第3話 リテラシー
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
風が、静かに木々を揺らしていた。
昼を過ぎた太陽は西に傾き、苔むすタイガの大地に長く細い影を落としている。
「《危険猛獣区域──立ち入り非推奨》」
木製の看板が、朽ちかけた文字を辛うじて伝えていた。
それを読み取ったのは、ユウだった。
「……こっちは、だめだ。猛獣がいるって」
ユウはスマホの主人公に向かって、慎重な目で言った。
画面に文字が浮かぶ。
《別ルートにする?》
「うん。遠回りでも、安全なほうがいいと思う……!」
ユウはまだ小柄で、どこか儚い印象を残す少年だ。
けれども、彼の判断は落ち着いていて的確だった。
この過酷な森で、ひとり生き延びてきたその気配が言葉の端々に滲んでいる。
けれど──その時だった。
森の奥から、叫び声が響いた。
「たすけてえええええ!!」
ユウの足が止まる。
その目が、鋭くなる。
「……行かなきゃ!」
振り返ることなく、ユウは声のする方へ駆け出していた。
スマホの主人公も、ユウのポケットの中で急いでメッセージを表示する。
《まって、確認してから──!》
「だめ! 誰かが、死んじゃう!」
その声に、迷いはなかった。
森の茂みをかき分け、ユウは一直線に飛び込んでいく。
──それが、この旅の新たな出会いの始まりだった。
2
猛獣──タイガ・ベアウルフが咆哮する。
少年をかばうように、ユウが一歩、前に出た。
「やああああああっ!!」
小柄な体に似合わぬ勢いで、ユウは手にした木の棒を振り下ろした。
獣のこめかみ~的確に狙う。
ガンッ!!
獣がよろめき、前足を折ってその場に崩れ落ちる。
「……き、気絶した?」
スマホの画面が光る。
《やるじゃないか、ユウ》
少年は呆然と、ユウを見ていた。
「お、おまえ……すげぇ……」
ユウは息を整えながら、獣の胸あたりを向ける。
「……あった」
そこには、宝石のように輝く結晶のようなものが、
皮膚の表面に半ば露出する形で埋まっていた。
「……じゃあ、取るね」
ユウはポーチから道具を取り出す。
ナイフと、密閉容器。
まだ幼い手つきだが、動きに迷いはない。
ゴリッ……という音とともに、結晶が根元から切り離された。
結晶は、ほのかに淡い光を灯しながら、
次第にその輝きを失っていく。
ベアウルフは二度と目を覚まさなかった。
《……それは、何?》
ユウは静かに答える。
「生き物はね、これを一つだけ持ってる。地上で生きてる限り、必ず」
《どんな役目があるの?》
「魔法を使うための“核”。これがあるから、火を出したり、風を操ったりできるんだって」
ユウは容器の中の結晶___魔核を見つめながら、静かに言う。
「……でもね。これを取っちゃうと、ほとんどの生き物は死ぬ」
《……つらくないの?》
「うん。でも、お母さんに教わったんだ。生きるためには、命を頂く覚悟がいるって」
少年が、まだ信じられないような目で2人を見ている。
「すげぇよ……おまえ、ホントに子供か……?
あぁ、自己紹介遅れた!オレはヴラス!おまえは?」
「ぼくはユウ。よろしく。」
その直後、2人のお腹が同時になる。
ユウは小さく笑い、「おなかすいた」と言った。
スマホに《夕飯にしよう》と表示される。
「やった!」
ユウは嬉しそうに獣の体を解体し始めた。
その様子を見て、ヴラスはポツリとつぶやいた。
「……オレ、火とかもつけられねぇし、字も読めねぇし、なんか……情けねぇな……」
ユウが不思議そうに彼を見つめた。
3
焚き火の明かりが、静かなタイガの夜を照らしていた。
肉が焼ける音と、ぱちぱちと薪が弾ける音が心地よく耳に残る。
「……うめえ!」
ヴラスは頬をいっぱいにして、串焼きにかぶりついた。
「こんなやべー牙持ってるくせに、うめーとか……こいつ、食われて本望だな」
ユウはくすっと笑いながら、スマホをそっと取り出す。
「ほんとにね。ぼくたち、ありがたくいただこう」
「へへっ。あ、そういやさ……」
ヴラスはユウの手元をのぞきこんで、スマホに表示された文字を見た。
「おまえさ、そのへんな板に書いてあるの、読めんのか?」
ユウはこくんと頷く。
「すっげえ……。文字、読めるんだな……!」
ヴラスの目がまんまるになる。
「オレの知ってるところで字が読めるのって、村長のおばば様か、お貴族様くらいだぜ。おまえ、もしかして……貴族の子か?」
ユウは少し首を横に振る。
「ぼくは貴族じゃないよ。でも、父さんは、昔、貴族の家に生まれたんだって」
「……マジで?」
「うん。でも、おじいちゃんに家を追い出されたって、母さんが言ってた。だから、ぼくたちは、ふつうの家族だよ。」
「ふーん……それでも字を教えてもらえるって、すげえな」
ユウは優しい目でヴラスを見て、またスマホに言葉を綴った。
「父さんも母さんも、ぼくにいろんなことを教えてくれたんだ。文字の読み方も、生きるためのことも。」
ヴラスは焚き火の火をじっと見つめる。
「オレんとこじゃさ、そんなこと教えてくれる人いなかった。オレも、読めるようになりてえな……そしたら、このへんな板の言葉もわかるんだろ?」
ユウはにっこり笑って、そっとスマホを傾けてみせる。
「もしよかったら、すこしずつ、一緒に勉強しようか」
ヴラスは驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりと、でも確かに笑った。
「……へへ。おまえ、やっぱりすげーや。よろしくな、ユウ」
焚き火の明かりが、ふたりの影を優しく照らしていた。
4
朝の空気は肌に刺さるように冷たく、焚き火の残り火がぱち、と乾いた音を立てた。
「……生きてる」
ヴラスがつぶやくように言って、集めた落ち葉から抜け出す。ユウもその隣で身体を起こした。
「おはよう。大丈夫? 体、どこか痛いとかない?」
「ん、へーき。あんなでかい獣に襲われたあとにしては、な!」
ヴラスはそう言って、元気そうに肩を回す。
「でも、ユウ……お前、すげぇな。怖くなかったのか? あんな化け物に向かっていくなんて」
ユウは少し考えてから、穏やかに笑った。
「怖かったよ。でも、叫び声が聞こえたとき……助けなきゃって思ったんだ。多分、母さんだったら同じことしたと思う」
「……そっか」
ヴラスはしばらくユウの顔を見つめ、それからぽつりと言った。
「なあ、行くあてとかあるの?」
「……ううん。今は、特には」
「だったらさ、オレの村、来てみねぇ? そんなに栄えてるとこじゃねぇけど、人は悪くねぇんだ」
ユウは驚いた顔をして、それからふっと笑って、こくんと頷いた。
「うん。行ってみたい」
「よっしゃ! ちょっと歩くけど、案内するぜ!」
ヴラスはどこか嬉しそうに立ち上がり、荷物を背負う。ユウもそれにならって支度を整えた。
「……ねえ、ヴラス」
「ん?」
「昨日の夜、火のそばで話してたとき……君が笑ってくれて、嬉しかった。家族以外と一緒に食べるご飯って、あんなに美味しいんだって、初めて知ったかも」
ヴラスは顔を真っ赤にし、後ろを向いて頭をかいた。
「べ、別にオレ、何もしてねぇよ。ただ……そう思ってくれるなら、オレも嬉しいけどさ」
ふたりは森の中を並んで歩いていく。
朝の光が差し込み、霧がゆっくりと晴れていく。
その向こうに――小さな村の屋根が見えてきた。
「ほら、あれがオレの村! 家はボロいし、村長のばばさまはうるせぇけど……ちゃんと飯はあるぞ」
「ふふ、楽しみ」
ユウの笑顔に、ヴラスも自然と口元を緩めた。
寒い朝に、ふたりの足音だけが静かに森に響いていた。