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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
27/38

第12話 一筋の希望

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

 

1

がれきに覆われた地面の上、黒焦げの紙吹雪のように舞う粉塵のなかで、少年はかすかな声に目を覚ました。


(ユウ、応答して。……大丈夫、まだ息はある。起きて)


かすれた人工音声が脳内でそっと囁いた。


――スマホだった。


「……ぼく……」


ユウが身を起こすと、頭の中で何かが軋んだ。だがその痛みよりも先に、目の前に広がる光景に思考が止まる。


そこはもう、あの決勝ステージではなかった。


まるで楽園のように輝いていた、夢のような場所は――

今や、無惨な瓦礫の山と化していた。


煙を上げる鉄骨、崩れ落ちた照明、血の跡、叫び声、泣き声。

遠くで誰かが名を呼んでいる。助けを求めている。だが、誰も返事をしない。


「...うそ…...…」


声にならない声が喉を震わせた。だが、足は震えるより早く動いていた。


「ハナ! ピッピ!」


ユウは瓦礫をかき分け、負傷者を避けながら走った。喉が焼けつくように乾く。恐怖と焦りで全身が痺れる。それでも――ようやく見つけた。


ほこりまみれの姿で、ハナとピッピが立っていた。互いの肩を支え合いながら、辛うじて無事だった。


「ユウ……!」


「よかった……ふたりとも……!」


ユウは息を切らしながら駆け寄った。涙が出るほどの安堵。だが、その時間は一瞬で終わる。


――ズシン、とまた地鳴りがした。


近づいてくる何かの気配。救助部隊のサイレン。避難の呼びかけ。


「君たち、無事か! 今すぐこちらへ!」


救助隊員が叫びながら駆けてくる。ハナとピッピは他の避難者たちと同じように誘導されていく。


「ユウ、行こう……!」


「だめ、ぼく……」


ユウはかぶりを振る。決意を込めた瞳で、ふたりに背を向けた。


「ぼくは願い星を探す。怪物を止めるために……!」


「ユウっ!」


ピッピの手が伸びる。ハナの声が揺れる。


だが、ユウは振り払った。胸ポケットの中で、スマホがほのかに光を放つ。


「出して、ホバースクーター!」


スマホが起動音を鳴らすと、空間が一瞬ねじれ、機械仕掛けの滑空板がユウの前に展開される。


「いってくる! ふたりとも、無事でいて!」


そして、ユウは瓦礫の都市を越えて飛び立った。


その小さな背が、夕闇に溶けていった。


2

ヘレンがあの巨大な怪物を召喚したその瞬間。

各地で、“異変”を察知する者たちがいた。


***


「……これは、まさか」


シブロドヴァは、郊外の廃ビルの屋上で望遠カメラを畳み、顔をしかめた。

風が変わった――血と魔力と、焦げた鉄の匂いが混じった風が吹いている。


「ヘレン……あの女、一体なにを……」


ポケットから無線を取り出すと、すぐに上司――ロスティスラフからの命令が飛び込んでくる。


『シブロドヴァ、お前の位置からなら現地の様子を確認できるだろう。怪物の情報を送れ。それと、近隣住民の避難を最優先だ。いいな?』


「はあ!? 俺は斥候任務で来てたはずだろ。……クソ、なんでこうなるんだよ」


文句を言いつつも、すでに足は動いていた。

懐から魔法式の注入銃を取り出すと、躊躇なくベルトに装着する。


「了解。……やれやれ、また命懸けかよ」


苦々しく呟きながら、彼は地上へと駆け下りた。


***


「来たわね……」


ユウにお守りをあげた元雑貨屋の店主の女――リンは、通りの外で何かが動く気配を感じていた。


「……一体だけじゃないのね」


瞬間、彼女の目に映ったのは、建物の陰から顔を出した中型サイズの怪物。

背は高く、皮膚は煤のように黒く、怒りと悲しみが瘴気のようにまとわりついている。


リンは指を弾く。次の瞬間、空気中の水分が凍り、槍のような氷柱を生成する。


「ヘレン……あの計画、どこまで周到に練ったのかしら。ステージだけじゃないなんて」


淡々とした声でそう言いながら、リンは槍を怪物に放つ。

鋭い氷が、泣き叫ぶような咆哮を断ち切り、怪物をその場に倒した。


その横顔は穏やかだったが、どこかで覚悟を決めた者の冷ややかさがあった。


***


一方、チキン屋では。


「すまない、店長……いや、“元”司令官。事態は深刻です。至急、力を貸していただけませんか!」


数名の兵士たちが駆け込み、息を切らせながら頭を下げる。


調理場で包丁を置いたその男――普段は冗談好きなピッピの上司――は、帽子をゆっくり脱いで兵士たちを見た。


「……本当にテロか?」


「怪物が現れました。あれは……自然災害とは言えません」


「そうか」


彼は静かに立ち上がり、奥のロッカーへ向かうと、かつての制服――特殊部隊の司令官礼装の一部を取り出した。


「厨房の油は冷めてないが……祖国が燃えているのなら、消さなきゃな」


少し笑い、店長――否、元司令官は後ろを振り返る。


「店のことは任せた。俺は司令部に戻る」


そして男は、軍服の上着を肩にかけ、かつての戦場へと歩みを戻していった。


3

瓦礫と煙が覆う都市を、ユウの乗るホバースクーターが風を切るように駆け抜けていく。

廃墟と化したビル群の合間を縫い、ひび割れた道路の上を跳ねるたびに、ホバースクーターが小さく揺れる。


ラジオからは、焦燥を隠しきれないアナウンサーの声が響いていた。


《……繰り返します。怪物は決勝戦ステージだけでなく、白無窮の第二環状地区、旧・桃木蘭の県庁跡地周辺など、各地で確認されております。市民の皆様は、慌てず、速やかに避難を――》


都市全体が焼けたような臭いに包まれていた。

空は赤く、ビルの影にうごめく巨大なシルエットが、まるで空気すら押し潰しているようだった。


ホバースクーターのハンドルに固定されたスマホが、ユウに向かって語りかける。


(ユウ、もうこれ以上は無理だ。これはもう、子どもがどうこうできる規模じゃない。逃げよう? 国外へ安全に出られるルート、いま演算中……すぐに出せるよ)


だが、ユウは首を横に振った。


「……ぼくは、2人を置いていけない」


その声は震えていた。だが、目は前を真っ直ぐに見据えていた。


「ハナもピッピも……あんなに頑張ってきたんだ。こんな結末なんて……絶対いやだよ」


小さく息を吸って、ユウは続けた。


「大人たちでも、あの怪物たち全部にはきっと太刀打ちできない。だから……あれを、願い星を使うしかない。まだヘレンは使ってない。どこかにあるはずなんだ」


スマホはしばし黙ったが、その後、静かに応じた。


(……了解。願い星に込められた魔力の残留反応……探してみる)


数秒後、ディスプレイが光り、地図が浮かび上がる。


(高台。スタジアム跡地の東側、瓦礫の頂上……そこに、強い反応がある)


ユウは急旋回し、目を凝らす。


すると――夕焼けと煙の狭間、崩れた都市の“山”の頂点に、それはあった。


まるでそこだけが神話のように浮き上がって見えた。

輝く光の球体――それは、願い星だった。


瓦礫の山を駆け抜けたホバースクーターが、ついに頂上で止まる。

ユウは息を切らしながら、光を放つそれに近づいた。


それは、確かに「願い星」だった。

しかし、まるで何かに強く打ち砕かれたように、中心から鋭く裂け、真っ二つに割れていた。


青白い光はまだかすかに脈動していたが、その輝きはもはや**「希望」ではなく、「断末魔」**のようだった。


「これが……」


ユウは手を伸ばした。だが触れた瞬間、星の欠片はひときわ強く光り、そして――


ぱきっ

音を立てて、ひとつの断片が崩れ落ちた。


スマホが警告のように震えながら告げる。


(……内部構造、破損率98%。エネルギーの再構築は不可能。願い星としての機能は――完全に消失したよ。)


ユウは、動かなかった。

目の前で崩れ落ちた光の残骸を見つめながら、ただ、そこに立ち尽くした。


「……そんな」


口をついて出た声は、誰に届くでもないほど小さかった。


「これしか……なかったのに」


声が震える。唇を噛み、拳を握る。


「これしか、なかったのに……!」


彼の中に残っていた、わずかな希望。

ハナとピッピを救うこと。

この国を、夢を、もう一度取り戻すこと。


そのすべてが、目の前で砕けた。


赤い空。崩壊した都市。どこまでも続く叫び声。


ユウは、その場に膝をついた。


そして、ただひとこと――


「……終わった」


その言葉だけが、風に流されて消えていった。

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