第14話 闇を打ち消す双星の輝き
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
「いくよ、ピッピ」
「うん、ハナ!」
瓦礫の上に立ったふたりは、まるで光そのもののように輝いていた。ユウはスマホをしっかりと両手で持ち、カメラを向ける。端末は自動で構図を整え、光の演出や音響効果までも最適化していく。
画面の中でハナとピッピが歌い始めた瞬間、信号は世界へと放たれた。
――ちいさな希望が ひかりになる
――とおくのきみへ とどけたい
その映像と音は、瞬く間に国中のテレビ、ラジオ、モニターへと映し出された。避難所の片隅にある古いテレビ、緊急放送を流していたラジオ、交通案内用の電光掲示板――あらゆる場所にふたりの姿が投影された。
はじめ、人々の反応は冷ややかだった。
「こんな時にアイドルの歌かよ……」「ふざけてるのか……?」
誰もが不信と怒りの目で画面を見つめていた。
だが――
その中に、ひとりの少女がいた。背中に赤子を背負い、避難所の隅で毛布にくるまりながら画面を見ていた彼女は、ハナとピッピを応援していた桃木蘭出身の少女だった。血のつながらない我が子を守るように抱きながら、ぽつりと呟く。
「あぁ……あの二人だ……」
忘れることも出来ない、偽りの祭典で、どんな子よりも輝いていた二人。少女の目から、涙がこぼれた。
その放送は、別の場所にも届いていた。
大手アイドル事務所の社長室――誰もいないはずのオフィスで、非常用モニターにふたりの姿が映し出される。冷徹で知られていた女性社長は、眼鏡を外し、モニターに顔を向けた。
「……あなたたち、本当にやるのね……あんな状況で」
彼女は二人に注目し、自らエールを送った張本人だった。
期待と同時に、どこかで「無理だ」とも思っていた。
だが今、その歌声が、確かに人の心を震わせていることに気づいてしまった。
少しずつ――だが、確かに変化が起きていた。
避難所の人々の表情がやわらぎ、モニターの前に集まり始める。誰かが泣き、誰かが笑い、誰かが口ずさみ始めた。
その瞬間だった。
「怪物が……減速している!?」
都市部で応戦していた特殊部隊の通信がざわめく。
「一斉に動きが鈍ってる!」
「何が起きた……いや、まさか、今流れてる……?」
兵士の一人が指さした先、現場用の簡易モニターに映るのは、希望を背負って歌うハナとピッピの姿。
その姿は、誰かの心に残っていた“光”を揺さぶった。
恐怖に塗りつぶされた世界に、ほんの一滴、色が戻ってくる。
次第に、国中で怪物の動きが止まり、ひとつ、またひとつとその体が崩れていく。
そして――
すべての怪物が、完全に姿を消した。
重苦しい黒雲が風に流れ、空の色が戻っていく。
静寂の中、モニター越しに誰かがつぶやいた。
「……ありがとう……」
その言葉は、まるで波紋のように、人から人へと伝わっていった。
2
怪物がすべて消えたあと、空には、久しぶりに――本当に久しぶりに、青空が広がっていた。
黒煙も、うねる闇も、もうどこにもない。
ただ、澄みきった青と、やわらかな陽の光だけが、崩れた街を静かに照らしていた。
「……終わったんだね」
ユウがぽつりと呟く。
ハナとピッピは、そっと顔を見合わせ、ゆっくりと深呼吸した。先ほどまでまとっていたきらびやかなアイドル衣装は、まるで魔法が解けたかのようにふわりと消え、ふたりはいつもの、見慣れた普段着の姿に戻っていた。
ユウのスマホはすでに静かになり、電波の波すらも、穏やかに揺れている。
その時、足音が聞こえた。
「よお、おつかれさん。よく頑張ったな」
埃まみれの軍用ジャケットを羽織った男が、笑いながら姿を見せた。
ふたりの元バイト先の店長であり、現在は避難所の臨時司令官を務めていた人物だ。
「店長!」
ハナとピッピが駆け寄ると、店長はふたりの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「泣きたいぐらいすげーぞ、お前ら。さ、もう安全な場所に案内するから、帰るぞ」
瓦礫を踏みしめながら歩き出す3人と1人。ユウはふたりのすぐ後ろを歩きながら、ふと思いついて問いかけた。
「ねぇ……これからも、アイドル、やるの?」
ふたりは足を止めた。
そして、同時に、静かに首を横に振った。
「ううん、もうやらないよ」
「だって、願い星よりも、大切なものができたから」
そう言って、ふたりはユウの方を見た。
それはきっと、家族のような絆だったり、自分で選んだ生き方だったり、名前のない“なにか”だったけれど――ユウには、ちゃんと伝わった。
「……そっか」
返事をしたユウの顔に、ようやく笑顔が戻る。
そして、ふたりもつられて笑った。店長も笑った。
瓦礫の道の先には、陽の光が差し込んでいた。
世界はまだ壊れたままだ。でも、その中で――彼らの歩みは、確かに新しい未来へと続いていた。
3
崩れた都市の、ひときわ高い瓦礫の山の上。
燃え跡の残るコンクリートの破片に腰を下ろし、ヘレンは一人、沈黙の中にいた。
かつて手にしかけた「新しい秩序」。
魔力を持つ女性たちを集め、旧体制をひっくり返すはずだった夢――それは、たったひとつの歌に、呆気なく砕かれた。
「……何が、“希望”よ」
自嘲気味な呟きとともに、ヘレンの口元が歪む。
その時だった。背後から、ヒールの音がゆっくりと近づいてくる。
振り返らずとも、誰かを察したように、ヘレンの目が細まった。
「まさか、こんなところで再会するなんてね。サラ」
「ええ。こんな瓦礫の上でじゃなければ、もっと楽しく会話できたのに」
かつては伝説のアイドルだった大手アイドル事務所の社長、サラ。
ピンヒールの汚れも気にせず、まっすぐにヘレンの隣まで歩み寄った。
ふたりは、大学時代の旧友だった。
「ふふ。ほんと、変わらないわね、あなた。昔から真っすぐすぎて、憎らしかった」
「あなたは……昔から、何でも手に入れる人だった。美しさも、才能も、人の信頼も」
ヘレンは肩をすくめる。
「……私は魔力の高い女だけを集めて、自分の理想を叶えようとした。でもさ、まさか、魔力の強い“男の子”がいるなんて、思ってなかったのよ」
「まさか...あの二人を裏で支えていた子?」
「ええ。ステージの最前列にいるところをね。瓦礫で潰そうとしたの。あの願い星の力が、もし彼を通じて広がるなら、いちばんの要因を排除するのが、効率的だったわけ」
サラは、表情を凍らせた。
「あなたが……自ら手を穢すなんて。あの頃のあなたなら、そんな真似――」
「もうとっくに、穢れてる」
ヘレンの声がかすかに震えていた。
「私、卒業のときに知ったの。両親が大学に賄賂を払って、私を合格させたこと。努力なんて、全部……意味なんてなかった。私はその夜、両親を――自分の手で、殺したの」
静寂。
サラは何も言わなかった。ただ、静かに目を伏せた。
「あなたが羨ましかった……。努力して、才能を磨いて、そしてそれが世界に認められていった。……私がいくら魔力を高めても届かなかった場所に、あなたは立っていた」
次の瞬間だった。
ヘレンの指先が、静かに輝き始める。
手のひらに、濃密な紫の魔力が集まり、サラの方へと向かおうとする。
「ごめんね、でも……最後くらい、認めてほしかったの。私を」
――スッ。
鈍い音とともに、何かが彼女の胸に突き刺さった。
「……っ、ぁ……?」
胸元を見ると、そこには短い毒矢。
ヘレンの体から魔力が、一瞬にして消え失せていく。
「魔核の……封鎖……」
膝から崩れ落ちるように倒れたヘレンの背後に、黒い装備に身を包んだ数名の特殊部隊が現れた。
「テロ首謀者、ヘレン。討伐完了。」
無感情な声が、瓦礫の上に響いた。
「残存魔力、確認不能。対象、生死確認中。生存反応なし。保護対象確保へ移行」
サラの前に立ちはだかるように、兵士の一人が声をかけた。
「サラ社長。こちらで安全圏まで護送します」
「……ありがとう」
サラはゆっくり頷きながら、倒れたヘレンの方へと一歩だけ歩み寄った。
友人だった。その結末に、自らが関わったことの痛みは、無視できるほど小さくなかった。
「ヘレン……」
呟いたその声は、かき消されるように風に乗って消えた。
瞳に、ひとすじの涙が光った。
4
仮設テントの避難所には、束の間の穏やかな笑い声が広がっていた。
バイト先の店長を囲んで、ユウ、ハナ、ピッピの3人は、ほんの少し前までの修羅場が嘘のように談笑していた。
「いやぁ、でもほんと……まさかあんな形でステージになるとはねぇ」
「店長、あたしたち、まだバイトの給料もらってないんですけど」
「おう、それは安全になったらな! 今の通貨、信用ないからな!」
笑いがこぼれたそのとき――
「おっ、ここでしたか~やっと見つけましたよ、まったくもう~。ご本人登場っと」
テンポの外れた飄々とした声が、テントの入り口から飛び込んできた。
ふと振り向くと、ボサボサの癖毛を無造作に撫でつけた、記者風の男が立っていた。薄く笑いながら、どこか芝居がかった身振りで一礼する。
「ごめんなさいね、報道のフリして入り込んじゃって。でもほら、こうでもしないとたどり着けないっていうか~。まぁ、それも命令ですし」
「……誰?」
ハナが思わず立ち上がると、男はポケットから金属製のプレートをちらりと見せた。
「どうも、シブロドヴァです。どこにでもいるちょっと癖毛な公務員です。さて、ユウさん?」
名前を呼ばれたユウは、ぴくっと肩を震わせた。
シブロドヴァはどこか他人事のように、ユウの顔を見つめてから言った。
「お父様が、ご心配なさっております。……ご帰宅、お願いしますね? あ、命令とかじゃなくて。ほんと、お願い」
「……え~……」
ユウはわざとらしく口を尖らせて、目をそらした。
「……わかったよ、行けばいいんでしょ……ちょっとだけだからね……」
「えええ~!ちょっとだけ!? いや、まぁいいですけどね。柔軟にやりましょう。どうせ説得しきれな――」
その時、風が変わった。
「ごめんなさいねっ!」
まるで舞台の演出のように、突然暗幕のような黒い布が投げ込まれ、視界を遮った。
「えっ!? なに――!?」
ユウの身体がすっと宙に浮いた。驚くシブロドヴァが布をはねのけた時、すでにユウの姿は瓦礫の影へと消えていた。
「――なにこれ!? ……まさか、誘拐!?」
ピッピが叫び、ハナも駆け出す。
瓦礫の上に、その姿が見えた。
かつて雑貨屋にてユウにお守りを与えた店主――リン。
「ユウ!?」
「ユウっ!」
リンは懐かしそうに微笑んだ。
「リン……さん……? なんで……」
「ある人に頼まれちゃったの。大丈夫、都へ連れていくだけだから。」
そして、何の迷いもなく背を向け、瓦礫の向こうへと姿を消した。
シブロドヴァは小さく溜息をついた。
「いや~……まじか……。これ、監査官長にどう報告すればいいんだ……」
そして癖毛をくしゃくしゃとかき上げた。
5
澄み切った空の下、かすかに崩れた瓦礫の影から、数人の黒ずくめが現れた。
国章を背負う特殊部隊、その中でも最前線に立つ選りすぐりの精鋭たちだ。
彼らは迷うことなく、仮設のテントの裏手――エプロン姿の男の前に整列した。
「司令官殿、報告いたします」
淡々とした声とともに、一人の隊員が一歩前に出る。
「テロ組織“ヘレン”の討伐、完了しました。これもすべて、司令官の事前命令の的確さあってこそ。我々は指示通り、即時討伐に移りました」
「……は?」
報告を受けた男――バイト先の店長は、タバコの箱をポケットでいじりながら、あからさまに眉をひそめた。
「ちょっと待て、俺は“見つけたら始末しろ”っつっただけだぞ? “どこにいるか”なんて、言った覚えはねぇし、知りもしてねぇ」
隊員たちの間に、目に見えない波紋が走った。
数人が無線機を確認しはじめ、隊長格の男が戸惑いを隠せない様子で眉をひそめる。
「……通信記録によれば、首謀者の正確な位置が、任務開始の約3分前にチャンネルC-4にて伝達されています。しかし、それが司令官殿でないとすれば……」
「じゃあ誰だってんだよ」
店長はそう言うと、ため息混じりにタバコを一本引き抜いた。
「……ま、俺は言ってない。それが事実だ。記録があるなら、それ照合すればいい。どこの誰が“余計な口出し”したのか、な」
その言葉に、特殊部隊は沈黙で応じた。
⸻
――同時刻。
正義の国、ソニャシニク。
吹きすさぶ風が窓を叩く、重厚な一室。
空気は静まり返っていた。
机の上には整然と並べられた紙束と通信機。
その通信機が、低く唸るように鳴り続けていた。
《……繰り返します。対象“ユウ”が奪取されました。犯人は丹梅出身、女性、名前はリン。瓦礫地帯より退避、現在の進行先不明……》
椅子に腰掛けていた男は、動かなかった。
まっすぐに前を見据え、無言のまま報告を聞いていた。
整えられた髪。重々しい軍服。その目には冷徹と知性が宿っている。
だが、その奥底に一瞬だけ――僅かな揺れが走った。
その男は、ロスティスラフ。
名を語ることなく、背中で全てを語る存在。
彼はゆっくりと立ち上がり、外套に腕を通す。
デスクの端に置かれた小さな絵__かつてユウが書いた家族の絵。
それを一瞥すると、彼は通信機を手に取った。
「……タイガへ向かう」
その言葉だけを残して、ロスティスラフは扉を開け、風の中へと歩き出した。




