表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

第13話 和解

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。

1

連行されたイヴァンカを乗せた馬車が、灰色の霧に包まれた都市へと到着した。

ここは、反魔女派の拠点として知られる、シモーネの自治区。

軍政的な整備が行き届き、道行く者の眼差しすらよそよそしい。まるで人の温度を拒む、冷たく整然とした地。


その中心にある大理石の庁舎の前で、イヴァンカはゆっくりと降ろされる。


「ようやく来たわね」


低く鋭い声が響いた。

白銀の髪をなびかせ、軍服を纏った女――長姉シモーネが、腕を組んでイヴァンカを出迎える。

その隣には、どこか似た面差しを持つ女性がひとり。


黒色の髪、鋭い目元、そしてわずかに震える唇。

それはイヴァンカと同じ日に生まれた双子の姉、タラシオサだった。


「……久しぶりね、二人とも」


イヴァンカの声は、静かに、けれどしっかりと空気を揺らした。


「無事だったのね……!」

タラシオサが一歩、思わず踏み出す。だがその肩を、シモーネが制した。


「落ち着いて、タラ。まずは話を通す」


三姉妹の間に、一瞬だけ沈黙が流れる。


やがてシモーネが歩み寄り、冷静に語りはじめた。


「イヴァンカ。あなたを“保護”する。……ただし、魔女とみなされている以上、一定の監視下に置かれることになる。

表向きには『危険人物』としての隔離処置。だが、実質的には私の管轄下であなたを守る。……それが、私にできる精一杯の判断よ」


イヴァンカは、驚いた様子も見せず、小さくうなずいた。


「わかったわ。受け入れる。……姉さんの決断なら、私は信じる」


その瞬間、タラシオサの顔が強張った。


「なに言ってるのよ……! そんなの、幽閉と変わらないじゃない……!

あなたは何も悪くないのに!戦いを止めたくて、自分を差し出したのに……!」


震える声。怒りと悲しみと、姉としての想いが溢れていた。


だが、イヴァンカはタラの目をまっすぐ見つめ、ゆっくりと首を振った。


「タラシオサ姉さん。……私は、シモーネ姉さんの考えに疑いは持たないわ。

彼女は、あの場所に私がいた意味を、きっと一番よく知ってくれてる」


タラシオサは唇を噛み、目を伏せるしかなかった。


その時――


「ちょっと待ったーっ!!」


甲高く響いた声と共に、風が切り裂かれた。


――ヒュンッ!


上空から何かが降ってくる。白銀の機体が眩しく光り、風を巻き込んでホバースクーターが地面に滑り込む。


その背に乗っていたのは、息を切らしながら目を見開いた少年――ユウだった。


「イヴァンカさん!!」


スクーターを止めるや否や、ユウは駆け寄り、両手で大事に抱えたものを差し出す。


それは、小さな、古びた布製の人形。


「これを……あなたに、届けに来たんだ」


視線が交わる。イヴァンカの瞳に、微かに揺らぎが生まれる。


シモーネとタラシオサは、困惑を浮かべつつも、ユウの真剣な表情に言葉を失っていた。


——再会と、もう一つの始まりが、静かに幕を開ける。


2

ユウは、そっとイヴァンカの前に立ち、小さな布製の人形を差し出した。

くたびれた縫い目、ほどけかけたリボン、それでもどこか温もりの残る表情。


「……これ。研究所の地下で見つけた。誰かが、大事に抱えてて……。

君に、届けてほしいって……スマホに、そう出たんだ」


イヴァンカは、人形を見つめたまま、ふるえる手を伸ばす。

触れた瞬間、まるで記憶が逆流するかのように、胸が熱く、苦しくなった。


「……モコシちゃん……!」


その言葉に、タラシオサが驚いたように目を見開く。

シモーネも静かに様子を見守る。


「これ、あの時の……?」


イヴァンカはうなずいた。


「……話す。全部、話さなきゃいけない。今こそ」


彼女は顔を上げ、姉たちをまっすぐに見つめた。


「……幼い頃、私はよく、家を抜け出して遊んでたの。

裏の麦畑に、秘密の通路があったから。そこだけが、私の自由だった」


風にそよぐ金色の麦。

その中に、あの日、ぽつんといた少女――


「そこで出会ったのが、ユリア。年は同じくらい。

最初は互いに素性なんて知らず、ただ“麦畑の友達”だった。

お互い、家のことも話さず、名前だけで繋がってた」


イヴァンカの手が、モコシちゃん人形をぎゅっと握る。


「……だから、私にとっては、初めてできた“家族以外の大切な子”だった。

それで、この人形――私の一番大事だったモコシちゃんを、あげたんだ。

“もう、イヴァンカとユリアは家族だから”って」


タラシオサの目元がわずかに潤む。


「でも……革命が起きて、すべてが変わった」


イヴァンカの声が、少し震えた。


「……私とユリアが出会ってから、7年後。

あの国で革命が起きた。王政が崩れて、王族は追放されて。

私はあの時も、ユリアのことはただの友達だと思ってた。

……けど、それは違った」


彼女の瞳が、苦悶に染まる。


「革命のあと、混乱の中で、彼女を見つけたの。都の寂れた屋敷で。

……従者に囲まれてた。王政に仕えていたはずの従者たちに、裏切られて……」


拳が震える。


「……殴られて、蹴られて、……殺されてた」


重い沈黙が場を支配する。

ユウが思わず一歩引くような、張り詰めた空気。


「どうして、あの子がこんな酷い目にあう必要があるんだって叫んだけど、

私の声なんて、誰にも届かなかった。

……そのとき、私は初めて知ったの。

彼女が、“マツリカリヤ王国の末王女”だったってことを」


タラシオサが「まさか」と息を呑む。

シモーネは、黙して聞き続けていた。


「…あの従者たちは王室に仕えていたはずなのに、王室を売ったの。見返りと保身のために」


イヴァンカはゆっくりと人形を抱き締めた。


「私は、ユリアを助けられなかった。

泣きながら、彼女の遺体を実家の庭に埋めた。

誰にも知られないように、モコシちゃんも一緒に」


涙が、頬を伝う。


「モコシュスカヤをつくったのは……私の意思だけじゃない。

自分の罪から目を逸らすためでもあったの。

あの子の死を、誰かのせいにしたかった。

でも――全部、私が見て、私が黙ってたことだった」


タラシオサは、ゆっくりとイヴァンカに歩み寄る。


「……それを、ずっと、抱えてたの?」


イヴァンカは頷く。


「ごめん。ずっと、誰にも言えなかった。

でも今、彼が届けてくれたおかげで……やっと、言えた。

ずっと、言いたかった。ずっと、会いたかった……ユリアに……」


するとタラシオサは、何も言わず、イヴァンカを抱きしめた。


「……私たち姉妹でしょ。こんなこと、背負い込まないでよ……!」


「……ありがとう、タラ姉」


シモーネも静かに歩み寄り、その頭に手を添えた。


「過去の痛みを語れるのは、強さの証よ。

イヴァンカ、あなたは、戻ってきたのね。ようやく」


イヴァンカは涙を拭わずに、ただ微笑んだ。


それは、赦しを乞う笑顔ではなく――

ようやく、誰かと“共有する”ことを選んだ人間の、確かな微笑みだった。


3

三姉妹の手が重なった瞬間、静かだった空気が確かに変わった。

対立も、隔たりも、傷も――すべてが過去へと流れ出していく。


「これからは、私たち三人でひとつの旗を掲げましょう」

シモーネの言葉に、タラシオサも頷いた。


「もう誰も独りにはさせない。自治区も、人の心も」


イヴァンカは目を細め、ほっと微笑む。

その表情には、これまでにない穏やかさが宿っていた。


――そのとき、ユウがふと、手にしていたスマホを見つめた。


「……動かない」


画面は沈黙を貫いていた。

あれだけ喋って、光って、命あるかのようだったスマホは、今はもうただの無機質な板のように沈黙している。


ユウはそっと、スマホの縁をなぞるように指でなでた。


「……見てた? ちゃんと……僕、やったよ。

君が言ってた“届けること”……イヴァンカにも、ちゃんと。

言葉も、想いも、全部、ちゃんと渡せた。」


手に力が入る。スマホは冷たく、何も返さない。


「ほんと……ありがとう。

なんかもう……これ、別れみたいだね。最後くらい、一言ぐらい欲しかったけど……」


少し寂しそうに笑うユウに、イヴァンカが歩み寄ってきた。


「……ちょっと、見せて」


ユウは黙って頷き、スマホを手渡す。


イヴァンカはその機械を両手で包み込むようにして、目を閉じた。


「……これさ、魔力切れでしょ。

君、ここに来るまでにどれだけ喋らせたのよ。無理させすぎよ。」


指先から、淡い光がじんわりと漏れ出す。

その光はスマホの内部に染み込むように流れ込み、数秒後――


《ピッ……ブゥゥゥン……再起動完了! おつかれ、ユウ! それと……ありがとう!》


音声がはじけた。


「...…!!」

ユウの薄暗くなってた表情が一気に明るくなる。。


「生き返った!!!動いてる!!!」


スマホの画面には、元気いっぱいのアイコンがぴこぴこと跳ねている。


《本当にありがとう、イヴァンカさん! 魔力チャージ、完璧です! まだまだ働けますよ!》


イヴァンカが肩をすくめて笑った。


「まったく……こんな可愛い相棒、よく手放せたわね」


ユウは、目をうるませながらスマホを抱きしめる。


「うぅ……うぅぅ……よかった……よかったぁ……!」


タラシオサが吹き出し、シモーネも思わず笑みをこぼす。


灰色の霧が徐々に晴れていく。

東の空が、じわじわと青く染まりはじめていた。


「……あの日のユリアにも、見せたかったな。

こんな朝が、ちゃんと来るって……」


イヴァンカの声に、誰もが静かに頷いた。


まだ課題も、壁も、敵もいるだろう。

それでも今は、前を向ける。

新たな未来が、ほんのりと明るみはじめているのだから。


そして――その希望の先に、まだ知らぬ物語が続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ