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『人生何があるか分からないわね』


 リリカと同じ顔をしたフィオーレが困ったような顔をしてそう言った。

 アレクシスと同じ顔をしているゼフィランが心配そうにフィオーレを抱きしめた。

 フィオーレはベッドの上に横になっていて体の調子が良くないようだ。


『大丈夫だ。きっと良くなる。少し体力が回復したら神殿を出よう』

『無理よ。私たち神殿から出てどこで暮らすというの?』


 顔色の悪いフィオーレが言うとアゼフィランは首を振る。


『何とでもなる。フィオーレは幼少期から神殿にいるせいで世界を知らなさ過ぎるんだ。聖女だったことを隠して違う国へ行けば普通に暮らせる。そこで二人で暮らしていこう。俺は騎士だし、用心棒や力仕事ならできるから』


『嫌よ。聖女じゃなかったら私は私ではなくなるわ。お願い、私は聖女でありたいの。人々を救いたいのよ、でもゼフィランだって傍に居ないと無理なのよ』


 縋りつくように泣くフィオーレを抱きしめてゼフィランは苦痛の表情を浮かべた。


『明日、魔女と瞑想の勉強だったな。フィオーレはその後必ず体調を悪くする。今度の魔女との勉強の日、俺は隠れて何をしているか見ているから、もしフィオーレに害がお呼ぶようなら俺はその場で魔女を殺す』


『やめて。イザベル様は慈愛に満ちた立派な方よ。身寄りのない子供たちを救っているのよ。私だってイザベル様が立てた孤児院で過ごして、そうして聖女になることが出来たのよ。恩人なのよ』


『何もなかったらしないさ。もし、フィオーレの命が失われそうになったら俺は魔女を成敗すると言っているだけだ』

『何もないわよ。ただの勉強だもの。聖女の力を引き出してもらっているだけよ。私が死にそうだったらゼフィランが飛び出してきてもいいわよ。でもきっとそんなことないもの』


 フィオーレがそう言うと、ゼフィランは眉を潜める。


『お前が心配するから言わなかったが、魔女との瞑想中に命を落としている聖女も数人いる』

『たまたまよ』


 『瞑想中に死ぬ聖女が居ること自体可笑しいだろう』


 ゼフィランが声を上げたと同時にリリカは目を覚ました。


 心配そうに顔を覗き込んでいるカトリーヌと目が合ってリリカは自分がどこに居るのか分からなくなり何度も瞬きを繰り返した。


「どうしたの?うなされていたわよ」


「あ、すいません。陽気がいいからついウトウトしていしまいました」


 主人が勉強をしているのに寝てしまうなどとんでもない事だとリリカは涎を拭きながら頭を下げた。

 カトリーヌは怒っている様子もなく、本当に心配そうだ。


「よっぽど石碑に書いてある二人の事が気になるのね。なにかあったの?」


「え、どうしてですか?」

「うなされながらゼフィランって何度も呟いていたわよ」

「ほ、本当ですか?」


 自覚無く、実際に会ったこともない人物の名前を呟くなどありえない。

 

(まぁ、アレクシス様の名前を呼ばないだけよかったわ)

 

 先ほどまであんなことがあったからと思わずニヤニヤしそうになるリリカにカトリーヌは珍しく意地の悪そうな笑みを浮かべている。


「アレクシス様の名前ではなくて、どうしてゼフィラン様のお名前なのかしら?アレクシス様といい感じなのにね」


「えっ?そんなことないですよ」


 挙動不審になっているリリカの脇腹をカトリーヌは突っついた。


「またまたぁ、絶対に何かあったでしょう。アレクシス様の雰囲気がいつもと違うもの。リリカさんを愛しているって自覚してからアレクシス様態度の出すぎよ」


「へぇぇ?」


 恥ずかしさと驚きで奇妙な声を出すリリカに、カトリーヌはますます脇腹を突く。


「マーカス様と噂をしていたのよ。アレクシス様はまぁ、襲うことは無いけれどまたキスぐらいはしたの?」


 意地悪いカトリーヌの質問に、リリカは先ほどまでの出来事を思い出して顔を真っ赤にする。

 口をパクパクしているリリカにカトリーヌは上品に笑った。


「うふふっ。可愛いわね。マーカス様に密告しちゃいましょ」

「止めてください。マーカス様からまた騎士団長に伝わるじゃないですか」


 必死に止めるリリカにカトリーヌは勿体ぶりながら首を傾げた。


「リリカさんがあのクッキーを作ってくれたら、しばらく黙っていることにするわ」


「へっ、エルダーフラワーのクッキーですか?」


「あれを食べると元気になるのよ。イザベル様との勉強会がもうすぐあるからお願いしたいわ」


「クッキーを作るのは良いですよ。また、イザベル様と瞑想の勉強があるのですか?」


 1か月に1回程度だったはずだと疑問に思っているリリカにカトリーヌの顔が曇る。


「私は見込みがあるとかで、イザベル様が回数を増やされたのよ。週一度になったの」


「そう……なのですね」


 夢で見た体力を消耗し死にそうになっているフィオーレとカトリーヌの姿が重なりリリカは不安になる。

 あの後フィオーレとゼフィランはどうしたのだろうか。

 二人で神殿から逃げたのだろうか。

 そうであってほしいと願った。




 『フィオーレ、頼む死ぬな』


 悲痛な顔をしているゼフィランが呼んでいるのが聞こえる。

 夢の中でリリカは目を開けた。

 なぜか自分はフィオーレになっていて、ゼフィランに抱かれているようだ。

 ゼフィランの背後にはイザベルが居る大きな部屋の天井が見える。

 吹き抜けのドーム型の天井には薄暗いが、イザベルから出ている不思議な光る玉がフヨフヨと浮いている。

 幻想的な光景を見ながらリリカは夢の中なのに体に力が入らない。


(妙に現実的な夢ね)


 体は動かないが、視線を動かしてゼフィランの美しい顔を見る。

 アレクシスと全く同じ顔をしているがゼフィランは表情が豊かだ。

 良く笑ったり怒ったりしているのを思い出し、今は泣き出しそうな顔をしている。


『ゼフィラン』


 やっと思いで声をだしたフィオーレにゼフィランはとうとう大粒の涙を流す。

 美しい人は泣き顔も綺麗なのだなと眺めているとゼフィランは後ろを振り返った。


『魔女め!聖女の力を吸い取っていたなんて!』

 

『ふふっ。魔女なんて失礼ですわ。私は、世界の人のために聖女の力を拝借しているだけなのよ。ただ、弱い子はすぐに死んでしまうけれど。その子も弱かっただけよ』


 今と変わらない容姿のイザベルの周りには光の玉が浮いていて、美しさと相まって恐ろしく見える。

 プラチナブロンドの長い髪の毛も光をまとい輝き、幻想的だ。

 イザベルは大きな玉座の様な椅子に腰かけたままゼフィランに人差し指を向ける。


『聖女とそれを守る騎士。なんて美しい光景なのかしら。私、恋物語が好きなのよ。狭い神殿で少しでも乙女の気分になってもらうと騎士を付けてみたの。楽しいわね、聖女が弱ると騎士も弱るわ。人間の浅はかさを見るのは楽しいわ』


『何を言っているんだ?』


 イザベルの言う事が理解できないとゼフィランは眉を潜めた。


『私の趣味だから気にしないで。ただ、その子はもう用済みね。聖女の力を全て私が吸いとったから。でも今までで極上の生気だったの。私の肌を見て、今まで以上に艶と張りがでてその子の生気のおかげよ』


 イザベルはそう言うと右手の平をゼフィランとフィオーレに向ける。

 イザベルの右手の平に光の玉が集まり大きくなっていく。


『さようなら。可愛い私の子供達』


 イザベルがそう言うと同時に光の玉がゼフィランとフィーレに放たれた。

 大きな光の玉はゼフィランとフィーオレに向けて加速していく。

 フィオーレを守るようにゼフィランは力いっぱい抱えながら剣を抜いた。

 ゼフィランの抜いた剣は光の玉を切り裂く。


『お前に殺されてたまるか』


『ほほっ、なにも力を持たない子供の分際で』


 イザベルは軽く笑うと再度光の玉を放つ。

 何度か剣で光の玉を切り裂いていたゼフィランにイザベルは軽く笑って右手を空に向けると人差し指を立てて印を切った。

 

 『ウッ』


 そのとたんゼフィランの体が動かなくなりフィオーレの体が地面へと落ちる。


『拘束の力だわ。イザベル様だけが仕える不思議な力……。右手を使えなくさせればいいのよ』


 囁くようにフィオーレが言うがゼフィランの体は指一本動かくすことが出来ない。

 このままだとゼフィランも死んでしまうとフィオーレはなんとか立ち上がる。


『ゼフィラン、お願い逃げて』


 イザベルの手の平から再び大きな光が放たれ、フィオーレはゼフィランの前へ飛び出した。

 光の玉はフィオーレの体に当たり、衝撃で地面へと叩きつけられる。

 内臓をやられたのかフィオーレの口から大量の血が吐き出され、ゼフィランは半狂乱になりながら叫んだ。


『フィオーレ!死ぬな!』


 狂ったように叫ぶゼフィランに、イザベルは笑いながら再び光の玉を放つ。


『大丈夫よ。二人であの世へ行きなさい』


 地面に横たわっているフィオーレは薄暗くなっていく視界からゼフィランが光の玉に当たり地面へと叩きつけられるのが見えた。

 血塗れになりながら何とかゼフィランの元へと這いずっていく。


 息も絶え絶えに、ゼフィランに手を伸ばすと彼も手を伸ばし掴んでくれる。


『ゼフィラン。愛しているわ』


『俺も愛している。もし、次に生まれ変わったらまた君を愛すよ』


『私もよ』


 そう誓ってフィオーレは目を閉じた。



 

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