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 激しいノックの音でリリカは目を覚ました。

 昨日は、働いた初日でクタクタになって寝床に入ってあっという間に寝てしまったらしい。

 目を開けるとカーテンを引いていない窓から太陽が差し込んでいる。

 どれぐらい寝ていたのだろうかと目を擦りながらリリカはゆっくりと起き上がった。

 相変わらずドアが激しく叩かれていて壊れそうだ。


「はーい。今起きましたぁ」


 欠伸をしながらリリカが言うと、ドアの外からアレクシスの怒号が聞こえてくる。


「いつまで寝ているんだ!お前はっ!」


 てっきりカトリーヌか先輩侍女達が起こしに来たのかと思っていたが、意外な人物の声にリリカは首を傾げる。

 

「あれ?アレクシス王子様がどうして部屋に居るんですか?」


 護衛騎士の出番なぞ外に行くとき以外必要ないだろう。

 リリカは欠伸をしながら部屋のドアを開けると、ギョッとした顔のアレクシス王子と目があった。


「お前っ!なんて格好で出てくるんだ!」


 青筋を立ているアレクシスの言葉にリリカは自分の恰好が変なのかと見下ろす。

 白のワンピース型のネグリジェはどこもおかしい所は無い。


「普通に寝間着ですけれど」

「寝間着のまま出てくるな!侍女ならば朝早く起きて準備をして、カトリーヌ伯爵令嬢の朝の手伝いをするだろうがっ!」


 「えっ、もうそんな時間ですか?そういえば、朝は何時に起きるか知らなかった……」


 髪の毛を手でと問えながら言うリリカにアレクシスはますます声を荒げる。


「お前侍女とプライドはないのか?……そんなものをお前に期待しても無駄か」


 半ばあきらめたように言うアレクシスに一体自分の何が解るのかとリリカは唇を尖らせる。


「昨日はちょっと慣れない仕事で疲れていたんです。カトリーヌ様はもうお目覚めですか?」


 ドアの前に仁王立ちしているアレクシスの横から顔を出してリビングを見るとすでに準備を整えているカトリーヌが困った顔をして立っているのが見えた。


「とっくにお目覚めだよ。お前もさっさと準備をしろ。イザベル様にご挨拶をする日だぞ」


「えっ、あの聖魔女に私も会えるんですか?」


 驚くリリカの唇をアレクシスは掴んで引っ張っった。


「聖魔女という言葉をイザベル様の前で言うなよ!失礼に当たるからな」


 唇を力いっぱい引っ張られて痛みで眉をひそめながらリリカは頷いた。


「まぁまぁ。もう十分じゃない?リリカさんも反省しているでしょう?」


 奥から現れたマーカスが引きつった笑みを浮かべながら間に入ってくれリリカの口が痛みから解放される。


「痛いですよ。もっと早く助けてくださいよー」


 残った痛みを逃すように右手で唇を摩っているリリカを見てマーカスは肩をすくめた。


「アレク様が感情的になっているところなんて見た事無かったからさ。僕、驚いちゃって……。いっつも冷静なアレク様がねぇ……。どうしたの?」


 不思議そうにしているマーカスにアレクシスは形の良い眉をひそめた。


「コイツを見ているとどうしても余計なことを言ってしまう」


「何それ?」


 マーカスとリリカは同時に首を傾げるがアレクシスも不思議そうにしている。

 アレクシス自身もよくわからないような様子に、リリカは唇の痛さアピールする。


「あまり私に触らないでくださいね!一応乙女なので」


「早く準備しろ!」


 澄まして言うリリカにアレクシスは鼻で笑うとリリカを部屋に押し込んで勢いよく扉を閉めた。




 与えられた侍女服に着替えて髪の毛を結んでリリカは部屋を飛び出した。

 人を待たせているので精いっぱい急いで準備をしたリリカをリビングで待っていた3人は驚いた顔をして見つめてくる。


「準備早いね」


 マーカスが驚いて言うとアレクシスは頷いてリリカに近づいてきた。

 また体のどこかを掴まれるのではと身構えるリリカをアレクシスはじっと見つめる。


「早すぎる!ちゃんと顔は洗ったのか?歯は磨いたか?」


 母親のように言ってくるアレクシスにリリカは仏頂面をする。


「磨いたし、顔だってきちんと洗いました!」


「本当か?髪の毛は櫛を使っているのか?」


 櫛は使わず手で整えて結んだだけなのでそこは答えないリリカにアレクシスはため息をつく。


「お前は、いい加減身だしなみはちゃんとしろといつも言っている……」


 そう言いかけてアレクシスは不思議そうに口を噤んだ。


「いつも言っている?って何ですか?私たち、昨日が初めましてでしたけれど……」


 アレクシスがいつも注意しているようないい方にリリカが追及する。

 彼は驚いたように口を噤んだままだ。


「アレク様は昨日から様子が可笑しいんだ。君達、昔からの知り合いじゃないの?」


 後ろで見守っていたマーカスが言うと同意するようにカトリーヌも頷いている。


「過去にアレクシス王子様の様な人に会ったら忘れるわけないです!」


 目の前に立っている、銀髪で美しい顔をしたアレクシスを見上げてリリカが大きな声で言った。

 リリカが今まで見た人間の中で美しすぎる人だ。

 子供の時に会っていたとしても忘れるわけがない。


「そうだよねぇ。ねぇ、アレク様一体昨日からどうしちゃったの?」


 マーカスが問いかけるとアレクシスは軽く首を振ると自らを落ち着けようと息を深く吐いた。


「わからない。俺は一体どうしたんだろうか……」


「そんなこと言われてもねぇ。私が困ります」


 昨日から身だしなみを注意されてリリカはうんざりして言うとアレクシスは無表情な顔をして頷く。


「そう……だろうな。気を付けよう……」


 自分でもなぜリリカに口煩く言ってしまうのか理解できていなさそうなアレクシスを頷くのを見てリリカも頷いた。

 様子を見ていたカトリーヌが控えめに声を掛けてくる。


「あの、そろそろ面会の時間です」


「そうだったな。すまなかった。では行きましょうか、準備はできていますか?カトリーヌ伯爵令嬢」


 リリカに注意した人とは思えない落ち着いた雰囲気でアレクシスは冷静に言う。

 カトリーヌが頷いて、リリカに声を掛けてくれる。


「リリカさんも準備は大丈夫?」

「はい、私はばっちりです」


 一応涎の跡が無いが鏡で確認して頷くリリカをアレクシスが疑いの眼差しで見てくる。


「大丈夫、顔はちゃんと洗っていますから」


 アレクシスはリリカの言葉を聞いて肩をすくめた。


「どうしてか、お前が言う事が信用できない。なぜ俺はお前の事を知っているかのように発言するんだろうか……」


 自らの発言に疑問を持っているアレクシスにリリカもマーカスも両手を上げる。


「そんなこと知らないよ」

「そうですよ。アレクシス王子様、ちょっとおかしくなったんじゃないですか?」


 リリカの言葉にムッとしながらアレクシスは部屋のドアを開ける。

 エスコートするようにドアを開けてカトリーヌを廊下に出るようにエスコートをした。

 リリカとマーカスが出るまでドアを押さえていてくれているようでリリカも慌てて廊下へと出る。


「ありがとうございます」


 お礼を言うリリカにアレクシスは不思議そうに瞬きを何度もすると静かにうなずいた。


 アレクシスを先頭に少し後ろをカトリーヌが歩き、マーカスとリリカはその後ろを並んで歩く。

 相変わらず真っ白な空間の広い廊下を、アレクシス王子は歩いて行く。

 黒い騎士服に銀の剣を差して歩くアレクシスはまるで物語から出てきたような王子様そのものだ。

 無表情に歩いているアレクシスを見ながらリリカはマーカスに問いかけた。


「アレクシス王子様って二重人格ですか?たまに様子可笑しくなりません?」


 「いや、そんなこと無いけれど……。僕はアレク様と乳兄弟なんんだ。生まれた時からアレク様を知っているけれどあんな風に女性に向かって言うの初めて見たよ」


 幼馴染から見ても様子が変なのかとリリカは納得する。


「そもそも、護衛騎士って年中神殿に出入りするものなんですか?」


 てっきり外に行くときぐらいしか護衛騎士はついてこないのかと思っていたとリリカが聞くとマーカスは微笑んだ。


「まぁそこはそれぞれだよ。聖女って貴重な存在だからそれを守る護衛騎士が居るんだけれどね、ほとんど国から派遣されることが多い。聖女の要望があれば行くけれど、用事が無くても聖女にくっついている騎士も多いいよ」


 マーカスはそう言うとそっと廊下の奥を指さした。

 白い聖女の衣装を着た女性と黒い騎士服を着た男性が廊下で立ち話しているのが見える。

 聖女の護衛騎士は手に本をたくさん持っている。


「ほら、ほぼ荷物持ちとして護衛騎士が活躍しているわけ。聖女が変なのに絡まれない用心棒みたいなもんだから、実戦はほぼ無いけれど、力だけはあるからこうして年中呼ばれることは多いかな」


「へぇぇ。てっきり侍女の仕事かと思っていました」


 聖女見習いの侍女が荷物を持ったりするのかと思っていたリリカは明るい声を出す。


「リリカさんの仕事はあんまりないかもね」


 マーカスが笑いながら言うのを聞いてリリカはますます嬉しい気持ちになった。


(お菓子は食べ放題だし、仕事は楽だし最高の仕事だわ)


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