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「もう体調は大丈夫なのかしら?」


 日もくれそうな頃、自室に戻って来たカトリーヌが心配そうに声を掛けてくれる。

 アレクシスに介抱されて、なんだかんだと過ごしているうちにすっかりリリカは元気になった。


「はい。申し訳ありませんでした途中で退出してしまって」


 お茶を淹れながらリリカが言うと、カトリーヌは首を振った。


「とんでもないわ。リリカさんが元気になって良かったわ、イザベル様はお優しいけれどとても不思議な力があって緊張するのも無理は無いわ」


 お茶をゆっくりと飲みながらカトリーヌは言った。

 リリカにも机を挟んで前に座るように促す。


「イザベル様の居た室内も凄い綺麗でしたね。フワフワと光の粒が周りを漂っていて不思議な光景でした。聖女ってすごいんですね」


 感動していうリリカにカトリーヌは困ったように微笑んだ。


「聖女と言ってもあんなことをできる方は他に居ないのではないかしら?」


「えっ、聖女は皆さま出来るのかと思いました」


 給湯室から本日も大量に持って来た山盛りのお菓子を選びながらリリカは驚いた。

 不思議な力を持っているから聖女になれると認識していた為に誰もが聖魔女のようなことが出来ると思っていたどうやら違うらしい。


「聖女と言っても私はほとんど力が無いの……。お父様がお前は力があるから聖女として認定してもらうようにと命令されて……。ほんの少しだけ、薬を調剤するときに力が仕えるという程度なの」


 俯いて言うカトリーヌにリリカは本日のお菓子マカロンを頬張りながら頷く。


「少しでも力があったから聖女候補生になれたんじゃないですか?」


「そうね。本当に少しだけなの、きっといつか追い出されるわ」


 カトリーヌは悲しそうに言う。


「大丈夫ですよ!ウチの父が言っていましたけれど、聖女は金でどうにでもなる!ってカトリーヌ様はお金持ちなんでしょ?聖女候補生として追い出されることはないですよ。きっといっぱい寄付しているだろうし、寄付さえしていれば聖女になれるって両親が言っていましたよ!」


 あっけらかんというリリカにさすがのカトリーヌは声を上げて笑った。


「確かにそうね。お金で無理やり入れてもらったようなものなのよ。だから私なんて聖女としてなんの力もないの」


 リリカは口の中で溶けていくマカロンを味わいながら2個3個と口に入れて行く。


「でもお金があるからそれは自信につながりますよ。お金さえあれば何でも手に入りますからね」


 きっぱり言うリリカにカトリーヌは面白そうに微笑む。


「何でもは言いすぎよ。人の愛は買えないわ」


 再び寂しそうな顔をするカトリーヌにリリカはマカロンを食べやすいようにお皿を近づけた。

 先ほどから暗い顔をしてカトリーヌはお菓子を一口も手を付けない。


「アレクシス王子様とご結婚されるのでしょう?」


 リリカが言うとカトリーヌは軽く首を振る。


「お父様が望んでいるだけなのよ。我が家はお金も権力も十分すぎるほどあるのに、お父様は王家に嫁入りをさせることを望んでいるわ。アレクシス様は乗り気でないのを知っているのよ。お父様が盛り上がってしまって、年頃がちょうどいいからと無理やり私の護衛騎士にしたようなものなの……」


 カトリーヌの告白を聞いてリリカはどこかホッとした気分になる。

 アレクシスもカトリーヌも二人はお互い結婚を望んでいないのだ。

 

(どうして私ほっとしているのかしら?)


 もやもやした気分になり再び手を伸ばしてマカロンを手に取って頬張った。

 

「でもアレクシス王子様とカトリーヌ様はお似合いです」


 二人とも美男美女で、家柄もちょうど良く控えめで賢いカトリーヌはアレクシスと並ぶとこれ以上ないぐらいお似合いのカップルだ。

 少しだけ羨ましそうに言うリリカにカトリーヌは首を振る。


「お父様の言いなりに疲れてしまったわ。聖女になれ、アレクシス様と結婚しろと言われても出来ないこともあるのよ。聖女だってなれるか分からないし、結婚だってしたくないわ」


「……色々大変ですね」


 リリカが言うとカトリーヌは儚く微笑んだ。


「そうね。だから私に気を使わないでいいのよ」


「へっ?何をですか?お菓子を大量に食べることですか?」


 気を使ったことは無いがリリカがお菓子を頬張りながら目を丸くした。


「アレクシス様が気になるでしょう?」


「気になる?」


「アレクシス様も、貴女の前ではいつもと様子が違うのよ。きっと彼も貴女が気になってしょうがないのね」


「いつも怒られていますが?」


 あれを気になるというのだろうかとリリカは眉をひそめる。


「怒るほど貴女をよく見ているという事よ。私なんて彼の眼中に無いわ」


 なんて答えていいか分からずリリカが口を閉ざしているとカトリーヌは明るく笑った。


「私に遠慮なんてしなくていいのよ。私は自分に興味が無い男は嫌いだし、お父様に命令されて結婚させられるのも嫌だって気づいたの。貴方のおかげよ」


「へっ?私ですか?」


 たった数日しか過ごしていない関係なのに、カトリーヌに影響を与えるようなことをしただろうかとリリカはキョトンした顔をする。

 その顔がツボに入ったのかカトリーヌは上品に笑った。


「お菓子が好きだという事を隠さず元気なリリカさんを見ていると、私ももう少し自由でいいのだと思ったのよ」


「……うーん?そうですか?カトリーヌ様が元気になったのなら良かったような気がします」


 お菓子を食べることを褒められているのかけなされているのか解らず首を傾げるリリカだったが、カトリーヌは胸の内を話したことによりすっきりとした顔をしている。

 先ほどまではどこか寂し気な表情をしていたが、今はいい笑顔だ。

 そんなカトリーヌを見ているとリリカもあまり深く考えるのをよそうと笑みを浮かべた。


「カトリーヌ様がお元気になればそれでいいですよ!楽ししくお菓子を食べて過ごしましょう」


 リリカが大きな声を出して宣言すると、カトリーヌは目を丸くした後に声を出して笑った。


「そうね。あまり考えるのをやめるわ。楽しく過ごしましょう」


 そう言うとカトリーヌはピンク色のマカロンを手に取ると上品に一口食べる。


「神殿のお菓子は美味しいわね」


「そうですよね!私が今まで食べた中で一番ですよ」


 リリカが自慢げに言うとカトリーヌは頷いた。


「リリカさんは自分でお菓子を作ったりしていたんでしょう?」


「えぇ!だって田舎はお菓子を売っているような店が無いから仕方なく作るしかないんですよ。祖母や母から教わったり、父がたまに王都に来た時、レシピ本を手に入れてくれるのでそれを元に作るんですけれど、バターやら砂糖やら大量に使うので、お金がかかるからと作る回数を減らされました」


 不満気なリリカにカトリーヌは頷いた。


「それは大変だったわね。今度、リリカさんが作ったお菓子を食べてみたいわ」


「こんなに上手に作れませんけれど機会があればお作りしますね。クッキーなんて結構上手なんですよ!みんな私の作ったお菓子を食べると元気になるって評判でした」


「楽しみにしているわ」


 明るく笑うカトリーヌにつられてリリカも笑い声を上げながらお菓子を口いっぱいに頬張った。

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