第4話 陸と海
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
あの川柳の事件から翌日。
街の真ん中を、木札を首から下げたカケルが堂々と歩いていた。
そこにははっきりとした字で――
「私は次期当主を貶しました」
ユウは横で歩きながら、何度目かのため息をついた。
「……ほんとに、恥ずかしくないの?」
「全っ然っ!」
カケルはケラケラ笑いながら木札を軽く叩く。
「むしろ、これぶら下げてると注目されて目立ちますし、私としては悪くありません」
「そんな開き直り方ある……?」
ユウは困惑を隠せなかった。
するとカケルが急に身を寄せ、声をひそめてきた。
「実はですね……」
「え?」
懐から財布をちらりと見せる。カケルが財布を振ると、チャリンチャリンという音から、中に小銭が沢山入っていることが分かる。。
「これでさ、映画館いきませんか?」
「えっ!? 今の格好で!?」
ユウは目を丸くする。
けれどカケルは悪びれるどころか、いたずらっぽく笑って言った。
「むしろ最高でしょう?“罪を背負いながら映画を楽しむ男”って、格好良いじゃないですか?」
「かっこよくない!」
慌てるユウを横目に、カケルはもう映画館の方向へ歩き出していた。
木札を揺らしながら、足取りは軽やかに。
ユウは頭を抱えながらも、仕方なく後を追うのだった。
2
一方その頃。
ミチルは机に向かい、腕を組んでいた。
「……カケルは、少しは反省しているかしら」
ふてくされたように吐き出される言葉に、ケイは一瞬だけ視線を泳がせる。
(いやぁ……今まさに罰を“逆手に取って”遊んでますよ、とは……言えないな)
スマホ越しに全て把握しているだけに、苦笑いするしかない。
「まあ……彼なりに、学んでいる最中かもしれませんね」
「そうだといいけれど」
ミチルは眉をひそめ、ため息をついた。
ケイは話題を切り替えるように、手元の教材を開いた。
「さて、今日の授業ですが――陸の主な国家について学んでもらいます」
「国家……?」
ミチルがわずかに眉を上げる。
ケイは頷き、ゆっくりと話し始めた。
「陸にはいくつもの国が存在します。それぞれに歴史、文化、政治の仕組みがあり……深桜が今後どう立ち回るかを考える上で、避けては通れない知識です」
ミチルは渋々、視線をノートに落とした。
その横顔は、「嫌だがやらねばならない」と言わんばかりに固く結ばれている。
ケイはそんな彼女の素振りを見て、小さく息を吐いた。
(嫌悪を抱きながらも……背負うものがあるから受け入れている。責任を重く持っているのだな。)
3
暗闇の中、巨大な怪獣が咆哮を上げる。
波がスクリーンから飛び出してきそうなほど荒れ狂い、都市は一瞬で崩れ去る。
ユウは目を丸くして、身を乗り出していた。
「うわ……! 動いてる、本当に動いてるみたいだ!」
タイガでは決して見られない、光と音と迫力に包まれた映像。
その全てが彼の胸を高鳴らせた。隣でカケルも手に汗を握りながら、時折ユウの反応を見ては楽しそうに笑う。
上映が終わると、二人は余韻に浸ったまま近くのカフェへ向かった。
店内の窓辺に腰かけ、揺れるランプの光が二人を包む。
カケルが真剣な顔で問いかけた。
「……陸には、今日みた映画みたいに、面白いもものがいっぱいあるのですか?」
ユウは少し目を伏せ、温かいカップに息を吹きかける。
頭の中に浮かんできたのは――雪深い村で、必死に文字を勉強して悪徳役人の正体を見破った少年・ヴラスの姿。
農業都市モコシュスカヤで、威厳を放ちながらも亡き友人を思い続けていた魔女イヴァンカ。
煌びやかな光で飾られた白無窮にてアイドルゲームの舞台で輝きを求めていたハナとピッピ。
ひとつひとつの景色が、鮮やかに胸の奥に蘇る。
ユウはふっと笑みをこぼした。
「……ここもすごいけど、あっちも――もっとすごいところがあるんだ。人も、町も……ぼくに色んなものを教えてくれた」
彼の声には懐かしさと誇らしさが入り混じり、温かく響く。
カケルはそんなユウの横顔をじっと見つめ、目を輝かせる。
「……いいな。私も、いつか見てみたいです。その“すごいところ”というものを」
ユウの心に広がる陸の記憶と、カケルの陸への憧れが交わる。
その瞬間、二人の距離はひとつ縮まった。
4
ミチルの部屋。
机の上に並んでいた分厚い本を、使用人が音を立てぬよう片づけていく。
「では、本日の授業はここまでです」
静かに一礼したケイが退室し、扉が閉ざされる。
残されたのは、ランプの柔らかな光と、静まり返った空気だけ。
ミチルは背もたれに身を預け、深く目を閉じた。
長い吐息が、緊張で張り詰めた空気を少しだけ解いた。
(……陸の作法なんて、どうでもいい。余所者の文化なんて、知りたくもない)
胸の奥でくすぶる嫌悪を押し殺し、彼女は唇をかすかに動かす。
「――けれど。これもすべて……あの子のため」
その言葉は誰に聞かせるでもなく、暗い部屋の中に静かに溶けていった。




