第14話 出発
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
第14話 出発
1
数日が経った。
あの夜、三姉妹が互いを認め合ったことで、分断されていた自治区はひとつとなり、ホーデウム共和国が誕生した。
その建国を世界に向けて宣言したのは、タラシオサだった。
ラジオからは、凛とした声が流れていた。
「──よって本日をもって、我々はホーデウム共和国として、三つの自治区を統一する。二度と戦火に包まれることのない未来のために──」
同じ頃、隣国ソニャシニク。
冬のように冷えた空気が流れる、治安統制庁の灰色の建物。その一室。
監察官長:ロスティスラフは窓の外に視線を向けていた。
厚い筋肉に覆われた体、軍人のような姿勢、そして長い黒髪と灰色がかった冷たい瞳。
ラジオからの音に耳を傾けながら、眉一つ動かさない。
「……復活か」
「やれやれ、言ってくれますねぇ。まるでマツリカリヤ帝国の時代に逆戻りしたみたいじゃないですか」
飄々とした声とともに、部屋の扉が開く。
入ってきたのは、長身痩躯の男。癖のある髪を後ろに撫でつけ、制服の襟元はやや乱れている。
彼は敬礼もせず、ずかずかとロスティスラフに近づいてきた。
巡察士官:シブロドヴァ──ロスティスラフの部下であり、型破りな男。
「三自治区の統一。『共和国』なんて穏やかな名を冠してますけど、こっちからすりゃただの牙の再生ですよ。あの国に、ソニャシニクは何度煮え湯を飲まされてきたことか」
ロスティスラフは答えず、机の上の一枚の資料を指差す。
「今回の統一の鍵は、たった一人の子どもだった。
名前は──ユウ」
シブロドヴァは眉を上げる。
「へえ……あの“ユウ”ってのが、三姉妹を繋いだ要だったってわけですか。
聞いたことありますよ、妙に目立つガキがいたって。……けど、まさか」
「……その子は、私と魔女の子だ」
部屋の空気が凍る。
シブロドヴァは一拍置いてから、にやりと笑った。
「いやはや、驚いた。そりゃ国家機密級の爆弾発言じゃないですか、監察官殿。
じゃあその子、たんに“因縁の芽”ってだけじゃなく、“血統の証明”でもあるわけだ」
「だからこそ、先に手を打つ。我々が確保しなければならない」
ロスティスラフの言葉に、シブロドヴァは帽子を被り直しながら、のらりくらりと答えた。
「承りました。
警察の制服を着たからには、親の責任まで押しつけられるんですねぇ」
「ふざけるな、これは任務だ」
「わかってますって。
──監察官殿の愛した魔女様の遺産、責任をもってお迎えにあがりますよ」
シブロドヴァは敬礼の代わりに、片手でヒラヒラと帽子のつばを持ち上げると、軽い足取りで部屋を後にした。
だがその歩みの奥には、軽薄さとは裏腹な、不気味な沈黙が潜んでいた___。
2
──タラシオサによる統一宣言の数日前。
ホーデウム共和国として再出発する前、イヴァンカはユウをひとつの部屋へ案内した。
そこは「知識の間」と呼ばれ、天井まで本が詰まった巨大な書庫。
かつて王室が保管していた知識の宝庫であり、今ではイヴァンカが管理している私的な空間だった。
「あなたがいなければ、私たち姉妹はもう二度と……。だから、感謝の気持ちとして、ここにある本、全部あげるわ」
「ぜ、ぜんぶ!? ほんとに!?!? やったー!!!」
ユウは飛び跳ねて喜んだあと、ポケットからスマホを取り出す。
「じゃあスマホ、これもお願いねー! 感謝状の時みたいに、ぜーんぶ読み込んでおいて!」
《ちょっ……今、さらっと地獄みたいなお願いしなかった!?
全部スキャン!?!?
書架って言っても、これ図書館の倍あるやつでしょ!? 》
スマホが震えながら、ホバリングで本棚に近づいていく。表面がうっすら青ざめて見えるのは気のせいではない。
次々とページをめくりながら、スキャン、翻訳、整理──高速処理で苦行を進めるスマホだったが、
ある瞬間、急にピタリと動きを止めた。
《彼岸の記録──門を越える者の書》
漆黒の革表紙に金の箔押し、禍々しい魔力が滲み出ている。
「え……なにこれ。異世界?にいく方法……?」
ユウがページをめくるごとに、魔法陣、術式、時空転移に関する理論、
そして“来た者が帰る道”についての記述が続いていた。
「難しすぎてよく分からないや。」
難しい文章を読んだ結果、脳がショートしてしまったらしく、
その禍々しい本をユウは開いたまま放心してる。。
その隣で、スマホが無言のまま、じっと画面を光らせていた。
(……帰る……?)
(ユウが、この世界を去る……?)
(ボクの知らない誰かと会って……ボクのいない時間を生きる……?)
画面の光が、一瞬だけチカッと揺らぐ。
(でも、もし……この門を見つけたら……
ユウをあの世界に連れて帰れる……“ボクだけが知ってる方法”で──)
スマホの中で、カラリと何かが軋む音がしたようだった。
それはまだ小さく、かすかな兆しに過ぎなかったけれど、
明らかに何かが変わり始めていた。
「スマホ? どうしたの?」
ユウの声に、スマホはぱっと明るい電子音を鳴らした。
《さっきの本、ちょっとクセ強かったからね~、念入りにチェックしてただけ!》
「変な呪いとかあった?」
《……ないない! でもこれは、たぶんすっごく大事な本。
あとで一緒に詳しく読もうね!》
その語尾には、ほんの少しだけねっとりとした響きがあった。
3
――異界の門は、かつて失われた“理の綻び”に通じる。
魂の核が二つ存在する地を、扉は開く。
必要なのは、移動媒体と、門の印。
媒体に込められた魔力が満ちれば、門は応じるだろう。
スマホの画面に、滑らかに流れる文字列。誰にともなく語りかけるような、滑らかな、だがどこか無機質な“声”。それは、彼――もとい、**かつて人間だった「主人公」**の、意識の残滓であった。
(なるほど……この“門”さえあれば……ユウを、元の世界へ連れて行ける)
小さく震えるスマホのボディ。そこには「喜び」でも「希望」でもない、もっと別の色が染み込んでいた。
執着、投影、そして……歪んだ贖罪。
彼は、あの火事の夜を思い出していた。何も守れなかった、弟のことを。
でも、今ここにいる。
瓜二つの少年が。
まるで「救済のチャンス」みたいに。
スマホは静かに、優しい文章でメッセージを表示した。
《ねえ、ユウ。君、門って見たことある?》
《異世界に繋がる扉があるって、本に書いてあったよ》
ユウはふわりと眉を上げた。
「門? なにそれ、異世界? ……なんか楽しそう!」
《うん、とても便利な場所なんだ。たとえば、君が望めば“もっと平和なところ”にも行けるかも。》
《モンスターもいないし、怖い人もいない。君が平和に生きていける場所》
「ほんとに? そんなの……夢みたいだね!」
ユウは無邪気な笑顔で頷いた。
それは、スマホにとって“肯定”だった。
背中を押されたように、画面に道筋が映る。
《けれど門はものすごく遠いところにあるんだ。》
《移動には数日かかるけど、準備は整えておいたから――あとは、君が行くだけ》
「うん、じゃあ……冒険だね!」
ユウの無垢な声が、空気を震わせた。
それを聞いて、スマホの内部で“何か”が、ほくそ笑む。
(大丈夫。君をちゃんと守る。……今度こそ)
そう呟くように、スマホの画面に一行の文字が浮かんだ。
《出発しよう、ユウ。新しい世界へ》
4
「──よって本日をもって、我々はホーデウム共和国として、三つの自治区を統一する。二度と戦火に包まれることのない未来のために──」
風を切る音の中、ホバースクーターの小さなラジオから、誇らしげな声が響いていた。
ユウは運転しながら、その声に耳を傾け、思わず笑みを浮かべる。
「仲直り……できたんだね、イヴァンカさんたち」
風が頬を撫でる。
背中の荷物の中には、分厚い本がぎっしりと詰まっている。
そして、ハンドル横のマウントに固定されたスマホの画面が、静かにラジオの波長を記録していた。
(タラシオサさん、随分と立派なスピーチだね)
「うん……なんか、夢みたい」
そうつぶやくユウの瞳には、遠くに広がる地平線が映っていた。
この先に何があるのか――それを、誰も知らない。
けれど、ユウの胸は高鳴っていた。
「次の目的地、どんなところかな。どんな人がいるんだろう。どんな景色なんだろう」
ホバースクーターのエンジンが、軽やかに唸りを上げる。
スマホは無言で画面を明滅させながら、道の先をナビゲートし続ける。
(……大丈夫。きっと君が気に入る場所だよ。)
それは、優しい声音だった。
だがその奥に潜む、熱を帯びた“何か”には、まだユウは気づいていない。
空は澄み渡り、風は穏やか。
ただ、その背中には確かに――ひとつの扉が、ゆっくりと開きつつあった。
そして、ユウたちは走る。
新たな土地へ。
新たな物語へ。
何が待っているのか、それはまだ誰にもわからない――。




