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 カトリーヌが聖魔女と瞑想の勉強をする日になった。

 イザベル聖魔女が居る部屋へと行くために廊下を歩きながらリリカはソワソワと落ち着かない。

 カトリーヌとマーカスは二人並んで楽しそうに話しながら歩いている。

 その後ろをリリカは歩くが、イザベルの部屋へ向かうと考えただけで足が重くなってくる。


「体調が悪そうに見えるぞ。大丈夫か?」


 リリカの隣を歩きながらアレクシスが問いかけた。


「大丈夫です」


 大丈夫と言いながらもリリカの顔色は悪い。


「無理しないでいいのよ?リリカさんが辛いなら部屋に戻っていてもいいのよ?」


 心配そうにカトリーヌも振り返ってリリカを見つめた。


「私はカトリーヌ様の侍女なので、カトリーヌ様が少しでも安心できるのならばお傍で待機します。それに、お菓子も大量に持って来たので待機部屋で食べて待っています」


 手に持っていた巾着を持ち上げた。

 パンパンに物が入っている巾着を見てアレクシスが呆れている。


「それ、全てお菓子なのか……。よくそんなに甘いものを食えるな……」


「高級なお菓子を食べる時間だと思えば大丈夫です」


「お菓子なんて部屋に戻って食べてもいいのに……。ありがとう」


 カトリーヌも呆れながらも、心配して付いてきてくれるリリカに微笑んだ。

 

 イザベルの居る塔へと向かう渡り廊下の前に侍女と騎士が立っているのが見えた。

 アレクシスとマーカスは立ち止まった。


「僕達はここまでだ。また勉強の時間が終わったら迎えに来るよ」


 マーカスが言うとカトリーヌは頷く。


「ありがとうございます」


 マーカスとカトリーヌはお互い見つめ合って別れを名残惜しんでいるようだ。

 その様子を見てリリカはアレクシスの腕を突いた。


「いいんですか?なんだか二人いい感じですけれど」


「別に。いいんじゃないか?」


「だって、アレクシス様はカトリーヌ様の専属騎士でしょう?」


 婚約者候補でもあるしとリリカは心の中で思いながらアレクシスを見上げる。

 青い瞳と目が合ってリリカの胸がときめいた。


「全く気にならないが。専属騎士と言っても名ばかりだから。それを言ったらマーカスだって専属騎士に登録をしている」


「えぇぇ?そうなんですか?てっきりアレクシス様のお付きで来ているんだと思っていました」


 衝撃の事実に驚くリリカにアレクシスは興味無さそうに頷く。


「それもあるが、聖女の護衛騎士の登録をしないと神殿に入ることが出来ないからな」


「へぇぇ、いろいろ規則があるんですね」


 リリカが言うとアレクシスは頷いた。


「もし、具合が悪くなったり異変を感じたらすぐに部屋を出て部屋に帰るんだ」


 念を押すように言われてリリカは頷く。


「大丈夫ですよ。お菓子があれば私はなんでも乗り越えられます」


「全く、お前はいつもお菓子だな」


 お菓子の入った巾着を抱えながらリリカとカトリーヌは歩いて聖魔女が居る神殿へと入った。

 薄暗い廊下を歩きながらカトリーヌが苦笑する。


「アレクシス様はリリカさんの事ばかり心配しているわね」


「……そう、ですかね?」


 確かにリリカから見ても心配されていると思うがカトリーヌの手前そうですねというわけにもいかず首を傾げる。

 気遣うリリカにカトリーヌは微笑みながら頷いた。


「そうよ!アレクシス様は女性に興味が無いって噂だったけれど違ったようね。まぁ、私もマーカス様が気になるわけだけれど……」


 含みながら言うカトリーヌにリリカは目を丸くする。


「えっ?そうなんですか?」


「あら?気付かなかったかしら?私たちこう見えても結構いい感じなのよ」


 アレクシスの事はいいのだろうかとリリカが口をモゴモゴさせているのを見てカトリーヌは笑った。


「アレクシス様の事ははじめっから興味ないし、結婚相手と思っているのはお父様だけだから問題ないわ」


「貴族の結婚てそういうものですよね?」


 お互いの気持ちなど関係なく結婚をするものだと理解しているリリカにカトリーヌは首を振る。


「それは無いわよ。アレクシス様が私に興味ないもの。お父様の野望より、アレクシス様の意見の方が強いのよ。アレクシス様にとって私との結婚は全く意味が無いわ」


「そうなんですね」


 カトリーヌとマーカスがお互い良い感じだという事が解りリリカの心が不思議と軽くなった。

 ホッとした様子のリリカにカトリーヌが微笑んだ。


「さぁ、お勉強をしてくるわ」


 気づけばイザベルがいる部屋の前まで来ていた。

 大きなドアの前に立っている侍女が軽く頭を下げる。


「お待ちしておりました。カトリーヌ様。今日は侍女の方もご一緒なのね」


「はい。心細くて」


 カトリーヌが言うと侍女は頷いた。


「イザベル様のお部屋には入ることが出来ないので侍女の方はこちらの部屋でお待ちくださいね。いつもなら私がお話をして待っているんですけれど今日はちょっと用事があって一緒に居られないのだけれど大丈夫かしら?」


「大丈夫です。お菓子を大量に持って来たので食べて待っていても良いですか?」


 パンパンの袋を見せるリリカに侍女は笑いながら頷いた。


「もちろんですよ」


「もし、体調が悪くなったら先に部屋へ帰って大丈夫だからね?」


 カトリーヌはそう言うとイザベルが待つ部屋へと向かって行った。


 リリカが待機するのは狭い部屋だ。

 椅子と机ぐらいしかない質素な部屋を見回しているリリカに侍女の女性が声をかけた。


「1時間ぐらいかかると思うから、適当に座って待っているといいわ。お茶は用意してあるから適当飲んでね。私は、ちょっといなくなるけれど、廊下まで行けば侍女が待機しているから何かあればその方に言ってちょうだい」


「はい」


 リリカが頷いたのを見て、侍女は忙しそうに部屋を出て行ってしまった。

 一人になったリリカは椅子に座った。


「1時間ぐらいか」


 すぐ隣の部屋に恐ろしい聖魔女が居ると思うと、心がドキドキして落ち着いてお菓子を食べる気にもなれずリリカは部屋を見回した。

 小さな小窓が付いているのを見て、そっと歩いて近づく。


 何気なく小窓を小さく開けると光の玉が浮いているのが見えた。

 すぐ隣のイザベルが居る部屋へと続く窓だとわかり慌てて閉じようとするが興味本位で気配を消して覗き込んでみる。

 薄暗い広い部屋に漂う光の玉が見えてリリカの心臓がドキドキと早くなる。

 足が震えそうなほど恐ろしい気持ちになるが、カトリーヌは大丈夫だろうかと姿を探す。

 部屋の中心にカトリーヌが目を瞑って座っているのが見えた。

 カトリーヌの前に豪華な椅子に座っている聖魔女がそっと右手を差し伸べた。

 聖魔女の手のひらはそっとカトリーヌの額へと乗せられる。


 聖魔女はカトリーヌの額に手を乗せたまま目を瞑ると大きく息を吸い込んだ。

 漂っていた光の玉がカトリーヌと聖魔女の周りに集まると、カトリーヌから緑色の光があふれ出して聖魔女の体へ吸収されていく。


 リリカは悲鳴を上げないように唇を噛んで耐えた。


(あれはカトリーヌ様の生気を吸っているんだわ!)

 

 直感的にそう思ったリリカは恐怖で震えながらそっと扉を閉じた。


 カトリーヌの体調が悪くなったのは聖魔女から生気を吸われていたからだ。

 リリカは呼吸が苦しくなってきて胸に手を当てた。


 恐ろしい光景だが、それとは別に得体の知れない恐怖を感じる。


(また殺されてしまうわ)


 とっさそう思ったが、またとは何だろうか。

 誰かがあそこで殺されているという確信にリリカはガクガクと足が震えてくる。


 聖魔女の傍に居ることが恐ろしくなり、お菓子袋を手に取るとフラフラと部屋を出た。

 この事実をアレクシスに知らせないと。


 そう思って部屋を出て暗い廊下をふらつきながら歩く。

 恐怖で息が上手くできず荒く息を繰り返しながらもなんとか廊下を歩きつづけた。




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