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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
26/38

第11話 終わりの始まり

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

決勝戦当日。

白無窮の中心部から少し離れた場所に、まるで空から舞い降りたような巨大建築があった。


それは、アイドルゲームの決勝戦のためだけに一夜で建設された特設ホール――

ガラスと金属が折り重なるように造形された、どこか未来的で、それでいて夢の中の劇場のような、現実離れした空間だった。


ユウは人混みを避けながら、そのホールの近くまで足を進めた。

ホールの背後にそびえる巨大な看板には、ハナとピッピの絵が大々的に描かれており、すでに観客たちの熱気は最高潮に達しているようだった。


「……すごいや……ここが決勝戦の会場なんだ……!」


圧倒されながらも、ユウはゆっくりと歩みを進めた。

足元は白銀の敷石が敷き詰められ、まるで雲の上を歩いているような錯覚さえ覚える。


入口のゲートで立ち止まり、ポケットから銀色のチケットを取り出す。

係員が一礼し、静かにゲートを開けた。


「ご案内いたします。まずは楽屋エリアへお進みください」


「うん……ありがとう」


案内された通路は、まるで魔法のように音を吸い込む静寂に包まれていた。

控室までの道すがら、ユウは時折足を止めて、壁に描かれた過去のステージの記録や、歴代の優勝者たちの名前を眺めた。

どこか遠い世界の話のように思えていたアイドルゲームが、こうして目の前の現実として存在している。


――そして、そこに、ハナとピッピがいる。

それがなんだか、信じられなくて。けれど誇らしくて。


「ふたりに……会えるんだ」


胸が高鳴る。

まるで自分も、今日の決勝の主役になったような気がした。


廊下の先、扉のプレートにはこう書かれていた。


《控室3 ハナ様/ピッピ様》


ユウは小さく息を吸い、扉の前で一度立ち止まった。

ノックする手が、少しだけ震えていた。


2

控室のドアをノックすると、中からすぐに返事が返ってきた。


「はーい!」


扉が開き、顔を覗かせたのはピッピだった。

その向こうには、いつも通りのハナが椅子に腰掛け、鏡越しに微笑んでいた。


「ユウ!」


ピッピがパッと笑顔を咲かせて、ユウを中に迎え入れる。

その後ろから、あの小さな声が響く。


(ユウ!待ってたよ!)


2人に貸し出していたスマホが、机の上からぴょこりと跳ねるようにして喋った。


三人と一台が、こうして同じ空間にいるのは本当に久しぶりだった。


今までのステージを経てきた彼女たちは、確かにあの頃よりも、少しだけ眩しく見えた。


「なんだかんだ、ここまで来ちゃったね」


「うん。でもあっという間だった気もするな……」


「だって濃かったもん。どれもこれも全部!」


ピッピが明るく笑い、スマホが(そうだね。)と合いの手を打つ。

ハナは少しだけ視線を伏せてから、穏やかに言った。


「……私は、あの時に、ユウとピッピに会えて良かったと思ってる」


その一言に、ピッピが少し照れくさそうに肩をすくめる。

ユウは黙って、二人のやり取りを見つめていた。胸の奥が、じんと熱くなる。


どれも、ほんの短い時間だったのに。

でも確かに、思い出と呼べるものがこんなにもたくさん、心に積み重なっていた。


そのとき、控室のドアがノックされ、スタッフが顔を覗かせた。


「そろそろお時間です。ご観覧のお客様は、指定席へご案内いたします」


「あ……うん、分かった」


ユウはスマホを手に取った。


「ありがとう、ふたりとも。がんばって。……ぜったい、どっちかが勝つって信じてるから」


ピッピとハナが同時に微笑んで、うなずいた。


「またあとでね、ユウ。」


「見てて、ユウ!」


控室を後にして扉が閉まると、ふたりきりになった空間に、静寂が戻った。


ピッピが伸びをしながら、ぽつりと呟いた。


「……さてと。いよいよだね、ハナ」


ハナもゆっくり立ち上がり、ピッピのほうを見る。


「うん。……どっちが勝っても、おかしくないと思うけど」


「それでも、勝つのは私だよ」


ピッピがにやりと笑い、ハナも負けじと微笑み返した。


「ふふ。じゃあ、勝負だね」


二人の目が、静かに火花を散らした。

決勝の舞台は、もうすぐ始まる。


3

場内の照明がゆっくりと落ちていく。

静けさが会場を包み込んだ、ほんの一瞬――


「Ladies and Gentlemen、ようこそ“アイドルゲーム”決勝ステージへ!」


司会の高らかな声と共に、ステージが一気に眩い光で照らされる。

轟く歓声。割れんばかりの拍手。


そして――


「最後の戦いを勝ち取った2人、ハナ、ピッピ!」


呼び声と共に、2人の少女がステージ中央に現れる。


その瞬間、音楽が鳴り響いた。


シンメトリー。

まるで鏡の中の自分と踊っているかのように、ふたりはぴたりと呼吸を合わせて踊る。

手の角度、足の運び、顔を上げるタイミングさえも完璧に一致していた。


けれど、同じ動きなのに、どこか異なる雰囲気をまとう。

ハナの動きは凛とした精緻さ、ピッピの動きは情熱的な弾けるエネルギー。


左右に揺れるライト、響き渡る低音、ステージ全体が熱を帯びていく。

客席の最前列、ユウは思わず息を飲み、目を見開いたまま固まっていた。


「……すごい……」


知らず、声がこぼれていた。


目の前で繰り広げられる光景は、もはや“オーディション”という枠には収まりきっていなかった。

これはもう、立派なライブ。

デビュー済みのプロアイドルの公演と比べても、何ひとつ見劣りしない。


観客席全体が一体となって熱狂し、like反応を感知する観測バンドがまばゆい色を描いて光っていた。


そして最後、音楽が止み、ふたりが息を合わせてポーズを決めると――


「うおおおおおおおおおおッ!!」


場内の熱は、最高潮に達した。


そして、静寂。


ふたりが一礼して袖へと下がると、少し間をおいてから、スポットライトが中央に当たる。


そこに立っていたのは、願い星オーディションの主催者――ヘレンだった。


4

ステージの中心に立つヘレンは、観客全体を見渡すように一瞬目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。


「ありがとう。まずは……決勝戦をここまで盛り上げてくれた二人のアイドルに、心からの感謝を」


観客のざわめきが少し静まり、ユウは前のめりに座りながらその言葉を聞いていた。


「実を言うと、このアイドルゲーム……私が想像していた以上に“良いもの”になったの」


淡々とした語り口。けれどその内側に、何か底知れぬ意図が感じ取れた。


「私は裕福な国、白無窮の裕福な家に生まれた。夢があったの。国を良くしたい、皆が希望を持てる場所にしたいって。だから、国内一の大学で学んで、そして私が憧れていたモナルダ――世界一の先進国に留学した」


一部の観客がどよめく。モナルダ。かつて存在した、技術と文化の粋を極めた国家。


「でも……現実は残酷だったわ」


声色がほんの少しだけ低くなる。


「モナルダでは、私の国籍を理由に、不遇な扱いを受け続けた。白無窮に戻っても、そこには夢を失って命を絶つ人々がいた。そして、あのモナルダも……崩壊した」


スクリーンに一瞬、今は無きモナルダの崩壊を映した報道映像がフラッシュのように映る。


「そして白無窮と桃木蘭は、急に“統一”された。でも、これは統一なんかじゃなかった。表面だけを貼り合わせた偽物よ。こんな国に、未来なんてあるはずがない」


ヘレンは目を伏せ、そして次の瞬間、はっきりと顔を上げて宣言した。


「だから私は――アイドルゲームを開催したの」


どこか、不気味な沈黙がホールを包む。


「このゲームの目的は、ただの夢の祭典なんかじゃない。敗北した参加者、そのファンたち。絶望、怒り、悔しさ、妬み……その負の感情を私は集めていた」


ユウは立ち上がるようにして叫んだ。


「……願い星の力があるなら、それで“より良い未来”を願えばよかったんじゃないのか!」


ヘレンはユウの声に一切動じず、淡々と返す。


「願おうが、祈ろうが、“良い未来”なんてものは来ないのよ」


彼女が指を軽く鳴らす。


次の瞬間――


ステージを中心に、黒い靄が渦を巻き、それは現れた。


絶望の感情から生まれた、怪物。


ソレが咆哮した瞬間、会場全体がまるで地の底から突き上げられるように揺れ、天井が大音響とともに崩れ落ちた。


「っ……!」


ユウが声を上げる暇もなかった。


誰かが叫んだ。誰かが泣いていた。だが、それを認識するより早く、光も音も、ユウの視界から消えていった。


逃げる時間など、どこにもなかった。


「ようこそ、終わりの始まりへ――」


ヘレンの声が静かに響いた。

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