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 体調の悪そうなリリカを心配しつつ、アレクシスたちが待つドアを侍女が開けてくれる。

 ドアから飛び出してきたリリカを迎えてくれたのはマーカスだ。

 顔色の悪いリリカをマーカスは覗き込んできた。


「大丈夫?」


「緊張してまた体調が悪くなってしまいました」


 すぐ傍にイザベル付の侍女と騎士が居る手前リリカは真実をいう訳にもいかず荒く息を繰り返した。

 

 マーカスはリリカの背撫でながら困ったようにリリカに言った。


「今、アレク様が居なくて。カトリーヌ様を僕が部屋まで送る役割になっているんだけれど、一人で部屋に帰れる?」


「大丈夫です。……アレクシス様はどちらに?」


「すぐ戻ってくると思うけれど。息が詰まるって言って庭に行ったんだよね」


 「そうなんですね。私は一人で帰れますので……」


 リリカが言うとマーカスは頷いた。


「気を付けてね」


 ゆっくりと歩き出しながらリリカはアレクシスの姿を探す。

 先ほど見た恐ろしい光景をアレクシスに伝えないと。


 フラフラと歩きながらリリカは確信があった。

 アレクシスは裏庭のベンチにいるはずだ。


(だっていつもあの場所に彼は居たもの)


 なぜかそう思いリリカは荒く呼吸を繰り返しながらゆっくりと廊下を歩き、裏口へと向かった。

 人気のない裏口から外へと出る。

 太陽の光が差して眩しくて一瞬目を閉じた。


 ざわざわと風に揺れる葉の擦れる音が聞こえてきてリリカの心が少し落ち着いてくる。


 ゆっくり目を開けて深呼吸を何度か繰り返した。

 裏には木々がうっそうと茂っており、とても人が居るように見えない。

 それでも彼はそこにいるはずだ。


 木々の間を通り抜けて、アレクシスと過ごしたベンチへと向かった。

 アレクシスと来た時と道は違うが、リリカはなぜか場所へと向かう道を知っている。

 彼と過ごした思い出の場所だ。


 ゆっくりと歩いてベンチへと向かうと、アレクシスが座っているのが見えた。

 日に照らされているアレクシスの姿を見てホッとしたのと同時にどうしようもなく懐かしい気持ちになる。

 安心感からかアレクシスの姿を見たとたん、リリカの瞳から涙が零れ落ちた。


 人の気配に視線を向けたアレクシスは大粒の涙を流しているリリカを見て驚いて立ち上がった。


「どうしたんだ?」


「また、体調が悪くなってしまって」


 嗚咽しながら言うリリカに近づいてアレクシスはそっと背を撫でる。


「体調が?」


「それに、ちょっと言いたいことがあるの。聖魔女さまについて」


 小さく言うリリカにアレクシスは周りを見回して軽く首を横に振った。


「この場では言わない方が無難な内容だろうな。……少し表に行くか」


 アレクシスはそう呟くとリリカを担ぎ上げた。


「うえっ?何ですか?」


「体調が悪いんだろう?気分転換に外へ出るのもいいだろう」


「いや、それはまずいですって」


 勉強中のカトリーヌを置いて外出するのは良くないだろうとリリカは焦るがアレクシスは無表情だ。

 

「担がれてたら何事かと噂になりますからおろしてください」


 暴れるリリカにアレクシスはため息をついてそっと地上へと降ろした。


「気分は悪くないのか?」


「大丈夫です。驚きすぎて治りました」


 アレクシスと会ったからか、驚いたからかは不明だがリリカの体調不良も涙もすっかり止まっている。

 注意深くリリカの様子を見てアレクシスは頷いた。


「とにかく、いったん外に出よう。……城へ帰るか」


 アレクシスの中で一番安全な場所は城なのだろう。

 間違いなく誰にも聞かれたくない内容なのでリリカは頷く。


 リリカの足取りがしっかりしているのを確認してアレクシスも歩き出した。



 受付でリリカとアレクシスが外出することを伝え、馬小屋へと向かう。


「馬で帰るんですか?」


「たらたら歩いて帰るわけないだろう」


「いや、馬車とかかなぁって思いました」


「いちいち馬車なんて呼んでいられるか」


 アレクシスは、白い馬を受け取るとリリカに手招きをした。

 花を採りに行った時と同じ馬を見てリリカは頷く。


「馬、苦手です」

「そう言うな」


 アレクシスは気の進まなそうなリリカの両脇に手を入れて持ち上げると馬に乗せた。

 そして飛び乗り勢いよく馬を走らせた。


「ひぃぃ。急に飛ばさないで下いよ」


 調子の戻ったリリカを見てアレクシスは軽く笑う。


「お前の話とやらを早く聞いてみたいからな」


「……思い出すと気分が悪くなります」


 沈んだ様子のリリカを一瞬振り返って見つめたアレクシスは笑みを引っ込める。


「俺も聞くのが恐ろしくなってきたな」


「とても、信じてもらえないかもしれないです」


 落ちないようにしがみついていたリリカの手に力がこもる。


「大丈夫だ。お前の言う事は全部信じる」


 表情は見えないがアレクシスの言葉にリリカは心が温かくなる。

 彼は嘘をついていないと信じることが出来た。


 まるで昔からの親友の様な安心感を感じてリリカはアレクシスの背中にぎゅっと抱きつく。


「ありがとう。アレクシス様」


 小さく呟いたリリカにアレクシスは前を向いたまま口の端だけを上げた。


「何があっても俺はお前の一番の味方だよ」


 アレクシスの言葉は初めて聞くはずなのに何度も聞いたような気がしてリリカは懐かしさを感じながら頷いた。





 アレクシスとリリカを乗せた馬はしばらく走り城へとたどり着いた。

 アレクシスの突然の帰城に驚く様子もなく、門を通り抜けるとアレクシスは馬を降りた。


「アレクシス様、お早いお帰りですね」


 若い騎士が近づいてきて気軽に話しかけるが馬に乗ったままのリリカを見て目を大きく見開いて驚いている。


「お、女の人が乗っていますよ!幻?幻想?」


「カトリーヌ嬢の侍女だ」


「侍女?実在するお方ですか?ど、どうしたのですか?」


 驚いている騎士を見てリリカは申し訳なくなってきて頭を下げた。


「す、すいません。私なんかがアレクシス様と共に馬になんぞ乗って……」


 本来ならば口を利くことも出来ないぐらい位の高い人なのだから、馬に共に乗るなんていけないことだったのだろう。

 リリカはそう思って頭を下げるが、アレクシスは首を振った。


「お前が思っているような事ではない。驚いているのは俺が女性と馬に乗っているからだろう?」


 無表情に言うアレクシスと対照的に若い騎士は驚きながらも何度も頷いた。


「そうです。そうですとも!ど、どうして女性と一緒に?」


「……話をするために連れてきた」


 アレクシスはそう言うとリリカの腰を掴んであっという間に地上へ降ろした。

 様子を見ていた若い騎士はますます驚いてのけぞっている。


「あ、アレクシス様が女性を馬に乗せて、優しく降ろしている!これはヤバイ。明日嵐が来る!」


 独り言のように言うと、転びそうになりながら走って行ってしまう。

 慌てて走り去った若い騎士を見つめてリリカは首を傾げた。


「凄い驚いてどこへ行ったのでしょうか?」


「騎士団長と兄に告げ口をしに行ったのだろう」


「告げ口?」


 自分が来たせいかとリリカの顔が曇ったのを見てアレクシスは軽く首を振った。


「女性と馬に乗って俺が帰って来たことが珍しいんだ。兄たちが様子を見に来る前にさっさと行こう」


 アレクシスに背を押されてリリカは歩き出した。

 まさか田舎に居た自分が王都の城へ王子様とやってくるなんてと信じられない気分でキョロキョロと辺りを見回す。

 豪華な造りの神殿と比べて城は質素な造りだ。

 敷地は大きく何塔も建物が立っているが、灰色の石作りで絢爛豪華とは言えない。


「もっと金ピカかと思っていました」


 口を開けながらキョロキョロしているリリカにアレクシスは苦笑する。


「神殿が異常なんだ。あれだけ長い間お金をかけている団体はそうないだろ。寄付もすごいが税金も沢山つかっているからな」


 アレクシスは小さく言うとリリカの背中を押しながら歩く。

 廊下を歩き、部屋の一室のドアを開けた。


 中に入る前にアレクシスは周りを見回して誰も居なことを確認してからリリカを押して部屋へと入る。


「意外と城は人が少ないんですね」


 部屋に入るまで誰にもすれ違うことが無かった。

 不思議そうなリリカにアレクシスは軽く頷いた。

 

「人が居ない通路を選んだ」


 アレクシスは小さく言うとドアを閉める。

 両腕を組んでリリカを見下ろした。


「で、お前は何を見たんだ」


 

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