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『フィオーレ。顔色が悪い』


 アレクシスとよく似た男性がリリカの頬に触れた。

 なぞるように撫でられてリリカは首をすくめる。


『最近体が重くて。なぜかしらね、イザベル様とお勉強をすると必ず立ち上がれないほど疲れるの』


『このままでは死んでしまう。フィオーレ、神殿を出よう』


 ゼフィランの提案にリリカは首を振った。


『聖女は私の生きがいなの。だいたい神殿を出てどこで暮らすの?私たち親も居ないじゃない。行く当てなんてないわよ』


『大丈夫だ。どこかの国で用心棒でもして暮らしていくとだって出来るさ。こう見えて俺は剣が強い』


 心配そうなゼフィランにリリカは首を振る。


『私はここを出て行きたくないわ。聖女として死ぬのなら本望よ』

『死んでほしくないから言っているんだ。イザベル様はどう考えても普通ではない』


 様子を見ていたリリカは頷く。


(そうよ。イザベル様は普通じゃないわ。生気を取られているんだもの、体調が悪くなるの当り前よ)


 夢の中で言うリリカの声は二人には当たり前だが聞こえていない。

 ゼフィランはフィオーレを抱きしめた。


『フィオーレが死んだら俺は生きていけない』

『私もよ、ゼフィラン。愛しているわ』


 甘酸っぱいような気持ちになってリリカは目を覚ました。


「最近毎日のように変な夢を見るわ」


 目を擦りながらリリカは起き上がり、身支度を整える。

 今日は寝坊せずちゃんと起きられたようだ。

 欠伸をかみ殺しながら着替えて髪の毛を手で整える。


「おはようございます」


 リビングへ行くと、かぜかアレクシスとマーカスもすでに居て呆れた様子でリリカを迎える。


「遅い。侍女のくせにカトリーヌ嬢より遅く起きるヤツが居るか」


 母親のようにお小言を言うアレクシスにリリカは唇を尖らせた。


「遅いって時間通りですよ」

「時間通りが遅いと言っているんだ。少し前に行動しろ」


 (こんなに小言を言う人だったかしら。ゼフィランはあまり煩く言わなかったわよ)


 当たり前のように思ったことにリリカは首を傾げる。

 なぜ、ゼフィランとアレクシスを比べたのだろうか。

 ただの夢なのに。


「どうしたの?体調でも悪いのかしら」

 

 心配そうに声を掛けてくるカトリーヌにリリカは首を振った。


「いえ、最近変な夢を見るんですよ。それでちょっとおかしいのかもしれないです」


「夢?」


 どんな夢を見たか言えというアレクシスの圧力を感じてリリカは仕方なく話す決意をする。


「ただの夢なんですけれど、ゼフィランとフィオーレと呼ばれる男女が仲良くしている夢です」


 もしゼフィランがアレクシスならば何か心当たりがあるかもしれないと不安になりながら言ってみた。

 アレクシスは無表情なまま鼻で笑う。


「聞いたこともないような男女が出てくる夢を見るなんて大丈夫か?」


「何か物語で読んだんじゃない?」


 マーカスもそんなことかと笑いながら言うが、カトリーヌは顎に手を置いて天井を見上げた。


「聞いたことがありますわその名前。昔、聖女と聖騎士だった二人のお名前ですよ」


「えっ?」


 予想外のカトリーヌの言葉にリリカは声を出して驚いた。

 アレクシスの言うようにただの夢だと思ってたが、実在していた人物だという事だ。


「やっぱり何かで読んだんじゃない?」


 マーカスはそう言うがカトリーヌは不思議そうに首を振った。


「それは、考えられませんわ。聖女の騎士と聖女の名前が書かれている石板が図書室の裏にあってたまたま目に入ったのがその二人でした。たしか、10代目で区切りがいいからたまたま見たのです」


「なるほど、物語じゃないってことは霊的な何か?」


 マーカスが言うがリリカは首を振る。


「そんなのありませんよ。美男美女の二人でした」


 アレクシスに似ている男性は美男と言っていいだろうが、フィオーレはリリカとそっくりな顔で決して美女とは言えない。

 それでもアレクシスは否定するわけでなく肩をすくめている。


「美女をやたら強調するな」


「そりゃ、そう夢で見ましたから」


「ただの夢ではなさそうな気もするが、石板を確認してみよう」


 アレクシスがそう言うと、カトリーヌは頷いてリリカに視線を向ける。


「私は今日城へ行く用事があるの。マーカス様に送ってもらうからリリカさんはアレクシス様とどうぞごゆっくりしてらして」


 ウフフっと乙女のように微笑むカトリーヌにリリカは顔を赤くする。


 これは絶対に何か聞いただろうとマーカスを見ると彼もニヤニヤと笑っている。


「僕は騎士団長とレオナルド様が面白おかしく話してくれたことをカトリーヌ様にちょこっと言っただけだよ。大丈夫、僕達口が堅いから」


 ねーというようにマーカスとカトリーヌはお互い顔を見合わせている。


「ローエン団長様、口が堅いと自分で言っておきながらっ!全く固くないですよ!何が命にかけてですか、ペラペラ話して」


 あまり広めてほしくないことをマーカスとカトリーヌが知っているという事実にリリカは真っ赤な顔をしてこの場に居ないローエン団長に文句を言った。


「そう言う人たちだ。俺をからかうのが嬉しくて仕方ないんだろう」


 いつもと変わりないアレクシスにリリカはムッとする。

 もともとの原因はアレクシスではないか。

 あの場でキスなんてするからみんなにからかわれるんだと言ってやりたかったが恥ずかしくてカトリーヌやマーカスの前で言うことが出来ない。

 口をパクパクさせているリリカを見てアレクシスは軽く笑う。


「金魚みたいな顔をしているぞ」


「失礼ですよ」


 怒りと恥ずかしさで顔を赤くしているリリカの背をマーカスが叩いた。


「僕達は城へ行くから二人はゆっくり喧嘩でもしていてよ。面白いやり取りだったよ」


「ローエン団長に言うんですか」


「だって、話が聞きたくて待っているんだもの」


「えぇぇ、あんまり変なことを言わないでくださいね」


 情けない声を出すリリカに手を振って二人は部屋を出て行った。

 アレクシスは優雅に足を組んでお茶を飲んでいる。


「まぁ、諦めるんだな。カトリーヌ嬢には魔女の事は伏せているから安心しろ」


「どうしてですか?」


「魔女との勉強会に行かれなくなったら情報が集められないだろう」


 確かにそうかもしれなとリリカは頷く。


「二人は何をしに城へ?」


 リリカが聞くとアレクシスは肩をすくめた。


「カトリーヌ嬢の父親と面会だ。神殿には入れないからな。俺はあの父親と会いたくないから城へは行かない」


「なるほど。暇なんですね」


 優雅にお茶を飲んでいるアレクシスはムッとして立ち上がる。


「暇だがお前に言われると腹が立つのはどうしてだろうな」


「知りませんよ。それなら、図書室の裏にあるという石板を見に行きましょう」


 アレクシスが居なくても見に行く予定だったが、リリカが誘うと頷いた。


「そうだな。暇だから見に行くか」


 よっぽど暇を持て余していたんだなと思いながらリリカはアレクシスと共に部屋を出た。




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