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 力を込めてリリカはイザベルの口にエルダーフラワーから抽出した液体を入れる。

 騎士達は必死に暴れるイザベルの体を抑え込んでいるおかげでしっかりと飲ませることが出来た。

 頭を押さえているアレクシスは力を緩めず天井を見上げる。


「光の玉の数が減っている」


「効果が出ているんだわ!」


 リリカがそう言うとイザベルは大きな叫び声を上げた。


「お前たちはいつか殺した二人に顔も声もそっくり。またあの世へ一緒に送ってあげるわ……」


 苦しみながらしゃがれた声を出すイザベルの様子は聖母と呼ばれていた面影もない。

 鬼のような表情を浮かべているイザベルのプラチナブロンドは輝きを無くしみるみる白くなっていく。

 低い悲鳴を上げながら力を失っていくイザベルの様子を体を抑え込んでいた騎士達は目を見開いて見つめている。

 張りのあった皮膚は皺がより、萎んだ枯れ木の様な腕と首になって行く。

 ローエン団長は剣を構えながら静かに言った。


「魔女は死んだか?」


 アレクシスは静かにイザベルから手を離して首を振る。


「残念ながら生きているようだ」


 悲鳴を上げていたイザベルの口からはヒューヒューという呼吸の音が聞こえる。

 室内は恐ろしく静かだ。


 リリカはゆっくりとイザベルの顔を覗き込むと、骨と皮だけになった魔女の様子に驚いてのけぞった。


「もう力は出ないはずだ」


 リリカが倒れないようにアレクシスは後ろから抱き上げる。

 虚ろな瞳を彷徨わせながらイザベラはかすれた声を出す。


「聖女の力を……。私は……美しくないと……」


 ピクリとも動かないイザベラはうわ言のように呟いている。

 騎士達は注意深く離れると一応というようにぐるぐると縄で拘束をする。


「恐ろしい魔女だな。おい、エルダーフラワーって言う木の枝を切って来い」


 団長の号令にアレクシスは眉を潜める。


「どうするんだ」

「こいつが暴れたらブッ刺すんだよ。魔女の力が仕えなくなるんだろう?」


 アレクシスはリリカに視線を向けて首を傾げた。


「どうだろうか。リリカが作ったから効果があったのかもしれないが……」


「めんどくせぇな。あとでリリカ嬢に発注するか。とりあえず縄で縛って地下室に入れておけ暴れたらあの変は液を飲ませてみるか……。それもリリカ嬢が飲ませないといけないのか?聖女ってやつは面倒だな」


 騎士団長の怒号を聞きながらリリカはアレクシスにしがみついた。

 力を吸われたからか、前世からの復讐を果たしたから気が抜けてしまい視界が揺れ手足に力が入らない。


「大丈夫か?」


 心配そうなアレクシスの声を聞いてリリカはゆっくりと首を振った。


「大丈夫じゃないです」


「リリカが無事で良かった。魔女に再び愛する人を殺されるところだった」


 アレクシスは力いっぱいリリカの存在を確認するように抱きしめた。

 ゼフィランとアレクシスの声と重なりリリカは頷く。


「お互い無事で良かったです。また会えてよかった」


 疲労の限界の為にウトウトとしながらリリカが呟くとアレクシスが笑っている様子が伝わって来た。


「そうだな。前世とか来世とか信じなかったがこうして会えた」




『ゼフィラン、次生まれ変わったら何になりたい?また騎士?』


 王都の町を歩きながらフィオーレが言った。

 聖女の仕事で町に出てきている為にフィオーレは簡素な白いワンピースにフードを被っている。

 

『またその話か』


 ゼフィランはうんざりしている。


『だって、楽しいじゃない。私、今度生まれ変わったら聖女じゃなくてもいいかな』


『聖女の仕事に誇りを持っているくせに、意外だな』


『そう?やっぱり聖女は制限が多いいから次に生まれ変わったら自由になりたいわ』


 聖女の仕事も好きだが、自由になってゼフィランと暮らしてみたいという希望はある。

 フィオーレは軽く笑うとゼフィランの腕に飛びついた。


『美味しいお菓子を沢山食べるのが夢なの。神殿はお菓子が少ないからちょっとそこが不満だわ』


(そう言えば、昔の神殿はお菓子なんてなかったわね。食事美味しくなかったし)


 リリカは夢を見ながら頷いた。


『俺は何でもいいよ。フィオーレと楽しく暮らせれば』


『そう?それなら今と変わらないわね。私は来世、弟が欲しいわ、妹でもいいけれど。お姉さんって呼ばれたいの。あと仲のいい両親が欲しいかな。生まれてすぐに捨てられたから、家族は私の夢だわ』


 そう言ってほほ笑むフィオーレにゼフィランは微笑んだ。


『きっとその夢は叶うよ』





 

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