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 激しくドアを叩く音でリリカは目を覚ました。

 ドアの外からアレクシス王子の声が聞こえてくる。


「おい!毎回寝坊をするな!」


「今起きました!」


 リリカは慌てて顔を洗って着替えて部屋のドアを開ける。

 リビングにはすでにアレクシス王子とマーカスそして準備をしっかり整え終わっているカトリーヌの姿があった。

 数日ぶりに見るアレクシス王子は無表情な顔をして準備を終えたリリカの姿を上から下まで見ると口を開いた。


「準備が早すぎる!顔は洗ったのか?歯は磨いたのか?髪の毛は櫛を使って整えたのか?」


 乱雑に結ばれた髪の毛を慌てて手で整えながらリリカはニッコリと頷いた。


「もちろんですよ!と、いうか私の母より口煩いですよ」


 アレクシス王子は両腕を組んで小さく呟いているリリカを見下ろす。


「口煩くもなるだろう。朝は早く起きろ、俺が迎えに来るまでに準備は完璧にしておけ」


「アレクシス王子様が来るなんて知りませんでした」


「集合時間は聞いているだろう!毎回、ギリギリに起きるのは昔から変わらない……な……」


 アレクシスは首を傾げて自分の口元に手を当ててマーカスを振り返る。


「俺は一体コイツの何を知っているというんだ?」


「そんなことは知らないよ。君達昔からの知り合いなんじゃないの?」


 マーカスが呆れていると、リリカは不満気に頬を膨らます。


「アレクシス王子様がおかしいだけですよ。誰かと間違えているんじゃないですか?それとも妹とよく似ているとか?」


 アレクシスの妹ならお姫様に似ているのかと思いそれも悪くないとリリカが想像をしていると、アレクシスは首を振る。


「俺は妹などいない。だいたい居たとしてもお前みたいなだらしがないわけないだろう。俺は知っているんだぞ、お前が櫛なんてものを持っていないことを」


 宣言するアレクシスを背後から見守っていたマーカスがカトリーヌに視線を向けた。


「ねぇ、アレク様なんであんなに偉そうに櫛を持っていないことを宣言して居るんでしょうね?」


 カトリーヌも首を傾げる。


「さぁ?櫛を持っていない女性など居ないと思いますけれど……」

 

 静かに言うカトリーヌに、リリカも頷いて偉そうにアレクシスを見上げた。


「もちろん!持っていますとも、女性の身だしなみですからね」


「なら見せろ」


 偉そうに言うアレクシスにリリカは口をへの字に曲げると顔を背けた。


「持って……いますとも」


 小さく言うリリカにアレクシスは誇ったような顔をして口の端を上げた。


「持っていないんだろう?お前は昔っからそんなものを持って……いなかっ……た……」


 自信ありげに言っていたアレクシスの言葉は小さくなるとまた自らの口元を塞いだ。


「俺はお前の何を知っているんだ?」


「だから知りませんって。誰かと勘違いしているか、頭でも打ったんじゃないんですか?それとも私に気があって嘘をついてまで私の気を惹きたいとか?」


 リリカが言うとアレクシスはムッとしてリリカの頬を片手で掴んだ。

 ギュッと力いっぱい引っ張られてリリカは痛みのあまり眉をひそめる。


「いたいですー!」


「お前が変なことを言うからだろう!」


 リリカの頬をつねり続けているアレクシスにマーカスが声をかけた。


「ねー。今日は裏山に行くんでしょう?日が暮れるの早いから早く行こうよ」


「そうですね」


 マーカスの言葉にカトリーヌが頷いた。

 

「あの~、今日はどこに行くんでしたっけ?」


 あらかじめ今月の予定表を渡されていたがすっかり確認をするのを忘れていたリリカが小さく聞くとアレクシスは呆れたようにギロリと睨みつけてきた。


「裏山へエルダーの実と花を採りに行く」


「あ、そんな事が書いてあったような」


 裏山に行くから護衛としてアレクシスがやって来たのかとリリカは納得して頷いた。

 聖女の侍女として働き始めて数日が経ち、仕事や生活に少し慣れてきた。

 聖女や聖女見習いたちはそれぞれ任命された護衛騎士が付いている。

 毎日の様に出勤してくる騎士もいれば、用事があるときだけ来る騎士もいることが解った。

 アレクシスは用事ある時のみ来るタイプの騎士のようでここ数日見かけることが無かった。


 早速出発をしようとリリカの背を押すアレクシスを見上げる。


「私じゃなくて、カトリーヌ様のエスコートをしてください」


「……もっともだな」


 リリカの言葉にアレクシスはハッと気付いて頷いた。

 二人の様子を見ていたマーカスは肩をすくめる。


「いいよ、僕がエスコートするから。ねぇ?カトリーヌ様」


「そうですね」


 カトリーヌはマーカスに微笑むと歩き出してしまう。

 肩をすくめるアレクシスにリリカも肩をすくめた。


「私はエスコート結構ですよ。侍女なので」


「知っている」

 

 そう言いつつアレクシスはリリカの背を押して歩き出した。




 神殿から外へ出ると、アレクシスとマーカスはそれぞれ馬が用意されていた。

 馬を引いてきた騎士に軽く礼を言うアレクシスたちを見てリリカは隣に立っているカトリーヌを振り返る。

 聖女見習いはそれぞれ白を基調としたドレスを着ているがカトリーヌも白いレースがあしらわれたドレスを着用しており、リリカの目には神々しく見える。

 外に出ている為日に焼けないように頭から白いケープを掛けている。

 白い布の端は金の刺繍がしてあり、太陽に輝いていてとても綺麗だ。


「馬に乗って行くんですか?」


「裏の山に聖女達が世話をしている畑があるらしいの。そこまで馬で向かうわ」


「へぇ、そうなんですね」


 関心していると、カトリーヌは マーカスが差し出した手を取るとさっさと馬へと乗ってしまう。

 馬に乗りなれているようで、マーカスの後ろに乗ったカトリーヌは背を正していて美しい。

 馬の無いリリカは笑みを浮かべて頭を下げた。


「行ってらっしゃいませ」


「何見送っているんだ!お前も来るんだよ」


 なぜか怒り気味のアレクシスがリリカに手を差し出してくる。

 馬に乗ったまま右手を差し出してくるアレクシスをリリカは不思議そうに眺めた。



「私も?行くんですか?」


「何のための侍女だ。聖女候補生といえども女性一人で向かう訳が無いだろう」


「えー」


 確かに結婚もしていない女性が男性といること自体望ましい事ではない。

 そのような風潮があることも知っているが、リリカは困ったようにアレクシスの手と馬に視線を向ける。


「カトリーヌ様のように乗れません~。だいたい馬なんて乗ったこと無いですし」

「田舎暮らしで馬に乗ったこと無いわけないだろう」


 呆れながらアレクシスは馬から降りるとリリカの両脇に手を入れると持ち上げて馬へと乗せた。

 あっという間の出来事に何が起こったのか理解できず目を丸くしているリリカの前にアレクシスは乗ってくる。


「少し急ごう。予定よりだいぶ遅れている」


 マーカスが頷いたのを見てアレクシスは馬の腹を蹴った。

 急に動き出した馬から落ちないようにリリカは慌ててアクレクシスの服を掴む。


「洋服じゃなくて俺にしっかり掴まっていないと落ちるぞ」


 前を向きながら言うアレクシスにリリカは頷いた。


「解っていますよ!馬は危ないですからね」


「馬から落ちるのは1回で十分だろう」


「確かに!あの時は危なかった……って私馬に乗るの初めてですよ」


 一体何を言っているのかとリリカが訂正をすると、アレクシスも前を向きながら首を傾げる。


「お前を乗せるのは初めての様な気がしない……。なぜだ?」


 不思議そうにチラリとアレクシス見られてリリカは首を振った。


「さぁ?」


 (私も、なぜかこうしてアレクシス様と馬に乗っていたような気がする)


 馬の手綱を握るアレクシスの背を見ながら妙に懐かしいような泣きたくなるような気分になりリリカは大きく息を吸い込んだ。

 こうしてアレクシスと馬に乗って出かけていた。

 一度だけ馬から落ちたような、そんな不思議な気分になってリリカは首を傾げながら馬から落ちないようにそっとアレクシスにしがみついた。


(今度は落ちないようにしないと)


 不思議な気分になりながらリリカは心に誓った。

 

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