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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第3章 ─泡沫の姉弟編─
33/38

第2話 会話

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

1

 夜の嫦月国。

 石蛇家の屋敷は、海の底らしい柔らかな光に包まれていた。廊下にほとんど人の気配はなく、静まり返っている。


 その静けさの一角だけ――子どもの笑い声が漏れていた。


 カケルの部屋。

 二人は並んで布団に腰を下ろし、深桜式の薄手の寝間着に身を包んでいた。


「えっ、それで、ユウのお父様、倒れてたのですか?」

 カケルが目を丸くし、勢いよく身を乗り出す。


「うん。タイガの森の中でね。冬だったからすごく寒くてさ、もう雪に埋もれかけてたんだって」

 ユウは、どこか誇らしげに笑う。


「それを、ユウのお母様が?」


「そう! そのまま自分の家――いや、小屋に連れて帰って、看病したんだって。そしたら父さんが……」


「それはもう、物語じゃないですか! いいなぁ、そういうの!」

 カケルは布団の上でぱたぱたと足を動かし、声を上ずらせた。

 普段は屋敷からほとんど出ない彼にとって、それは異世界の出来事のように聞こえるのだろう。


 二人の笑い声が、波の音のように部屋を満たす。


 ――ガラリ。


 障子が静かに開き、白髪を後ろで結った青年・ケイが姿を現した。

 丸めの黒い瞳が二人を見やり、柔らかく口を開く。


「声が廊下まで聞こえているよ。そろそろ休む時間だ」


 その声音は叱るというより、包み込むような静けさを帯びていた。

 ユウは「あ…」と気まずそうに頭をかき、渋々立ち上がる。


「わかった。じゃあ、また明日ね」


「うん! 明日、もっとお話聞かせてください!」

 カケルが小声で返す。


 ユウは用意されたゲストルームへと戻り、

ケイは一度障子を閉める。

 だがその足は、真っ直ぐ自室へ向かうことはなかった。


 ――静まり返った廊下を、一定の足取りで進む。

 行き先は、この屋敷の中でも限られた者しか入れない、ある場所だった。


2

ケイは人影のない廊下を抜け、石蛇家の奥深く――外界と切り離された小さな部屋へ入った。

 壁には珊瑚の装飾、天井には青白く揺れる光。

 そこに、すでにリンがいた。


「来たわね、ケイ」

 彼女はいつもの飄々とした店主の顔ではなく、鋭い目つきでケイを迎える。


「……ああ」

 短く返す声は、カケルやユウに見せる柔らかさを完全に消していた。

 表情は冷たく、瞳の奥には機械のような無機質さがのぞく。


 ケイ――いや、その中身はユウのスマホ。

 白無窮で遠隔機能を解放して以来、リンはその通信の揺らぎに気づき、逆探知して接触してきた。

 そして取引を持ちかけたのだ。


 追っ手を撒くための撹乱をしてやる。加えて、ユウを直接守れる身体も与える。

 その代わり、深桜で一定期間、嫦月国の次期当主に家庭教師をしろ。


 その契約に、スマホは迷わず承諾した。


「で、進捗は?」

 リンが片肘をつきながら問う。


「次期当主様の性格は予想よりも固い。だが、陸の文化に興味はあるらしい。あと数日で信頼の糸口は掴める」

 ケイの声は感情の波をほとんど含まない。それが逆に、確かな計算を感じさせる。


 リンは小さく頷き、指先でテーブルをとんとんと叩いた。


「……そうそう。ヘレンの居場所を白無窮の特殊部隊に流したの、もしかして、あなた?」

 唐突に放たれた言葉。

 その瞳は笑っていない。


 ケイは一拍の間を置き、口角だけをわずかに上げる。


「――さあな」


 それ以上は何も言わず、立ち上がる。

 水の光が長い白髪を淡く照らし、扉の向こうへと消えていった。


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