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「カトリーヌ様。元気になるよう願いを込めながら作ったクッキーなんですけれど、その願いは食べ物に反映されますかね」


 アレクシスに送ってもらい、カトリーヌがまだ勉強から戻る前にリリカはクッキーを急いで作った。

 大急ぎで戻るとすでにカトリーヌは部屋に戻っていて、リリカは慌てながらも机の上に大量のクッキーを置きながら訪ねる。


「どうかしら?そう言う事も出来る聖女はいるらしいけれど。聖女の力もそれぞれなのよ」


「そうなんですね。私、聖女ではないですが精いっぱい元気になるよう祈りながらクッキーを作りましたぜひ食べてください」


「ありがとう。リリカさんの思いが込められたクッキーなら今まで以上に元気になれそうだわ」


 ウフフっと笑うカトリーヌにリリカも頷く。


「元気になるし、魔女を退治できますから」


「魔女?退治?」


 意味が解らなそうなカトリーヌにリリカは口を噤んだ。

 マーカスやアレクシスはカトリーヌになにも言っていないようだ。

 リリカは首を振った。


「何でもないですよ。今度のイザベル聖魔女さまとのお勉強会には私もお供しますから」


 枝を手にして言うリリカにカトリーヌはますます意味が解らないと枝とクッキーを交互に見つめた。


「枝はどうしたの?アレクシス様とデートをしてきたと思ったら枝なんて持ってきて、明日マーカス様に報告しておくわ」


「いいじゃないですか。アレクシス様は文句を言いながらも切ってくれましたよ」


 その様子を思い浮かべてカトリーヌは声を上げて笑った。


「あの、アレクシス様が女性に言われて訳も分からず枝を切るなんてぜひ見て見たかったわ」


「別に普通ですよ」


 きっとこの枝がカトリーヌを守ってくれるに違い無いとリリカはギュッと握りしめた。



 



『ねぇ、ゼフィラン。生まれ変わりって信じる?』


 また夢かとリリカは思いながらフィオーレとゼフィランが並んで座っているのを見る。

 二人は幸せそうに微笑み合いながら白い花が咲いている丘にいるようだ。

 眼下には町が広がっており神殿と少し遠くに城が見える。

 

(アレクシス様とお昼を食べた場所だわ。二人が元気なときね)


 リリカはそう思いながら夢を見続けた。


『生まれ変わり?どうしたんだ突然』


 アレクシスそっくりなゼフィランは優しい表情でゆっくりとフィオーレを見つめる。


『借りた本が、生まれ変わりの恋愛物語だったの。私たちもまた出会えたら素敵だなと思って』

『なるほど。俺はそう言うの信じないし、まだ来世の話なんて早いんじゃないのか?早く神殿から出て二人で暮らす方が先だろう』

『だから何度も言っているでしょう。神殿からは出ないわ』


 ムッとするフィオーレにゼフィランが宥めるように抱きしめた。


『聖女の仕事と言っても、魔女に言いように使われているだけだ』


『……わかっているわよ。でも、町の人達が聖女が来ると喜んでくれるわ』

『そりゃ、無料で薬をくれたら誰だって喜ぶだろうな』

『嫌ないい方ね。ゼフィランってば聖女が嫌いなの?』


 ますますムッとするフィオーレにゼフィランは肩をすくめた。


『嫌いだろうな。フィオーレを拘束している聖女という職はおかしい。それに最近体調が悪そうだ』


 心配そうなゼフィランにフィオーレは微笑んだ。


『もし、私が死んだらまた次も会いましょうね』


『やめてくれよ』


 嫌そうな顔をしているゼフィランにフィオーレはまだ話を続ける。


『今度生まれ変わったら、この場所でお昼を食べたいわ。大好物の生ハムをパンにはさんで食べるのよ』

『明日にでも昼をもってくればいい。なんで来世なんだ』


 呆れているゼフィランにリリカは夢を見ながら首を振った。


(来られなかったのよ。だってすぐにイザベル様に殺されてしまったのだもの。フィオーレは知っていたのもう長くないって。ゼフィランに心配かけたくなくて言い出せなかったのよね。イザベル様に生命を吸い取られているって)


 仲良く微笑み合っている二人を見てリリカはハッと目が覚めた。

 大量の涙が頬を濡らしていて、慌てて毛布で涙を拭う。


「夢で泣いたのなんて初めてだわ」


 寂しい気持ちでいっぱいになりながら涙を拭いベッドから降りる。

 鏡を見ると腫れぼったい瞳が目に入り、いつもよりも不細工な顔にため息をついた。


「絶対に前世だわ。こんなに懐かしい気持ちになるんだもの。アレクシス様を見ると最近は胸が張り裂けそうなぐらいドキドキするし」


 顔を洗い身支度を済ませて、ベッドサイドに置いておいたエルダーフラワーの枝を見つめた。

 それぞれナイフで削り先端を尖らせておいたものだ。

 この枝で魔女の腕を刺せば妙な光の玉を放つ事は出来なくなるに違いないとリリカは直感的に確信をする。


(この知識はフィオーレから得たものよ。彼女は死ぬ間際に後悔してたもの)


 リリカは手のひらに収まるサイズにした先端の尖った枝を手に取るとポケットの中にしまった。


「そうだ、一応これも持っておこう」


 テーブルの上に願い込めて作ったクッキーと小瓶に分けたエルダーフラワーシロップもポケットに入れる。

 それぞれ、魔女が滅びるよう願いを込めて作ったものだ。


 部屋を出るといつも通りカトリーヌはすでに起きており、アレクシスとマーカスも居た。

 

「おはようございます」


 まさかアレクシスたちも居ると思わず驚きながらもリリカは挨拶をした。

 

「おはよう。今日はイザベル様と勉強会だっていうから途中まで見送ろうと思って」


 様子を見るためだろう何気なく言うマーカスにリリカは頷いた。


「心配ですよね」


 今度こそカトリーヌが死んでしまうかもしれないとリリカは不安な予感がする。

 毎回イザベルとの勉強の後は起き上がれないほど体力を消耗しているカトリーヌ。

 もしかしたら今日が最後になるかもしれない。

 フィオーレの様子と重なりリリカはポケットの中の木の枝を服の上から握りしめた。


「顔色が悪い」


 アレクシスがリリカに近づいて頬絵に手を置いた。

 じっと見つめられてリリカは心臓がドキドキしながら首を振る。


「夢見が悪くて……」

「またあの変な夢か」


 ただの夢かとアレクシスはため息をつくとさっさと離れてしまった。


(前世ではもっと心配してくれたのに)


「リリカちゃんが可愛そうだよ。もっと心配してあげなよ」

 

 マーカスが言うとアレクシスはくだらないというように腕を組んでリリカを見下ろす。


「ただの夢だ。それを幽霊が取り憑いているや、しまいには自分達の前世だと言い出したんだ。付き合いきれん」


「まぁ、気持ちはわかる」


 同意するマーカスとは対照的にカトリーヌは両手を合わせて喜んで声をあげる。

 

「素敵。きっとそうよ!アレクシス様がリリカさんの事が好きになったのは前世からの結びつきだったのね」


 感激しながら言うカトリーヌを見てマーカスも首を傾げながらも頷いた。


「そう言われると納得できるかもしれない。アレク様がリリカちゃんに惚れる要素が疑問だったけれど、前世は美女だったのなら理解できるかなぁ」


「今だって可愛いですよ」


 前世の自分の顔も夢で見る限り現在と全く変化が無い。

 今更顔も今の自分たちとそっくりだったとは言いだせず、リリカ小さく呟いた。


「そろそろ部屋を出ないと遅刻しちゃうよ」


 マーカスに言われてリリカ達は部屋を出た。


 イザベルが居る部屋へ向かいながらリリカは隣を歩くアレクシスを見あげる。

 前世の記憶だと認識したからだろうか、アレクシスを見ると心の奥がぎゅっと締め付けられ愛おしさと寂しさが入り混じり泣き出したいような気持になる。

 

「なんだ俺の顔を見て」


 視線だけを向けてくるアレクシスにリリカは慌てて首を振った。


「いつ見ても素敵だなぁと思いまして」

「今更何を言っている。それより、お前は何もするなよ」


 きつい口調で言われてリリカは頷いた。


「解っていますよ。なにもしませんよ」


 もう自分は聖女ではない。

 イザベルに命を取られることもない。

 それでもまだイザベルが聖女の命を糧に生きているのだと思うと何とかしなければという思いが出てくる。

 もう、以前の自分たちの様な悲しい人たちを出すのは嫌だとリリカは唇を噛んだ。


「あの枝はどうした?」


 アレクシスに静かに聞かれてリリカは小首をかしげる。


「枝ですか?部屋に置いたままになっていますよ」


 本当は先を尖らせていつでも使えるようにし、ポケットに忍ばせていることを伏せてリリカは告げた。

 

「馬鹿なことを考えるな。あんな枝でどうにかなるわけがない」


 きつく言うアレクシスにリリカは頷く。


「解っていますよ」



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