第13話 双星、誕生。
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
避難所の床は冷たく、空気には血と埃の臭いがうっすらと混じっていた。折りたたみ椅子に座る避難民たちは疲れ果てた表情で毛布にくるまっている。その中、ハナとピッピは隅に並んで座っていた。互いに言葉もなく、ただ胸の奥で何かがざわついていた。
そこへ、重い足音と共に現れたのは――
「おいおい、こんなところまで来るとはな。お前ら、無事だったか。」
声の主は、2人がかつてバイト先で「店長」と呼んでいた男――今は特殊部隊司令官だった。
「店長……!」
ピッピが立ち上がると、司令官は小さく頷いてから、部下に手を振った。迷彩服を着た兵士たちが資料を広げながら小声でやり取りを始める。
ハナとピッピは、何気なく近づき、その会話を耳にした。
「……あの怪物、どうやらアイドルゲームで集めた負の感情“だけ”じゃないみたいです。」
「どういう意味だ?」
「つまり、怪物が生み出され、人々がそれに怯えた。その“恐怖”の感情が新たな魔力を生んで……次の怪物をまた作る。負の感情が負の感情を生む――まさに無限ループです。」
「クソ……つまり、時間が経てば経つほど被害は広がる一方ってわけか。」
ハナとピッピは顔を見合わせた。ヘレンの計画は思っていたよりも遥かに根深く、歯止めが効かないものになっている。
そのとき、近くの避難民たちが何かの話題でざわつき始めた。
「見たか? 怪物の近くを、ホバースクーターで走ってる少年がいたらしいぞ!」
「軍の子じゃない、って……でも妙に様子がおかしかったって話だ。」
その言葉に、ハナの胸がドクンと高鳴った。
「ユウ……かも。」
ピッピもすぐに立ち上がる。「行こう。」
「でも、さっきの話……このまま逃げてれば安全かもしれないけど、ユウはきっと……止めようとしてる。」
「止めに行かなきゃ。」
2人は迷わず走り出した。司令官と兵士たちが何か叫んでいたが、もう耳には入らない。
あの瓦礫の中、きっとユウはまだ、あがいている。
ハナはポケットに手を差し込み、握りしめたままだったアイドルゲームのエントリーバッジを見つめた。
(私たちの戦いは……まだ終わってない)
2
ユウは割れた願い星を前に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
眩しく煌めいていたはずの星は、まるで希望が砕けたように真っ二つになって瓦礫の上に転がっている。手を伸ばす気力さえ湧かない。胸の奥にぽっかりと空いた穴に、冷たい風が吹き抜ける。
「……もう、終わりだ……」
ユウの声はかすれて、誰にも届かない。崩れた都市の上空を、黒煙が風に乗って流れていく。どこかで鳴る警報と悲鳴。
その時――
「ユウ!」
振り返ると、埃を被りながらも駆けてくるふたりの姿があった。
「ハナ……ピッピ……?」
ユウの目が見開かれる。
「どうしてここに……危ないんだ、こんなとこに来ちゃ――」
「それはこっちのセリフ!」
ハナがきっぱりと返し、ピッピが続ける。
「心配かけさせてんじゃないよ。あんたがいないと、何も始まんないでしょ!」
ふたりは息を切らしながら、ユウの前に立った。その瞬間だった。
瓦礫の山の影から、うなり声とともに、異形の怪物が姿を現す。黒く濁った感情がそのまま形を得たようなそれは、這いずるようにこちらへ迫ってきていた。
「……逃げて!」
ユウが叫んだその時、ふたりは動かなかった。
ハナとピッピは、静かに前を見据えていた。
怯えているわけでも、諦めているわけでもない。ただ、強く、まっすぐに。
「私は……もう、見てるだけの人間じゃない」
ハナが口を開く。
「守りたい。この世界で出会った人たちも、あのステージも……未来も」
「わたしも。自分の生き方を、自分で決める」
ピッピの声は震えていなかった。
その思いに呼応するように、ユウの胸ポケットが光り始めた。
彼がハナからもらった、小さなお守り。まるでそれ自身が命を持っているかのように、まばゆい光を放ち始める。
「これ……」
光はゆっくりと広がり、割れた願い星へと吸い込まれていく。
砕けたはずの星の破片が、光の中で溶けるように包まれていき――怪物へと襲いかかろうとしたその瞬間、閃光が炸裂した。
「――――ッ!」
白光に包まれ、怪物の姿が消えた。まるで最初からそこには存在しなかったかのように。
ゆっくりと光が収まり、辺りに静寂が戻る。
ユウはまばたきをして、ふたりの姿を見た。
「……え」
ハナとピッピは、見たこともない衣装を身にまとっていた。
かつてのどのステージ衣装とも違う、希望の象徴のような衣。
暗い未来を照らす灯火のように、ふたりのシルエットが輝いていた。
その姿は、ただのアイドルではなかった。
未来を担い、誰かの心に光をともす、本当の“希望”だった。
3
その時だった。ユウのポケットから、電子音が響いた。
「……スマホ?」
画面を見ると、システムのアナウンスが自動再生されていた。
《遠隔機能が開放されたよ!簡単に一例を説明するとこのカメラを通して国中のテレビに映すことができるよ!》
「なんで今……こんな機能が……?」
ユウは眉をひそめ、半ば呆然としたままスマホを見つめる。だが、横からハナが顔をのぞき込んで、目を輝かせた。
「これ、使える!」
「うん!」とピッピも力強く頷く。「この機能を使って、私たちの歌とダンスを、全国に届けよう!」
「えっ、でも――今からパフォーマンスして、何になるって……」
ユウが言いかけると、ふたりはまっすぐ彼を見つめてきた。
「私たちのパフォーマンスは、ただの娯楽じゃない」
ハナが静かに言った。
「人の心を動かすことができる。“希望”を届けられる」
「たとえ少しでも、負の感情から生まれた怪物を弱らせることができるなら、やる価値はあるよ」
ピッピの声は真剣だった。
その言葉に、ユウの目が見開かれる。そしてスマホの画面を見つめたまま、息を呑む。
「……わかった。やろう!今から準備してくる!」
指先が震えながらも、画面をタップする。
するとスマホのカメラが自動で起動し、背景処理とステージエフェクトの準備が始まった。
ふたりはユウの前に並び立ち、ちらりと顔を見合わせる。そして、何も言わずに――同時に、頷いた。




