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 神殿へ戻った。

 キッチン付きの部屋に入り、リリカは珍しそうに部屋を見回す。

 

「神殿の中にこんな場所があるんですねぇ」


 小さなキッチンと、木製のテーブルと簡易的な椅子があり簡素な部屋だ。

 戸棚にはビーカーやフラスコの様なものあり実験をする部屋のようだ。


「聖女が薬草を煎じたり、道具を作ったりする部屋よ」


 カトリーヌが採集した花を籠に入れながら教えてくれる。

 

「聖女になるのも大変ですね」

「そうね。これからこの花を砂糖漬けにするのよ」


 カトリーヌがそう言うとドアの前に立っていたアレクシスがリリカを顎で指した。


「道具を取って来いという事だ。お前は侍女だろ?」


「あっ、そうですね。はちみつとレモンですかね?」


「レモン?」


 カトリーヌはレモンなど言っていないためアレクシスは怪訝そうな顔をする。

 リリカは得意げに人差し指を立ててアレクシスを見上げた。


「エルダーのはちみつ漬けは田舎でも作っていましたよ。咳などに効くんですよ。あとは甘いのでジュースとして夏に飲みます。レモンを入れると美味しいんですよ」


「リリカさんも作ってみたら?私はレモンを入れるように指示されていないから、教科書通りに作るわ」


 カトリーヌが勧めてくれたのでリリカは頷いた。


「ありがとうございます。そうしたら二人分の材料を取ってきますね。はちみつとレモンですね」


 そう言ってリリカは部屋を出て侍女控室へと向かう。

 お菓子を回収するために何度も出入りしているリリカなので、侍女部屋へ行くと先輩侍女達が手を振って迎えてくれる。


「またお菓子を取りに来たの?」


「今日は忙しくてお菓子を食べる暇が無いんですよ」


 疲れたように言うリリカに先輩所達が目を丸くした。


「アンタがお菓子を食べないなんて雨が降るわね。何度もお菓子を取りに来る侍女なんてリリカぐらいよ」


「だって美味しいから。エルダーフラワーの花を採集してその液を作るんですよ」


「あぁ、だからアレクシス王子がいらっしゃっているのね」


「大変だったんですよ」


 リリカが言うと先輩侍女達も頷く。


「この時期は聖女達がこぞって花を採りに行くからほとんど取れなかったでしょう」

 

「だから上の方にしか花が付いていなかったんですね。馬の上に乗って花を採ったんですよ。大変でしたけれど……結構採れました」


 かなり疲労している様子のリリカを見て先輩たちはお菓子を戸棚から取り出してリリカのお盆の上に乗せた。


「そりゃ大変だったわね。そんなことをさせられる侍女はリリカぐらいよ。カトリーヌ様ってお優しそうに見えて結構怖いわね」


「あ、違います。やるように言われたのはアレクシス王子様です。無理やり馬の上に立たされました」


 不満そうに言うリリカに先輩たちは顔を見合わせた。


「アレクシス王子に命令されたら断れないわねぇ。王子なら冷たい印象だから意外でもないわ」

「いくら王子の命令でも馬の上に立てなんて無理よ。騎士じゃあるまいし。私じゃなくて良かったわ」


 「これからエルダーフラワーを煮だすので材料も貰っていきますね」


 先輩たちが話しているのを聞きながらレモンとはちみつの瓶をお盆に乗せてリリカは軽く頭を下げた。


「カトリーヌ様とアレクシス王子が待っているの失礼します」


「大変ねぇ。頑張って」


 ヒラヒラと手を振られてリリカは軽く頭を下げて部屋を出た。

 

 材料の乗ったお盆を抱えて戻って来たリリカを見てアレクシス王子は顔を顰めた。


「お前また大量のお菓子を持ってきて……」


「先輩侍女達が乗せてくれたんですよぉ」


 そう言いながらもてきぱきと机の上に材料を置いて行く。

 ざるに乗せてあるエルダーフラワーを指さした。


「さっさと作りましょう」


 リリカは鍋に水を入れてコンロの上に乗せる。

 本を開いて調べているカトリーヌを後ろから覗き込んだ。


「普通にお湯に花を入れて煮立たせて重曹を入れて花を取り除いて瓶に入れるだけですよね」


「え、えぇ。多分そう。でも私、お湯を沸かしたりはできるのだけれど……あまり料理をしたことが無くて……」


 困ったように言うカトリーヌにリリカは得意げに笑った。


「料理なんてもんじゃないですよ。花を煮たたせればいいんですよ」


 そう言うと沸騰した鍋の中にエルダーフラワーの花を乱暴に入れた。

 ざるをひっくり返して入れるリリカを離れた場所からアレクシス王子とマーカスが眺めている。



「あんなに雑でいいのか?」


 様子を見ながらアレクシスが無表情に言うとマーカスは首を傾げた。


「さぁ?それより聖女が作らなくていいのかな?僕はそこが心配」


 マーカスの声が聞こえてリリカはハッとする。


「全部カトリーヌ様がやらないとだめでした?」


「大丈夫よ。瓶詰したものになにかするようだから。これを来週までに作れって言う事なのよ。力を入れる方法もまだ教わっていないわ」


「それなら安心です。でも一応力を入れておきます?みんな元気になーれって」


 リリカはそう言いながら煮え立っている鍋の上に手の平をかざす。

 様子を見ていたマーカスが噴き出して笑った。


「大丈夫なの?そんなことをして」


「元気になるだけだから大丈夫ですよ。田舎ではこうやって作ってあげるとみんな大喜びでしたよ」


 リリカは鍋が煮立ったのを確認して火を止めた。

 

「粗熱が取れるまで置いておきましょう。その間にお茶でもしませんか?」


「そうね。休憩もしていなかったものね」


 カトリーヌの許可が取れた事でリリカはそそくさとお茶を淹れる。

 

「どうせお菓子が食べたいだけだろう」


 リリカに文句を言いながらもアレクシスとマーカスは席についた。

 お茶を配膳しながらリリカはアレクシス王子に視線を向けた。


「私の淹れたお茶で大丈夫ですか?飲めます?」


 王子にお茶を淹れるなど初めての経験だ。

 真剣な顔をして聞いてくるリリカにアレクシス王子は眉をひそめる。


「どういう意味だ」


「私なんかが淹れたお茶で大丈夫かってことですよ」


「毒でも入れたのか?」


「まさか!でも、王子だからこだわりがありそうだなーと」


「お茶ぐらいでごちゃごちゃいう訳が無いだろう」


 眉をひそめてアレクシス王子はリリカが淹れたお茶に手を伸ばした。

 一口飲んで頷く。


「問題ない。普通のお茶だ」


「美味しいとか言わないのがアレク様だよね」


 隣に座っているマーカスが呟いた。

 

「リリカさんが淹れたお茶はとても美味しいわ。ありがとう」


 カトリーヌが微笑んで伝えると、リリカは笑って頷く。


「ありがとうございます。きっと茶葉がいいんですよ。最高級ですよこれは」


 お茶の缶の蓋を開け、リリカは鼻息を荒くして匂いを嗅いだ。

 嗅いだことのない高級な茶葉の匂いを嗅いで恍惚な表情を浮かべるリリカにアレクシスが鼻で笑った。


「相変わらず食い物系への執着が凄いな」


「相変わらず?」


 以前から知っているような口の利き方にマーカスとカトリーヌが同時に言って顔を合わせている。

 リリカはアレクシスの不思議な言動にまたかと思いながら頷く。


「アレクシス王子様は、私と誰かを勘違いして居るんですよ」


 三人に見られてアレクシスは自分の言動が信じられないというように口元を手で覆っている。


「いや、俺は可笑しいのか?なぜ前から知っているようなことを言ってしまうんだ?」


「知らないよ。仕事が忙しいんじゃない?」


 呆れているマーカスにリリカは聞く。


「アレクシス王子様は忙しいんですか?」


 アレクシスがムッとしてリリカを睨んだ。


「マーカスに聞かず俺に聞け」


「……だってさ、もう一度聞いてあげてよ」


 嫉妬しているような様子のアレクシスにマーカスは呆れている。

 リリカは面倒だと思いつつアレクシスに視線を向けた。

 

「忙しいんですか?」


 もう一度聞きなおしたリリカにアレクシスは頷く。


「とても忙しい。城へ帰ったら溜まっている書類が沢山あるからな」


「王子様って事務作業なんてあるんですね」


「馬鹿にしたいい方をされて不愉快だが、俺だって遊んで暮らしているわけでない」


「アレク様は剣の訓練や体力づくりに時間を割きすぎなんだよ。事務作業を後回しにするから書類が溜まるんだよ」


 山盛りのお菓子を摘まみながらマーカスが言うと、アレクシスは視線を背けた。


「鍛えないと守れないだろう」


「守るって聖女様ですか?」


 何気なく聞いたリリカにマーカスは肩をすくめる。


「いやぁ、アレク様は小さい頃から体を鍛えていたからなぁ。多分趣味なんじゃない?」


「体を鍛えるのが趣味!」


 運動が何より嫌いなリリカが顔を顰めるのを見てアレクシスは睨みつける。


「誰にも迷惑をかけていないのだからいいだろう」


「まぁね。剣の鍛錬より先に書類を片付けてほしいってクレームが来ているからよろしくね」


 マーカスに言われてアレクシスはばつが悪そうに顔を背けた。





 

 

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