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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
16/39

第1話 運命の出会い

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

ホバースクーターが空を切って進んでいく。

浮遊石の安定した浮力が、ユウの身体に心地よいリズムを刻む。眼下にはまばらな建物群が広がり、その奥には都市のような影が薄く霞んでいる。


「んで、ぼくたち、どこに向かってるの?」

退屈しのぎに、ユウはスマホに問いかける。


画面が一瞬だけ明滅し、スマホから返答が出力された。


《現在位置とルートを解析中。イヴァンカさんから貰った古資料をもとに補足情報も抽出中……》


《照合完了。現在向かっているのは、旧・桃木蘭領。かつて、マツリカリヤ帝国の軍事支援を受けていた小国家だよ。》


「軍事国家……?」


《そう。歴史的には、近隣諸国と一触即発の状態が長く続いていたため、徴兵制や兵器開発に力を入れていた地域で、その一方で、芸事──とくに楽器演奏、舞、歌などの文化芸術に関しては非常に洗練されており、兵士すら芸をたしなむことが礼儀とされていたんだ。》


「へぇ…...なんかすごい!」


《国外からも観光客が多く訪れ、特に上層部向けの演奏会や舞台公演は“まるで戦火の中の桃源郷”と称されるほどだったとか。今は統一されて無くなちゃったけど、その誇り高い美意識は、現在もこの地域の根底に残ってる。》


「つまり、美の国ってこと?」


「要約が雑だけど……まぁ、概ね間違ってはないかな。」


ユウの目がきらりと光った。

乾いた風の匂いの中に、どこか懐かしい旋律を感じた気がする。


「じゃあ、楽しみだね。桃木蘭……!」


ホバースクーターはまっすぐに、そのかつて“矛と詩”を背負っていた土地へと向かっていく。

歴史の名残と、まだ見ぬ輝きが混ざりあうその地へ。


2

関所を抜けた途端、空気が変わった。

ほんの数秒前まで自由に流れていた風が、いまはどこか整然とした音を立てて吹き抜けている気がした。


「……わあ」


ユウの口から、思わず息が漏れた。


目の前に広がるのは、まるでモノクロの博物館のような街並み。

石造りの建物が無機質に並び、すべてがマツリカリヤ帝国の設計思想を引き継いでいる。曲線を一切排した直線的で重厚な構造。灰色の石材が陽を吸い込み、じっとりとした影を落としている。


そして人々──


誰もが、上は白いシャツ、下は黒のズボンかスカート。染め色のない、均質な服装。まるで街全体が一枚の写真のように、色を持たない。


「すごいな……染めてない布って感じ……」


ユウは首を左右に動かしながら、珍しげに建物や人々を見回した。


ふと、視界の端に何かが引っかかる。

風にわずかに揺れる、一枚の張り紙。


壁に無造作に貼られたそれは、まるでこの無機質な街の中で唯一、声を持っているかのようだった。


《【出場者募集】アイドルゲーム開催決定!》


「……あれ?」


ユウは近寄って張り紙をじっと見つめた。

装飾されたフォント、華やかなロゴ、そして下に小さく書かれた出場資格──


「年齢制限なし、魔核の質不問、優勝したら何でも願いを叶える……!? 出場条件、ぼくも満たしてるじゃん!」


(ユウ、ちょっと待っ──)

スマホが何かを言いかけるが、ユウはもう聞いていなかった。


頭の中に、「出る」という選択肢しかなかった。

まるで運命が手を引いたかのような直感に突き動かされ、ユウは道を外れ、張り紙の下に記された会場の名を一読した瞬間──


「よし、決まり!行こ!」


スマホの呼びかけを置き去りにして、ユウは駆け出した。

白と黒しかない風景の中で、彼の背中だけが浮かび上がるようにまぶしかった。


3

「参加できない!? なんで!?」


ユウの声が、受付カウンターの奥でひそやかに仕事をしていたスタッフたちの耳に届くほど、強く響いた。彼の目の前で、笑顔一つ見せずに応対している受付係の女性は、ため息をつきながら張り紙の端を指さした。


「こちらをご覧ください。“※女性限定”──小さく記載されております。申し訳ありませんが、該当しない方のエントリーはお受けできません」


指先が示したその一文は、あの鮮やかな広告の隅っこに、まるで誰にも気づかれないような字体で、確かに存在していた。


「でも、ぼく、条件は満たしてるし、歌も踊りも──!」


「おかえりください」

語気がわずかに強くなった。


なおも食い下がろうとしたユウを、背後から現れた別のスタッフが無言で肩に手を置き、物理的に会場の外へと連れ出した。


***


「……ちぇ」


建物の前の段差に腰を下ろし、ユウは膝に肘をつけてふてくされたようにため息をついた。


「女性限定って……それ、最初に書いといてくれてもよくない?」


スマホは黙っていた。さすがに今は何を言ってもユウの気が晴れるとは思えなかった。


ユウは顔を上げて、無機質な街並みをぼんやりと見上げた。重たい灰色の空。冷たい石の建物。誰も彼もがモノクロの装いで歩いている。


──でも、その中に。


まるで白と黒の制限の中で、凛と咲いた一輪の花のような少女が、ユウの目に飛び込んできた。


白いシャツ。黒いロングスカート。そしてシンプルな黒のパンプス。

服装は周囲と同じはずなのに、不思議とその佇まいには目を奪われるような清らかさがあった。ひとつに束ねられた髪が、風にやさしく揺れる。


彼女はまっすぐユウに近づいてきて、少し首を傾げた。


「……大丈夫?」


その声は優しく、けれど、どこか遠くの音楽のように澄んでいた。


ユウは、驚いたように彼女を見上げた。

心に落ちたしずくのような一言に、張りつめていた糸がふっと緩んでいくのを感じながら。


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