第0話 閉鎖
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
「……先ほど、リン様より音声連絡が届いております」
透明な貝殻でできた通信端末が、小さな震えとともに微かな光を放つ。
その場にいた女中のひとりが、丁寧に身を屈めてから、録音された音声を流した。
――『このたび、ミチル様のために“陸の文化・教養・マナー”をお教えできる適任の家庭教師を手配いたしました。陸で生まれ育ち、実に有能な青年です。ご期待ください』
声の主は、リンという名の商売魔女。
深桜でも怪しげな商いをすることで知られた人物だったが、なぜか彼女は石蛇家とも浅からぬ縁を持っていた。
貝殻の音声が止まる。
ミチルはゆっくりと、仮面越しの視線を、部屋の向こうの水の窓へ向けた。
そこは壁のような水圧に守られながら、人工光に照らされた海底都市を見下ろせる場所――
だが、彼女の視線はさらにその先、遥か上にある“陸の世界”を意識していた。
「……余所者が、来るの?」
誰に向けたわけでもない呟きだった。
仮面の下、ミチルの口元にわずかな嫌悪が浮かぶ。
海の民――とくに石蛇家のような名家の血を引く者たちは、生まれながらに“陸”に対して明確な境界を引いて生きていた。
体内に巡る水圧の適応細胞、微細な感覚毛、柔らかく発光する皮膚。
なにより、“石化の眼”を持つ一族としての誇りと孤独。
そんなものを、陸の人間に理解されるはずがない。
「文化、教養、マナー……?」
ミチルは小さく鼻を鳴らした。
「誰が誰に、何を教えるというの」
窓の向こう、ゆらめく水と光の狭間に、人工太陽が照り始めていた。
今日もまた、泡の中で始まる一日。
陸の者の足音が、もうすぐこの“静けさ”を破ろうとしていることに、彼女は小さな苛立ちを覚えていた。
君のためなら、何でもできる
第3章─泡沫の姉弟編─




