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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第3章 ─泡沫の姉弟編─
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第4話 陸と海

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

1

あの川柳の事件から翌日。


街の真ん中を、木札を首から下げたカケルが堂々と歩いていた。

そこにははっきりとした字で――


「私は次期当主を貶しました」


ユウは横で歩きながら、何度目かのため息をついた。

「……ほんとに、恥ずかしくないの?」

「全っ然っ!」


カケルはケラケラ笑いながら木札を軽く叩く。

「むしろ、これぶら下げてると注目されて目立ちますし、私としては悪くありません」

「そんな開き直り方ある……?」


ユウは困惑を隠せなかった。


するとカケルが急に身を寄せ、声をひそめてきた。

「実はですね……」

「え?」


懐から財布をちらりと見せる。カケルが財布を振ると、チャリンチャリンという音から、中に小銭が沢山入っていることが分かる。。

「これでさ、映画館いきませんか?」

「えっ!? 今の格好で!?」


ユウは目を丸くする。

けれどカケルは悪びれるどころか、いたずらっぽく笑って言った。


「むしろ最高でしょう?“罪を背負いながら映画を楽しむ男”って、格好良いじゃないですか?」

「かっこよくない!」


慌てるユウを横目に、カケルはもう映画館の方向へ歩き出していた。

木札を揺らしながら、足取りは軽やかに。


ユウは頭を抱えながらも、仕方なく後を追うのだった。


2

一方その頃。


ミチルは机に向かい、腕を組んでいた。

「……カケルは、少しは反省しているかしら」


ふてくされたように吐き出される言葉に、ケイは一瞬だけ視線を泳がせる。

(いやぁ……今まさに罰を“逆手に取って”遊んでますよ、とは……言えないな)


スマホ越しに全て把握しているだけに、苦笑いするしかない。


「まあ……彼なりに、学んでいる最中かもしれませんね」

「そうだといいけれど」


ミチルは眉をひそめ、ため息をついた。


ケイは話題を切り替えるように、手元の教材を開いた。

「さて、今日の授業ですが――陸の主な国家について学んでもらいます」

「国家……?」


ミチルがわずかに眉を上げる。

ケイは頷き、ゆっくりと話し始めた。


「陸にはいくつもの国が存在します。それぞれに歴史、文化、政治の仕組みがあり……深桜が今後どう立ち回るかを考える上で、避けては通れない知識です」


ミチルは渋々、視線をノートに落とした。

その横顔は、「嫌だがやらねばならない」と言わんばかりに固く結ばれている。


ケイはそんな彼女の素振りを見て、小さく息を吐いた。

(嫌悪を抱きながらも……背負うものがあるから受け入れている。責任を重く持っているのだな。)


3

暗闇の中、巨大な怪獣が咆哮を上げる。

波がスクリーンから飛び出してきそうなほど荒れ狂い、都市は一瞬で崩れ去る。


ユウは目を丸くして、身を乗り出していた。

「うわ……! 動いてる、本当に動いてるみたいだ!」


タイガでは決して見られない、光と音と迫力に包まれた映像。

その全てが彼の胸を高鳴らせた。隣でカケルも手に汗を握りながら、時折ユウの反応を見ては楽しそうに笑う。


上映が終わると、二人は余韻に浸ったまま近くのカフェへ向かった。

店内の窓辺に腰かけ、揺れるランプの光が二人を包む。

カケルが真剣な顔で問いかけた。


「……陸には、今日みた映画みたいに、面白いもものがいっぱいあるのですか?」


ユウは少し目を伏せ、温かいカップに息を吹きかける。

頭の中に浮かんできたのは――雪深い村で、必死に文字を勉強して悪徳役人の正体を見破った少年・ヴラスの姿。

農業都市モコシュスカヤで、威厳を放ちながらも亡き友人を思い続けていた魔女イヴァンカ。

煌びやかな光で飾られた白無窮にてアイドルゲームの舞台で輝きを求めていたハナとピッピ。


ひとつひとつの景色が、鮮やかに胸の奥に蘇る。


ユウはふっと笑みをこぼした。

「……ここもすごいけど、あっちも――もっとすごいところがあるんだ。人も、町も……ぼくに色んなものを教えてくれた」


彼の声には懐かしさと誇らしさが入り混じり、温かく響く。


カケルはそんなユウの横顔をじっと見つめ、目を輝かせる。

「……いいな。私も、いつか見てみたいです。その“すごいところ”というものを」


ユウの心に広がる陸の記憶と、カケルの陸への憧れが交わる。

その瞬間、二人の距離はひとつ縮まった。


4


ミチルの部屋。

机の上に並んでいた分厚い本を、使用人が音を立てぬよう片づけていく。


「では、本日の授業はここまでです」

静かに一礼したケイが退室し、扉が閉ざされる。


残されたのは、ランプの柔らかな光と、静まり返った空気だけ。

ミチルは背もたれに身を預け、深く目を閉じた。

長い吐息が、緊張で張り詰めた空気を少しだけ解いた。


(……陸の作法なんて、どうでもいい。余所者の文化なんて、知りたくもない)


胸の奥でくすぶる嫌悪を押し殺し、彼女は唇をかすかに動かす。


「――けれど。これもすべて……あの子のため」


その言葉は誰に聞かせるでもなく、暗い部屋の中に静かに溶けていった。


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