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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
20/39

第5話 疑念

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

白無窮の街は今日も賑やかだった。石畳に柔らかく差す午後の光、軒先にぶら下がるカラフルな旗、若者たちの笑い声。タイガにいた頃とはまるで違う、鮮やかで夢のような世界に、ユウの足取りは自然と軽くなっていた。


「うわ……あれ見て! あの店、なんかかわいい!」

思わず声に出してしまったのは、きらめき通りにひっそりと佇む、小さな雑貨屋だった。古びた木の扉には鈴がついており、「Welcome」の文字が陽気に揺れている。


店内は所狭しと並べられた雑貨たちで溢れかえっていた。香り袋、手鏡、レコード、ぬいぐるみ……その一角に、ユウの目は思わず止まる。


「これ……ハナとピッピのグッズ?」


手に取ったのは、ハナをデフォルメ化したアクリルキーホルダーと、ピッピの顔がアップにプリントされた缶バッジだった。


(ユウ...これ多分非公式に作られたやつだと思うから気をつけてね?)

スマホが控えめに警告を発する。


「うん、でも……ちょっと、欲しいかも」


レジに向かおうとしたその時、棚の奥からひょっこりと顔を出したのは、丸眼鏡に三つ編みの落ち着いた雰囲気の女性だった。どこかのんびりとした口調で、優しく語りかけてくる。


「お目が高いわね。その子たち、今注目のアイドルゲーム参加者でしょう?」


ユウは少し緊張しながらも、「うん、実は知り合いで……」と口を開く。女性は微笑みながら、ユウの話にじっくりと耳を傾けた。


「気になるの? その子たちのこと」


「うん。……実はぼく、旅してるんだ。一人で。今はピッピのところに泊めてもらってて」


「そうなの。アイドル候補と一緒に暮らしてるなんて、なかなかない経験よね」


彼女はカウンターを出て、ユウのそばに来ると、彼の持っていたグッズに目を落とす。


「2人とも、面白い子たちだと思ってたけど……あなたから見て、あの子たちはどんな子?」


ユウは少し考え込んだ。

言葉にしようとすると、どうにも胸の奥がざわざわしてうまくまとまらない。


「……ハナは、ちょっと冷たそうだけど、本当はすごくまっすぐな人で。ピッピは……変な子。けど、変なことがあんまり変に思えなくなるんだ。不思議な感じ」


「ふふ、“変なことが変に思えない”って、最高の褒め言葉よ」


ユウは恥ずかしそうに笑った。

それから、ぽつりと呟くように続けた。


「家を出てから、いろんな人と出会ったけど、結局一人になるんだ。便利な道具はもってるけど。だから、たぶん……」


言いかけて、息を飲む。

それでも、視線を逸らさずに言葉をつないだ。


「だから、2人と一緒にいるのが、すごく変な感じで。まだよくわからないけど……きっと、すごく大事なんだと思う」


その答えに、店主は穏やかにうなずいた。


「うん、きっとそうね。あの2人は、あなたの旅路を――きっと、良い方へと導いてくれる存在になる」


その言葉は、静かに店内の空気に染み込んでいった。

ユウはしばらく黙っていたが、やがてふわりと笑った。


「ふふ、面白い子ね。ありがとう、お話聞けて楽しかったわ」


そう言って彼女は、棚の奥から小さな袋を取り出す。赤い色の布に、金糸でコウモリの刺繍が縫い込まれた、華やかなお守りだった。


「これは私の故郷で『災いが起きても福に変わる』って言われてる魔よけ。あげる。応援してるわよ」


「えっ、いいの? 本当に?」


「ええ。君たちの物語、私も少しだけ見届けたくなったから」


ユウは胸の奥がほんのり温かくなるのを感じながら、ぺこりと頭を下げて雑貨屋を後にした。


通りを戻るその足取りは、朝よりもさらに軽やかだった。


2

第2回戦当日。

朝の光が白無窮の街を柔らかく包み込む中、ユウはピッピのバイト先には向かわず、前日訪れたあの小さな雑貨店を再び訪れていた。


「いらっしゃい、早いわね」


店主はユウの姿を見ると微笑んだ。店の奥に据えられたテレビの前には、木製の丸椅子が二つ。ユウは無言でそこに腰を下ろす。胸のポケットには、昨日もらったお守りが小さく揺れていた。


「今日はここで見るの。なんとなく、こっちがいい気がして」


「ふふ、いいわよ。ちゃんと魔力タンクも満タンだし、あと12時間以上はもつわね」


そう言って、店主はそっとリモコンを操作し、テレビの電源を入れる。ノイズが弾けたあと、画面が切り替わり、「アイドルゲーム 第2回戦」の特集番組が始まった。


画面が切り替わるたびに、異なる参加者たちのダンスパフォーマンスが映される。会場は華やかな照明と歓声に包まれていた。


そして、ついに――

「次の挑戦者は、ピッピさんです!」というアナウンスが流れた。


会場の照明が暗転し、次の瞬間、ビートの効いた軽快な音楽が流れ始める。画面の中、ピッピが両手を広げてステージの中央に立っていた。


その瞬間だった。


身体が跳ね、リズムに乗って滑るように動き出す。腕の角度、足のステップ、すべてが曲と呼吸を合わせるようにぴたりとはまり、次々と変化していく。誰もが思わず見入ってしまうような、しなやかでキレのある動き。踊っているというより、音楽そのものを演じているようだった。


「……すごい」


ユウは知らず知らずのうちに息を止め、画面を見つめていた。

横で店主が小さく感嘆の声を漏らす。


「まるで舞台の精霊みたいね。あの子、こんな顔をするんだ」


審査員たちも驚いたように目を見開き、次第に微笑みを浮かべていく。映像越しでもはっきりと伝わってくるその熱量に、会場はスタンディングオベーション寸前の盛り上がりを見せた。


やがて曲が終わり、ピッピがステージ中央で軽くお辞儀をする。会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


その直後、画面には結果発表の文字が踊る。


《準々決勝進出:ピッピ》


ユウはふっと肩の力を抜いた。そして、にっこりと笑う。


「やっぱり、すごいんだ。ピッピって」


店主も微笑みながらうなずいた。


「ええ、あなたが惹かれるのも、わかる気がするわ」


画面の中のピッピは、舞台袖に引っ込む前に、テレビカメラに向かって楽しそうに手を振っていた。

その笑顔は、まるで誰かに「見ててね」と言っているようだった。


ユウの胸の奥が、ほのかに温かくなる。


彼女は、本当にステージの上が似合う――そう思った。


3

オーディションの熱気がようやく落ち着いた夕暮れの廊下。

壁際に並ぶポスターや案内板の横を、ピッピとハナはゆっくりと歩いていた。


「ハナも準々決勝進出だね、やったじゃん!」


ピッピがにこっと笑いかけると、ハナも控えめに微笑んだ。


「ピッピも。すごくキレがあった、ダンス」


「へへ。練習、がんばったからね〜」


そんな軽い会話のあと、ふと思い出したようにピッピが口を開いた。


「ねえ、さっき同じブロックのアマチュアの子と少し話してたんだけどさ」


「うん?」


「アイドル事務所がやってる“特別レッスン”、受けてたらしいんだけど……それ、すっごく高いって言ってた。おまけに、契約で“優勝した時の願いを事務所と山分け”にするって条項があるんだって」


「えっ……」


ハナの目が驚きに見開かれる。


「そんなことまでして、出てるの……?」


「うん。本人は“それでも夢を叶えたいから”って言ってたけど……なんか、すごい世界だよね」


少し笑いながら言うピッピ。その顔には確かに笑みがある。けれど、その目はどこか、遠くを見ているようだった。


ハナは小さく息をついてから、言葉を選びながら口を開いた。


「……そこまでしてでも、叶えたい子もいるのね」


「……うん」


ピッピはうなずく。その声には、ほんの少しだけ、引っかかりがあった。


(本当に、それでいいのかな……)


このオーディション、確かに公平に見える。

でも、デビュー済みの有名アイドルが次々に落とされていった。

努力して、必死に準備して、それでも……。


(なんか、うまく言えないけど……誰かが、わざと落としてるみたいな……そんな気がする)


口には出さず、心の奥だけが少しざらつく。

でも、それを振り払うようにピッピは笑ってみせた。


「ま、あたしたちはあたしたちのやり方で、勝ち上がるしかないんだけどさ」


「うん、そうだね」


並んで歩く二人。

その背中はまだ小さいけれど、確かに、夢に向かって歩いていた。

ただその夢の行き先に、ほんの少しの疑念の影が差し始めていることを――

ピッピは、もう感じ取っていた。


4

「いやー、今日もすごかったね。ピッピちゃん、あれはもうアイドルっていうか、戦士だったわ。」

「うん、すごかった!」


木製のカウンター越し、テレビの電源が落ちた店内には、拍手代わりの余韻がまだ漂っていた。

ユウはココアを啜りながら、となりに立つ店主――丸眼鏡に穏やかな笑みを浮かべた女性へと目を向けた。


けれど、その穏やかな空気は――唐突に、割れた。


「警察だ!そこを動くな!」


ドン、と店の扉が開け放たれ、数人の制服姿の警官たちが雪崩れ込む。

一瞬で緊張に包まれる空間。ユウは目を丸くした。


「え……ええっ!?」


「オーナー・リン、あなたを違法販売の容疑で逮捕します。アイドルゲーム公式ライセンスなしのグッズ製造、および販売行為……すべて証拠は揃ってます」


「……あら」


店主――リンはゆるやかに肩をすくめると、微笑んだまま指を鳴らした。


パチン。


その瞬間、店が、ふわりと消えた。

陳列棚も、商品も、看板も、レジまで――すべての物が、まるで夢のように霧散していた。

ただの空き地が残され、警官たちは一斉に顔を上げた。


「屋根だ!」


誰かが叫び、視線を追うと、隣の古びた建物の屋根の上に、リンが優雅に立っていた。

風になびくスカート、月光に光る眼鏡。


「すみませんね、こう見えて忙しいんですよ――では、ごきげんよう!」


ぴょん、と跳ねるように、彼女は屋根の向こうへ姿を消した。

怒鳴りながら飛び出していく警官たち。呆然と立ち尽くすユウ。


「ええぇぇ……!?」


そこへ、慣れた足取りでやってくる人影が一つ。

ピッピのバイト先の店主――ゆるい笑顔の中年男性が、手を振りながら近づいてきた。


「ユウ、おつかれさん。ここだったか。帰ろうか」


「……あ、はい。でも、その……店主さんが、急に……」


「逃げたんだろ。まー、最近あるんだよなぁ。丹梅たんめいのやつらが非公式グッズばらまいてるって噂でさ。偽物って言っても、出来はけっこういいのはあるし……でもまぁ、違法は違法だからねぇ」


苦笑まじりに言いながら、店主はユウの背中を軽く叩いた。

ユウはぽかんとした顔のまま、歩き出す。


(……え、店、消えたよね?あの人、飛んでったよね? なにあれ……なんなの!?)


混乱と呆然が胸の中で渦巻くなか、その胸ポケットの奥で、丹梅の店主から貰った小さなお守りは誰にも気づかれぬまま、ほのかに淡く光っていた。


5

夜の白無窮──その街の端にそびえる建物の屋上に、ひとりの女が佇んでいた。丸眼鏡の奥の瞳が、魔灯に彩られた街の灯を静かに見つめている。


風が高層ビルの隙間を抜け、彼女のコートの裾をはためかせた。遠くで人の笑い声がかすかに響く。祭りでも、暴動でもない。平和な、白無窮の日常だ。


「――しばらくね。ここが人のエゴで無茶苦茶になるのも」


ぽつりと呟いた声は、夜風にさらわれた。


この都市が、自然でも、魔女でもなく、ただ人間の手によって蝕まれていく未来を、彼女は知っていた。予言のように。それとも、確信のように。


けれど、彼女の顔には焦燥はなかった。むしろ、その唇はにこりと弧を描く。


「でも、大丈夫か。あの二人の少女と……ひとりの少年がいる」


視線の先には、遠く、街の一角にぼんやり灯る商店街。そのどこかに、彼らがいる。


「きっと、おもしろいことになるわね」


雨粒が、彼女の眼鏡のレンズに小さく弾けた。


夜空に、柔らかい雨が静かに降り始めていた。


彼女はそのまま、踵を返し、闇の中に消えていく。残された白無窮の夜には、静かな雨音だけが降り積もっていった。

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