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 室内に入るとすでに二人の男女が椅子に座ってアレクシスとリリカの到着を待っていたようだった。

 リリカとアレクシスが部屋に入ると二人は席を立って頭を軽く下げて迎えてくれる。

 リリカに頭を下げているわけではないが何となく偉くなったような気がしながらリリカも軽く頭を下げた。

 

「遅いよ!アレク様」

 

 アレクシスと同じぐらいの年の青年が文句を言った。

 茶色い髪の毛に柔らかな雰囲気をした男性にアレクシスは手を上げて答える。


「すまない。リリカ嬢とばったり神殿の前で会ってここまで連れてきた」


 アレクシスに背を押されてリリカは二人の前に立たされる。


「リリカと申します。今日から聖女付き侍女として雇われることになりました」


 リリカが頭尾を下げると、茶色い頭の男性と女性が笑みを浮かべて頷く。


「僕はアレク様の部下みたいなものでマーカス。こちらはリリカ嬢が侍女として仕える聖女見習いのカトリーヌ伯爵令嬢」


 人の良い頬笑みを浮かべながらマーカスが紹介すると、カトリーヌもニッコリと微笑んだ。


「初めまして。カトリーヌと申します。リリカさん、どうぞよろしくお願いします」


 伯爵令嬢の割に気取らない態度のカトリーヌにリリカはホッとしながら頷く。

 マーカスは人のいい笑みを浮かべながらリリカを見つめた。


「紹介状に書いてあったけれど、リリカ嬢は田舎からでてきたんでしょう?」


「はい」

 

 王都から少し離れた田舎で生まれ育ったリリカは素直に頷くとアレクシスはリ鼻で笑った。


「貧乏男爵家で田舎に住んでいたせいか、俺の顔も名前も知らなかったようだ」


「えぇぇ?アレク様を知らない人なんて居るんだ!」


 大げさに驚くマーカスにリリカはそんな人、沢山いるだろうと言いそうになり慌てて言葉を飲み込む。


「存じ上げませんで大変失礼をしました」


 心のこもっていないいい方にマーカスは関心したように何度も頷いた。


「いや、そりゃ貴重な存在だと思うよ。アレク様って人を近づけさせないような怖い雰囲気を持っている美形の王子様だから女性にすごく人気なんだよ。町の女性だってみんな知っているのに、アレク様を知らない女性が居るなんてねぇ」


 マーカスは言うと思い出したようにカトリーヌを指さした。


「ちなみに、美形のアレク様の婚約者候補の一人であらせられるのがこちらの聖女候補生のカトリーヌ嬢だよ」


「はぁ、なるほど。確かにお綺麗ですからねぇ」


 カトリーヌは金色の長い髪の毛を結い上げており、綺麗にお化粧をされた顔は確かに美人だ。

 キリリとした顔をしており、一見冷たいように見える。

 伯爵令嬢という事もあり、家柄などもアレクシス王子と釣り合うのだろう。

 自分とは関係のない世界にリリカが関心をしていると、アレクシスは眉をひそめる。


「候補というだけで、決定ではない」


「えっ?じゃぁ、どうしてここに居るんですか?」


 てっきり婚約者の様子が心配で見に来たのかと思っていたが何のために居るのだろうかとリリカが思わず言ってしまう。

 リリカの悪意のない問いに、マーカスは噴き出して笑いだした。


「確かに!どうしてアレク様はここに居るんですか?」


 揶揄うように言うマーカスにイライラしながらアレクシスは口を開いた。


「聖女には騎士が付く。聖女候補生にも護衛騎士が付く。俺はカトリーヌ伯爵令嬢の護衛騎士としてここに居る」


「護衛騎士ですか。そりゃすごいですね」


 聖女ともなると候補生だとしても護衛が付くのかとリリカは頷く。

 マーカスとアレクシス、どちらも剣を下げており騎士のような恰好をしているのを見てリリカは首を傾げた。


「そもそも、アレクシス様は王子様なんですよね?護衛するほど剣がお強いんですか?」


 リリカの問いにまたマーカスは声を上げて爆笑をして、カトリーヌも視線を逸らして笑っている。

 アレクシスだけムッとしてリリカのふくよかな頬を両手で引っ張った。


「お菓子を食っているお前よりは剣は強いと思うが」

「止めてください。痛いですぅ」


 グニグニとリリカの頬をアレクシスは引っ張る。

 その姿を見て爆笑していたマーカスとカトリーヌは驚いて笑みを引っ込めた。


「アレク様がちょっとおかしい……。そんなことをする人じゃないのに……。ねぇ?」


 マーカスは驚きながら言うとカトリーヌに同意を求めた。

 カトリーヌも驚きながら苦笑して頷く。


「そうですね」


 二人の視線を感じてアクレクシスはリリカの頬から手を離した。

 力強く頬を引っ張られたために痛みを逃すようにリリカは自分の頬を摩りながらアレクシスを見上げる。


「酷いじゃないですか!二の腕や頬を勝手に触らないでください。こう見えて私は乙女なんですよ」


「触りやすい肉付きをしている方が悪い。嫌なら菓子を食うのをやめることだな」


 反省している素振りもなく言うアレクシスにリリカは首を振った。


「嫌です。お菓子をやめたら何のためにここへ働きに来たのか解りませんから」


「何度も言うが、神殿の食い物はお前の為じゃなく聖女と聖女候補生の物だ。わきまえろ」


「だったらアレクシス王子様はお菓子を食べないんですね」


 頬を摩りながら言うリリカにアクレクシスは頷いた。


「甘いものは好きでないからお前と違って菓子など食わん」


 言い合いをしているリリカとアレクシスを見てマーカスは信じられないものを見たような顔をして呟いた。


「アレク様の様子が可笑しい。明日、雨降るんじゃない?」


「嵐かもしれませんわね」


 カトリーヌもいつもと様子の違うアレクシスを見つめて呟いた。



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