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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
19/39

第4話 メタモルフォーゼ

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

オーディション当日の朝。まだ太陽が昇りきらないうちに、3人はそろって目を覚ましていた。


「やっぱ緊張で早く目ぇ覚めるよね~」

ピッピがあくび混じりに笑いながら、階段を上る。開店前の薄暗い厨房に、朝の冷たい空気が入り込んだ。


「テレビ、つけてみよっか。ちょうど記者会見やってるかも」


そう言って、ピッピはレジ横の古びたテレビの前にしゃがみこむ。横の小さな引き出しから指でつまめるほどの銀色の筒――魔力タンクを取り出すと、それをテレビの背面に差し込んだ。


「……よっと」

タンクの上から両手を軽く添えて、集中するように目を閉じる。すると、ピッピの手のひらから淡い光がにじみ出し、タンク内部に魔力が満ちていく。


「満タン、っと」


カチリ、と乾いた音とともに画面がふっと点き、モノクロ気味の映像が浮かび上がる。

このテレビは「モナルダ」と呼ばれる、かつて白無窮の支援国だった大国の発明品。魔力を動力にする珍しい機械で、魔力タンク1本で最大16時間だけ動く代物だ。


画面では、すでにアイドルゲームの公式記者会見が始まっていた。壇上には、ドレープのかかった真紅のカーテンと、スポットライトを浴びた女性――主催者・ヘレンが立っていた。


「――それでは、質問のある方、どうぞ」


観客席にいる記者たちの一人が手を挙げ、マイクを通して問いかける。


「優勝者の願いが“なんでも叶う”とありますが、それは具体的にどのような方法で実現されるのでしょう?」


会場に一瞬だけ静寂が流れた。

やがて、ヘレンは微笑み、片手をすっと上げる。


その合図で、後ろに控えていた側近のひとり――無表情の青年が、両手で銀のトレイを運び出す。トレイの上には、金色のクッションに載せられた丸い宝石のようなものが置かれていた。


カメラがズームし、テレビにそれが映る。


――それは、“願い星”。


球体の中心で、星の形をした光がゆっくりと脈打っていた。魔宝と呼ばれる、強力なマジックアイテムの一種。その中でも“願い星”は、希少かつ強力な存在として知られている。


「これが、願いを叶える力を宿した“魔宝”――“願い星”です」


ヘレンの声が響いたその瞬間――

会場の空気がざわりと揺れた。


「まさか本物を……」

「実在していたのか……」

「軍用指定のはずじゃ――」


記者たちのざわめきが一気に広がる。カメラが揺れ、司会者が静粛を促す声が遠くに響いた。


画面の中の“願い星”の輝きが、テレビ越しでもわかるほど強く、ゆっくりと脈を打っていた。


テレビの前にいた3人の目も、自然と同じようにキラキラと輝いていた。


「……本当に、願いを叶えるんだ……」

ユウが小さく呟き、ハナも無言でうなずいた。


「これは……負けられないやつっしょ!!」

ピッピが拳を握りしめて、にっと笑う。


「第1回戦、絶対に勝とうね!!」


画面の中の“願い星”の光が、3人の胸に小さな火を灯していた。


2

会場の控え室。すでに観客のざわめきや、前の出場者のパフォーマンスの音がかすかに響いている。


「……じゃ、やるか」

ピッピがシャツの裾を軽く直しながら、小さな機械――ユウに渡された“スマホ”を手に取った。


「ユウが言ってた通りにね。ほら、ハナ、こっち向いて」

「わかってる。あなたもちゃんとこっち見なさい。」

ハナもすでにスマホを手にしていた。


ユウの指示は簡潔だった。

「互いを撮影することで、“映し合い”の補正が入る」

――スマホに組み込まれた魔術的な演算によって、視覚的に最も魅力的な“アイドル像”が反映されるという。


二人は互いにスマホを構え、カシャ、と小さなシャッター音を響かせた。


直後、スマホがわずかに光り、波のような視覚補正がふわりと彼女たちの姿を包む。

まるで魔法がかかったように、髪の艶や瞳の輝きが増し、衣装までもが自然に洗練されたデザインへと補整される。


「……すご……なんか、私じゃないみたい……」

ハナがスマホの画面に映る自分を見て、小さく呟いた。


「っていうか、これ見たらユウ、絶対ニヤけてんだろうな~」

ピッピが笑いながら言う。


その頃――

ピッピのバイト先、店内のカウンターには、魔力タンクで動かしているテレビの前にユウと店長が並んでいた。


「お、はじまったな」

「生中継、か……緊張するなぁ」

ユウが息を飲む。


テレビの画面には会場の映像が映り、華やかな照明とともに司会者のアナウンスが響く。


「続いての出場者は……エントリーナンバー17番、桃木蘭からやってきた――ハナ!」


会場にどよめきが走る。

「桃木蘭? 出場者にいたんだ……」

「名前、初めて聞いたけど……」

審査員席にもやや冷ややかな視線が混ざっていた。


だが、ステージに現れた彼女の姿を見た瞬間――空気が一変した。


サーチライトに照らされたハナは、スマホによる補正でまるでアイドルそのものの風貌をまといながら、堂々とステージ中央へと歩み出る。


イントロが流れ、歌が始まる。


その瞬間、審査員席の壮年の男性が、驚きで口を開けたまま固まった。


「……これは……想像以上だな……」


歌声が、澄みきった空気のように会場を満たす。

ただ甘いだけではない、芯の通った声――それが曲の感情とぴたりと重なり、観客の胸を打つ。


会場には拍手と歓声が広がり、審査員たちが目を見合わせる。


画面越しに見ていたユウは、目を輝かせながら立ち上がった。


「すごいすごいすごい……! やった……!!」

「ほう……あの子、やるじゃないか」

店長も腕を組みながら、目を細めて感心していた。


やがて画面下部にスコアが表示される。

その数値は、ブロック内最高得点だった。


「出場者ハナ、ブロックB第2回戦進出、決定です!」


控え室のモニターで結果を確認したピッピが、すぐに手を叩いて叫んだ。


「ハナ~~~!! 最高!! あたしも負けてらんない~~~!!」


ハナはまだ息を整えながら、控え室に戻る。

ピッピと目が合い、自然と笑みがこぼれた。


「……勝ったよ」



3

ステージ裏の一角、取材スペースに設けられたパネルの前で、ハナはマイクを向けられていた。


「――では、最後に。桃木蘭出身でありながら、今回最高得点を叩き出したお気持ちは?」


記者の声には、好奇と驚きが入り混じっている。

ハナは一瞬だけ視線を逸らし、それからまっすぐカメラを見据えた。


「うれしいです。でも、出身地がどこであれ、ステージに立ったからには、自分をちゃんと見せたかっただけです」

「なるほど……ありがとうございます。素晴らしいステージでした」


取材陣から小さな拍手が起こる。

その中で、一人の男の記者がノートを閉じ、静かに立ち上がった。


 * * *


出口を出ると、すぐにピッピとユウの姿があった。

ピッピは相変わらず弾けるような笑顔で、ユウは小さく手を振っている。


「ハナ~~~!! インタビューされてた!? マジで!? 最高得点の女~~~!!」


「……うん、ありがとう。」


そこに店長も現れ、両手をポケットに突っ込んだまま、やや照れくさそうに言った。


「よし、進出祝いだ。今日は店、閉めてるしな。食いたいもん、全部用意するぞ。ハナもユウも、遠慮すんな」


「やった~~~!!! ファイヤーミートの次は、店長の大皿攻撃~~!」

「……ピッピ、そのテンションで歌っても絶対通ったな」

「それな~!」


笑い声とともに、4人は夜の街を戻っていく。

白無窮の灯りがまるで祝福するように、ほんのりと空を照らしていた。


 * * *


一方、その会場の隅――。


先ほどハナにインタビューしていた記者が、暗がりで通信用の魔道具を握っていた。


その表情には、もはや“報道者”の顔はなく、冷徹な観察者の眼差しが宿っている。


「……監査官長。はい、例の少女……桃木蘭出身のハナ、記録済みです」

「それと、アイドルゲームの内部運営。裏側への捜査についても問題なさそうです。ええ、本来の目的の“魔女の子”は、予想外に早く見つかりそうで」


言い終わると、彼は魔道具を懐にしまい、低くニヤリと笑った。


「――さて、“願い”の代償を、暴いてやるか」


闇に紛れるように、その背はひとつ、静かに会場を去った。


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