉上は、もう陸に着いた頃でしょうか。」

ぽつりと呟く声に、ユウが隣で顔を向ける。


「うん……そっか、もう行っちゃったんだね」


「――別に、寂しくなんかはありませんが。」

と、カケルは砂利をつまんで、池に投げ込む。

水音が静かに弾けて、すぐにまた沈黙が戻る。


「……でも、変な感じです。

今までずっと一緒にいたのに、昨日まで普通に怒ってきたのに、

もういないって思うと……こう……」


彼は言葉を探すように唇を噛んだ。


「胸を締め付けるような感じなんです。」


ユウは少し考えてから、そっと笑う。

「それって、さびしいってことじゃないの?」


「……そう、なのでしょうか。」

カケルは視線を落とし、

小さな泡が流れていくのを見つめながら、

どこか戸惑ったように息をついた。


そんな穏やかな空気を切り裂くように――

中庭の奥から、軽やかな靴の音が響く。


「あら、いい雰囲気ね。」


ふたりが振り返ると、

珊瑚色の髪を揺らしながらリンが歩いてくる。

手には扇を持ち、いつもの商人めいた笑みを浮かべて。


「仲良しさんね、カケル坊ちゃま、ユウくん」

「リンさん……」


「さて、今日はちょっとしたお知らせがあって来たの。

あなたたち二人に良いことしかない話よ」


その言葉に、ユウとカケルは顔を見合わせる。

リンの笑みはいつもの柔らかさを保ったまま、

どこか底の見えない光を宿していた――。


2

とある小さな部屋にて。

薄青い光が揺らめき、壁面には珊瑚の装飾。


ケイは長椅子に腰を下ろし、向かいに座る魔女を凝視していた。

その前に、にこやかな笑みを浮かべて座るリン。


「今回は本当に助かったわ。ミチルお嬢様もあなたのおかげで随分と地上の作法に慣れたもの。」

「仕事だ。それ以上でも以下でもない。」

ケイは短く答え、眉間に少しシワを寄せる。


「でも――」

リンは頬杖をつきながら目を細めた。

「次も、少しばかり“お使い”をお願いしたくてね」


ケイは溜息を吐く。

「……またか。僕は都合の良い便利屋じゃない。」


「まあまあ、そんな顔しないで」

とリンは楽しげに笑い、机の上に一枚の地図を広げた。

地図の中央には、“モナルダ”の文字が刻まれている。


「陸の大国、モナルダ。あなたが探している“門”――あれのひとつが、そこにあるわ」


ケイの瞳がわずかに揺れる。

「……それは確かな情報か?」


「もちろん。あなたが“計画”を進めるには、あの門は不可欠でしょう?」

リンは唇をゆるめる。

「深桜に長く居座るより、次に進む時期よ」


ケイは黙ってしばらく考え込み、やがて肩をすくめた。

「……わかった。それで、ユウはどうする」


「ふふっ、それが一番の見どころよ」

リンの口角がゆるりと上がる。

───


数刻前。



「――モナルダという国を聞いたことはある?」


「もなるだ?」

ふたりが縁側で同時に首をかしげる。


「ユウくんが前に行った白無窮よりも、もっと高い建物がたくさん立ち並ぶ国よ。そうね。丹梅くらいに大きな国かしら。」


「あの丹梅と同じくらいですか!?」


深桜で唯一の貿易相手の国が挙がった途端、カケルが前のめりに興味を示す。


その反応を見たリンは微笑みながら続きを話す。

「夜になるとビルの窓が光って、まるで星空が地上に降りてきたみたいなの。」

いろんな国の人が集まっていてね、通りを歩くだけで十の言葉が聞こえるくらい。

菓子も娯楽も、こことは比べものにならないほど豊富なのよ」


「お菓子も!?」

ユウの目が一気に輝く。


リンはおどけたように笑った。

「ええ。色んな味の飴に、とろける美味しさのアイスクリーム。

そして、究極の都市“スマラグドス”――

一度行ったら、二度と忘れられないわ」


カケルは思わず身を乗り出す。

「そんなすごいところがあるのですか...! 行ってみたい!」


「きっと気に入るわ」

リンは立ち上がり、扇で頬を隠しながら小さく笑った。

「……そのうち、行けるようにしてあげる。準備が整ったらね」


「ほんとに!?」

ユウが身を乗り出すと、リンはいたずらっぽく片目をつぶった。


「約束よ、坊やたち」


───


「リンさんっ!」

彼女が2人を呼んだ途端、

小さな部屋にユウとカケルが駆け込んできた。

ふたりの目はまるで宝石のように輝いている。


「もしかして、もうモナルダに行けるのですか!?」

「すっごく楽しみなんだ! お菓子も光るアイスもあるんでしょ!?」


リンはくすりと笑い、扇を開いて顔半分を隠す。

「ええ、ええ。約束どおり――案内してあげるわ。今からね」


「ほんと!?」

ユウの瞳がさらに大きくなり、カケルも興奮を抑えきれない様子でうなずく。


リンは軽やかに立ち上がり、廊下を進む。

「こちらへ。モナルダ行きの浮上ポットの準備は整っているわ」


その背を追いかけながら、ユウは隣のケイに笑いかけた。

「ケイ先生も一緒に行くんだよね? やった! 心強ーい!」


「……まあね。」

ケイは小さく笑い返した。だがその視線は、前を歩くリンの後ろ姿に注がれている。


(この女……自分の“計画”をどこまで知っている?)


胸の奥でわずかな警戒が灯る。

その気配を察したように、リンは歩を止め、振り返らずに口角を上げた。


「ふふ……行きましょう、みなさん」


その笑みは、何もかもを見通している魔女のそれだった。


君のためなら、何でもできる

第3章─泡沫の姉弟編─



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