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流浪少女と非行青年のオークワードライフ ~Awkward Life of a Lost Girl and a Lonely Boy~  作者: 二核
分かれ道のその先で

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探し物

~old memories~

【淡々とした少年】

「……見いつけた!」

 夕暮れが茜色に染まる頃――。

 僕と“彼女”は病院の敷地内を使って、かくれんぼで遊んでいた。

 最初は僕が隠れ役だったのだけれど、見つからないと思って隠れた大きな花壇の裏を、“彼女”は最初から知っていたかのようにあっさりと探し当ててしまった。

「なんだか、妙に見つけるのが早い気がするんですけど……。もしかして、僕が隠れてるところ、見てましたか?」

 僕が訝しげに“彼女”を見上げていると、“彼女”は堂々と胸を張りながら意見した。

「いい? 人を探すコツは目以外も使うの」

「……例えば、何ですか?」

「思い出、とかね。ミーちゃん、院内を通るたびに、この花壇に植えられてる花をよく見てたでしょ?」

「……」

 完全に見抜かれた僕は返す言葉を失う。

「人は独りになった時、自分の好きな場所や人の所に行きたがるの。そこなら、どれだけ居ても寂しくないから」

 夕日に照らされた“彼女”は、柔和な笑みを僕に零す。

 そして、伝わってほしいと強く願っているように優しい顔のまま、何も言わず僕のことを見下ろしていた。

「さて! 次はミーちゃんが私を探す番よ!」

 表情が切り替わると、僕が喋る隙もない間に、“彼女”は忍者の如くどこかへ走り去ってしまい、僕は壁に目を伏せて数を数えた。

「いーち、にー、さーん……」

 もはや最後まで数える必要はあるのかと疑問に思いながら、結局百まで数えて壁から顔を離して振り返った。

 そこに広がるのは夕闇に飲まれたような、不気味で薄暗い光景。

 風に揺れる木々たちが、不吉な予感を嘲笑いながら知らせるように、ざわざわと僕の耳をくすぐった。

「……ど、どこにいるんですか……?」

 思わず声を出してしまうと、どこからともなく“彼女”の声が聞こえてくる。

「……ここだよー」

 それは、いつもの溌剌とした声とは違い、明るいのは変わらないはずなのに、それがむしろ気味の悪さを強調している。

 声は聞こえるのに、姿が見えないもどかしさ。

 そんな恐怖と孤独にとらわれながら、僕は見えない“彼女”を探し続けていた。


    ◇


【秋山海斗】

 蝉の鳴き声に起こされるようになった今日この頃。

 俺ははっきりしない目を擦りながら、ベッドを降りてリビングに足を運ぶ。

 薄暗いリビングに入ると、さっきまでの響きが嘘のように静まり返った空間が、夏の暑さを和らげた。

 そんな落ち着きとも寂しさともとれる空間に灯りを付け、静かに足音を踏んで切り分けられた食パンの包みを手に取る。

 トースターで食パンが焼かれていく音が、やけに耳を打つこの空間。

 ずっと前から、こんな日々を送ってきたはずなのに、何故か今になって当時よりも孤独を感じていた。

 それはきっと、俺の中にあったはずのものが、ずっと前に感じていた孤独を取り除いてくれていたからだろう。

 俺はテーブルの椅子の背もたれに寄りかかり、微睡んだ眼をゆっくりと閉じる。

 そして、いつか頭の中で聞いた声を、脳裏に刻んだ声をもう一度巡らせた。

 それでも、モノクロに身を包んだ存在は、あと少しで見えそうなのに風に吹かれた砂のように消え去っていく。

 美奈が再びこの家を留守にしてから、それはずっと変わらない。

 すると、トースターからシュッと食パンが焼けた音がして、俺は即座に思考を止めてパッと目を開いた。

 そして、焼けた食パンを皿に乗せて、バターナイフに付けたバターを食パンに塗ってかじる。

 心なしか、その一枚だけで、お腹は充分に満たされてしまっていた。


 ――俺の“捜し物”は未だに見つからない。




【春香由紀】

 静かな空間でおもむろに目を開くと、目の前に広がるのは真っ黒な無の世界。

 私は光を求めて穴蔵から出ると、青白い光が乾いた目を痛めつけた。

 身支度を終えて、一晩過ごした建物から出ると、私は真っ直ぐいつもの公園へ足を運ぶ。

 早朝だというのに、外はサウナのように熱気を帯びていて、せっかく洗った私服は程なくして汗が滲んでしまっていた。

 公園に到着したら、自販機で水を買い、近くのベンチに座ってペットボトルキャップを回した。

 誰一人としていない静寂に包まれた公園で、朝を告げる小鳥のさえずりがやけに耳を打っていた。

 まるで、人から忘れ去られたかのようなこの空間は、私の見ている世界に少し似ているような気がして、とても切ない気持ちになった。

 葉の隙間に差し込む陽が鬱陶しく照らし続け、私は腕でその白い光を遮る。

 何も感じない空間――。

 何も起こらない時間――。

 そんな空虚な世界で、私は未練がましく“彼”に想いを馳せ、やがては彼の後ろ姿が幻となって、遠くで煌めき揺れる水面に映し出されていた。

 恋人でも家族でもないけれど、彼と一緒にいた時間は私が想像し、欲していたものと似たような温かさがあって、いつか本物になってほしいと願わずにはいられなかった。

 私は今も、そんな疑似的な思い出にずっと取り残され、時間を追うごとに思い描いていた未来から遠のいていくような感覚を覚える。


 立ち止まってはいけないのに、どこに向かえば辿り着けるのか分からなくて、胸の苦しみは波が砂の城をさらうように蝕んでいく。


 ――私の“探し物”は未だに見つからない。

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