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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
29/45

第14話 闇を打ち消す双星の輝き

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

 「いくよ、ピッピ」

 「うん、ハナ!」


 瓦礫の上に立ったふたりは、まるで光そのもののように輝いていた。ユウはスマホをしっかりと両手で持ち、カメラを向ける。端末は自動で構図を整え、光の演出や音響効果までも最適化していく。


 画面の中でハナとピッピが歌い始めた瞬間、信号は世界へと放たれた。


 ――ちいさな希望が ひかりになる

 ――とおくのきみへ とどけたい


 その映像と音は、瞬く間に国中のテレビ、ラジオ、モニターへと映し出された。避難所の片隅にある古いテレビ、緊急放送を流していたラジオ、交通案内用の電光掲示板――あらゆる場所にふたりの姿が投影された。


 はじめ、人々の反応は冷ややかだった。


 「こんな時にアイドルの歌かよ……」「ふざけてるのか……?」

 誰もが不信と怒りの目で画面を見つめていた。


 だが――


 その中に、ひとりの少女がいた。背中に赤子を背負い、避難所の隅で毛布にくるまりながら画面を見ていた彼女は、ハナとピッピを応援していた桃木蘭出身の少女だった。血のつながらない我が子を守るように抱きながら、ぽつりと呟く。


 「あぁ……あの二人だ……」


 忘れることも出来ない、偽りの祭典で、どんな子よりも輝いていた二人。少女の目から、涙がこぼれた。


 その放送は、別の場所にも届いていた。

 大手アイドル事務所の社長室――誰もいないはずのオフィスで、非常用モニターにふたりの姿が映し出される。冷徹で知られていた女性社長は、眼鏡を外し、モニターに顔を向けた。


 「……あなたたち、本当にやるのね……あんな状況で」


 彼女は二人に注目し、自らエールを送った張本人だった。

 期待と同時に、どこかで「無理だ」とも思っていた。

 だが今、その歌声が、確かに人の心を震わせていることに気づいてしまった。


 少しずつ――だが、確かに変化が起きていた。


 避難所の人々の表情がやわらぎ、モニターの前に集まり始める。誰かが泣き、誰かが笑い、誰かが口ずさみ始めた。


 その瞬間だった。


 「怪物が……減速している!?」

 都市部で応戦していた特殊部隊の通信がざわめく。


 「一斉に動きが鈍ってる!」

 「何が起きた……いや、まさか、今流れてる……?」


 兵士の一人が指さした先、現場用の簡易モニターに映るのは、希望を背負って歌うハナとピッピの姿。


 その姿は、誰かの心に残っていた“光”を揺さぶった。


 恐怖に塗りつぶされた世界に、ほんの一滴、色が戻ってくる。

 次第に、国中で怪物の動きが止まり、ひとつ、またひとつとその体が崩れていく。


 そして――


 すべての怪物が、完全に姿を消した。


 重苦しい黒雲が風に流れ、空の色が戻っていく。

 静寂の中、モニター越しに誰かがつぶやいた。


 「……ありがとう……」


 その言葉は、まるで波紋のように、人から人へと伝わっていった。


2

怪物がすべて消えたあと、空には、久しぶりに――本当に久しぶりに、青空が広がっていた。


 黒煙も、うねる闇も、もうどこにもない。

 ただ、澄みきった青と、やわらかな陽の光だけが、崩れた街を静かに照らしていた。


 「……終わったんだね」


 ユウがぽつりと呟く。


 ハナとピッピは、そっと顔を見合わせ、ゆっくりと深呼吸した。先ほどまでまとっていたきらびやかなアイドル衣装は、まるで魔法が解けたかのようにふわりと消え、ふたりはいつもの、見慣れた普段着の姿に戻っていた。


 ユウのスマホはすでに静かになり、電波の波すらも、穏やかに揺れている。


 その時、足音が聞こえた。


 「よお、おつかれさん。よく頑張ったな」


 埃まみれの軍用ジャケットを羽織った男が、笑いながら姿を見せた。

 ふたりの元バイト先の店長であり、現在は避難所の臨時司令官を務めていた人物だ。


 「店長!」


 ハナとピッピが駆け寄ると、店長はふたりの頭をぽんぽんと軽く叩いた。


 「泣きたいぐらいすげーぞ、お前ら。さ、もう安全な場所に案内するから、帰るぞ」


 瓦礫を踏みしめながら歩き出す3人と1人。ユウはふたりのすぐ後ろを歩きながら、ふと思いついて問いかけた。


 「ねぇ……これからも、アイドル、やるの?」


 ふたりは足を止めた。


 そして、同時に、静かに首を横に振った。


 「ううん、もうやらないよ」

 「だって、願い星よりも、大切なものができたから」


 そう言って、ふたりはユウの方を見た。

 それはきっと、家族のような絆だったり、自分で選んだ生き方だったり、名前のない“なにか”だったけれど――ユウには、ちゃんと伝わった。


 「……そっか」


 返事をしたユウの顔に、ようやく笑顔が戻る。


 そして、ふたりもつられて笑った。店長も笑った。

 瓦礫の道の先には、陽の光が差し込んでいた。


 世界はまだ壊れたままだ。でも、その中で――彼らの歩みは、確かに新しい未来へと続いていた。


3

崩れた都市の、ひときわ高い瓦礫の山の上。

 燃え跡の残るコンクリートの破片に腰を下ろし、ヘレンは一人、沈黙の中にいた。


 かつて手にしかけた「新しい秩序」。

 魔力を持つ女性たちを集め、旧体制をひっくり返すはずだった夢――それは、たったひとつの歌に、呆気なく砕かれた。


 「……何が、“希望”よ」


 自嘲気味な呟きとともに、ヘレンの口元が歪む。


 その時だった。背後から、ヒールの音がゆっくりと近づいてくる。

 振り返らずとも、誰かを察したように、ヘレンの目が細まった。


 「まさか、こんなところで再会するなんてね。サラ」


 「ええ。こんな瓦礫の上でじゃなければ、もっと楽しく会話できたのに」


 かつては伝説のアイドルだった大手アイドル事務所の社長、サラ。

 ピンヒールの汚れも気にせず、まっすぐにヘレンの隣まで歩み寄った。


 ふたりは、大学時代の旧友だった。


 「ふふ。ほんと、変わらないわね、あなた。昔から真っすぐすぎて、憎らしかった」


 「あなたは……昔から、何でも手に入れる人だった。美しさも、才能も、人の信頼も」


 ヘレンは肩をすくめる。


 「……私は魔力の高い女だけを集めて、自分の理想を叶えようとした。でもさ、まさか、魔力の強い“男の子”がいるなんて、思ってなかったのよ」


 「まさか...あの二人を裏で支えていた子?」


 「ええ。ステージの最前列にいるところをね。瓦礫で潰そうとしたの。あの願い星の力が、もし彼を通じて広がるなら、いちばんの要因を排除するのが、効率的だったわけ」


 サラは、表情を凍らせた。


 「あなたが……自ら手を穢すなんて。あの頃のあなたなら、そんな真似――」


 「もうとっくに、穢れてる」


 ヘレンの声がかすかに震えていた。


 「私、卒業のときに知ったの。両親が大学に賄賂を払って、私を合格させたこと。努力なんて、全部……意味なんてなかった。私はその夜、両親を――自分の手で、殺したの」


 静寂。


 サラは何も言わなかった。ただ、静かに目を伏せた。


 「あなたが羨ましかった……。努力して、才能を磨いて、そしてそれが世界に認められていった。……私がいくら魔力を高めても届かなかった場所に、あなたは立っていた」


 次の瞬間だった。


 ヘレンの指先が、静かに輝き始める。

 手のひらに、濃密な紫の魔力が集まり、サラの方へと向かおうとする。


 「ごめんね、でも……最後くらい、認めてほしかったの。私を」


 ――スッ。


 鈍い音とともに、何かが彼女の胸に突き刺さった。


 「……っ、ぁ……?」


 胸元を見ると、そこには短い毒矢。

 ヘレンの体から魔力が、一瞬にして消え失せていく。


 「魔核の……封鎖……」


 膝から崩れ落ちるように倒れたヘレンの背後に、黒い装備に身を包んだ数名の特殊部隊が現れた。


 「テロ首謀者、ヘレン。討伐完了。」


 無感情な声が、瓦礫の上に響いた。


 「残存魔力、確認不能。対象、生死確認中。生存反応なし。保護対象確保へ移行」


 サラの前に立ちはだかるように、兵士の一人が声をかけた。


 「サラ社長。こちらで安全圏まで護送します」


 「……ありがとう」


 サラはゆっくり頷きながら、倒れたヘレンの方へと一歩だけ歩み寄った。


 友人だった。その結末に、自らが関わったことの痛みは、無視できるほど小さくなかった。


 「ヘレン……」


 呟いたその声は、かき消されるように風に乗って消えた。


 瞳に、ひとすじの涙が光った。


4

仮設テントの避難所には、束の間の穏やかな笑い声が広がっていた。

 バイト先の店長を囲んで、ユウ、ハナ、ピッピの3人は、ほんの少し前までの修羅場が嘘のように談笑していた。


 「いやぁ、でもほんと……まさかあんな形でステージになるとはねぇ」


 「店長、あたしたち、まだバイトの給料もらってないんですけど」


 「おう、それは安全になったらな! 今の通貨、信用ないからな!」


 笑いがこぼれたそのとき――


 「おっ、ここでしたか~やっと見つけましたよ、まったくもう~。ご本人登場っと」


 テンポの外れた飄々とした声が、テントの入り口から飛び込んできた。


 ふと振り向くと、ボサボサの癖毛を無造作に撫でつけた、記者風の男が立っていた。薄く笑いながら、どこか芝居がかった身振りで一礼する。


 「ごめんなさいね、報道のフリして入り込んじゃって。でもほら、こうでもしないとたどり着けないっていうか~。まぁ、それも命令ですし」


 「……誰?」


 ハナが思わず立ち上がると、男はポケットから金属製のプレートをちらりと見せた。


 「どうも、シブロドヴァです。どこにでもいるちょっと癖毛な公務員です。さて、ユウさん?」


 名前を呼ばれたユウは、ぴくっと肩を震わせた。


 シブロドヴァはどこか他人事のように、ユウの顔を見つめてから言った。


 「お父様が、ご心配なさっております。……ご帰宅、お願いしますね? あ、命令とかじゃなくて。ほんと、お願い」


 「……え~……」


 ユウはわざとらしく口を尖らせて、目をそらした。


 「……わかったよ、行けばいいんでしょ……ちょっとだけだからね……」


 「えええ~!ちょっとだけ!? いや、まぁいいですけどね。柔軟にやりましょう。どうせ説得しきれな――」


 その時、風が変わった。


 「ごめんなさいねっ!」


 まるで舞台の演出のように、突然暗幕のような黒い布が投げ込まれ、視界を遮った。


 「えっ!? なに――!?」


 ユウの身体がすっと宙に浮いた。驚くシブロドヴァが布をはねのけた時、すでにユウの姿は瓦礫の影へと消えていた。


 「――なにこれ!? ……まさか、誘拐!?」


 ピッピが叫び、ハナも駆け出す。


 瓦礫の上に、その姿が見えた。

 かつて雑貨屋にてユウにお守りを与えた店主――リン。


 「ユウ!?」


 「ユウっ!」


 リンは懐かしそうに微笑んだ。


「リン……さん……? なんで……」


 「ある人に頼まれちゃったの。大丈夫、都へ連れていくだけだから。」


 そして、何の迷いもなく背を向け、瓦礫の向こうへと姿を消した。


 シブロドヴァは小さく溜息をついた。


 「いや~……まじか……。これ、監査官長にどう報告すればいいんだ……」


 そして癖毛をくしゃくしゃとかき上げた。


5

澄み切った空の下、かすかに崩れた瓦礫の影から、数人の黒ずくめが現れた。

 国章を背負う特殊部隊、その中でも最前線に立つ選りすぐりの精鋭たちだ。


 彼らは迷うことなく、仮設のテントの裏手――エプロン姿の男の前に整列した。


 「司令官殿、報告いたします」


 淡々とした声とともに、一人の隊員が一歩前に出る。


 「テロ組織“ヘレン”の討伐、完了しました。これもすべて、司令官の事前命令の的確さあってこそ。我々は指示通り、即時討伐に移りました」


 「……は?」


 報告を受けた男――バイト先の店長は、タバコの箱をポケットでいじりながら、あからさまに眉をひそめた。


 「ちょっと待て、俺は“見つけたら始末しろ”っつっただけだぞ? “どこにいるか”なんて、言った覚えはねぇし、知りもしてねぇ」


 隊員たちの間に、目に見えない波紋が走った。

 数人が無線機を確認しはじめ、隊長格の男が戸惑いを隠せない様子で眉をひそめる。


 「……通信記録によれば、首謀者の正確な位置が、任務開始の約3分前にチャンネルC-4にて伝達されています。しかし、それが司令官殿でないとすれば……」


 「じゃあ誰だってんだよ」


 店長はそう言うと、ため息混じりにタバコを一本引き抜いた。


 「……ま、俺は言ってない。それが事実だ。記録があるなら、それ照合すればいい。どこの誰が“余計な口出し”したのか、な」


 その言葉に、特殊部隊は沈黙で応じた。



 ――同時刻。

 正義の国、ソニャシニク。


 吹きすさぶ風が窓を叩く、重厚な一室。

 空気は静まり返っていた。


 机の上には整然と並べられた紙束と通信機。

 その通信機が、低く唸るように鳴り続けていた。


 《……繰り返します。対象“ユウ”が奪取されました。犯人は丹梅出身、女性、名前はリン。瓦礫地帯より退避、現在の進行先不明……》


 椅子に腰掛けていた男は、動かなかった。


 まっすぐに前を見据え、無言のまま報告を聞いていた。


 整えられた髪。重々しい軍服。その目には冷徹と知性が宿っている。

 だが、その奥底に一瞬だけ――僅かな揺れが走った。


 その男は、ロスティスラフ。

 名を語ることなく、背中で全てを語る存在。


 彼はゆっくりと立ち上がり、外套に腕を通す。

 デスクの端に置かれた小さな絵__かつてユウが書いた家族の絵。

 それを一瞥すると、彼は通信機を手に取った。


 「……タイガへ向かう」


 その言葉だけを残して、ロスティスラフは扉を開け、風の中へと歩き出した。


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