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 リリカは満面の笑みで聖女たちが生活をしている神殿の前へと立っていた。

 聖女たちが生活をしている神殿は白く大きな建物で所々星や月の模様が施されている。

 

「お菓子食べ放題!作り放題!最高の仕事!」


 涎を垂らさんばかりに呟いているリリカの後ろから凛とした低い声がかけられた。


「お菓子食べ放題につられて聖女候補生になったのか?そんな生易しい仕事ではないぞ」


 リリカが思わず振り返ると、銀髪の青年が立っていた。

 肩まで流れる銀髪は太陽に当たってキラキラと輝いており、鋭い青い瞳がリリカを見つめている。

 思わず見とれてしまいそうな整った顔の青年は王家の紋章の入った剣を下げており、ただならぬ雰囲気をまとっていた。

 年は24、5歳だろうか。

 20歳のリリカより少し年上に見えた。


「聖女候補ではなく、侍女として採用されたんです。本日から勤務予定ですがあなたは?」


 凛とした雰囲気から王家の騎士だろうとリリカは思ったが、青年は軽く驚いたような顔をする。


「俺を知らないのか?」


 知っていて当たり前の様な言い方にリリカは思わず頷いてしまう。


「お初にお目にかかるような気がしますが、どこかで会ったような気もします……」


 まるで懐かしい人に会ったような気持ちになり、幼い頃にこんな整った異性の友達など居ただろうかと考える。

 ただ立っているだけなのに青年が纏っているオーラは凛としていてただの上流貴族ではなさそうだ。

 じっと顔を見てくるリリカに青年はため息をついた。


「偶然だな。俺もお前に会ったような懐かしい気持ちがするが、俺の記憶が確かなら初めましてだな」


 会ったこともないのに、俺の顔を知らないのかとは良く言うとリリカは胡散臭い目を向ける。


「お城で働いている騎士様ですか?」


 有名なのだとしたらきっと実力のある騎士で上流階級の人なのだろうとあたりを付ける。

 リリカの言葉に青年は肩をすくめた。


「残念ながら違う。俺はこの国の王の2番目の息子で、アレクシスという」


「……存じ上げませんで大変失礼をしました」


 まさか王子様だとは思わずリリカが畏まるとアレクシスはめんどくさそうに手を振った。


「畏まる必要はない。今日から聖女見習いとして採用されたと言っていたな」


 鋭い瞳で見つめられてリリカは頷く。


「はい」

「と、いう事はリリカ・アデンタール嬢か。俺は聖女見習いの護衛騎士として派遣されてきた。お前とは同僚の様なものになる」


 アレクシスに言われてもリリカはピンと来ず首を傾げる。

 一見冷たいような雰囲気の持ち主であるアレクシスだが、リリカが首を傾げると呆れたように軽く笑った。


「どうせ、お菓子食べ放題という噂を聞いてそれ目的で来たのだろう?」


「ど、どうしてわかるんですか?」


 聖女見習いの侍女になれば、お菓子食べ放題で三食昼寝付きという噂を聞いたリリカはコネを使いまくり何とか採用された。

 目的はお菓子をたらふく食べること。

 リリカの生家は貧乏男爵でお菓子など贅沢品であり、腹いっぱい食べることなど夢のまた夢。

 聖女見習いが居る神殿で働けば美味しいごはんと最高級のお菓子が食べられると聞き喜んで来たのだ。

 聖女とは不思議な力で人々を癒す役割を担い、ほとんど生まれつきの能力によるものが多い。

 聖女になるためには神殿に入り、見習いとしての勉強と修行をし認定が得られれば聖女として世に出ることが出来る。

 王都にある神殿には聖女もいるが聖女見習いが修行をする場所になっている。

 聖女見習いのお世話をするためにリリカは侍女としてやってきたのだ。


「自分で言っていただろう。お菓子食べ放題って……。それにこのぷにぷにの体ではどれだけ甘いものが好きか分かるな」


 アレクシスはリリカのふくよかな二の腕を掴むと軽く揉んだ。

 

「ひぃー。何をするんですか!」


 異性にそれも美しい王子様に二の腕を急に触られたことに驚いて可笑しな悲鳴を上げるリリカにアレクシスは苦笑しながら手を離した。

 

「確かに私はちょっとふくよかな体をしていますけれど、お菓子が原因ではないですよ」


 実家では貧乏でお菓子を買うことが出来なかった為自分でお菓子を作って食べまくっていたため少しふくよかな体になったのだがそれをアレクシスに言うのは恥ずかしい。

 

「嘘を付け。お菓子が大好きな顔をしているくせに。まぁ、神殿には確かに高級なお菓子が沢山あるがそれは聖女と聖女見習いの物だ。侍女であるお前の物じゃないからな」


 アレクシスはそう言うと歩き出した。

 突っ立ったままのリリカを振り返ると声を掛ける。


「どうした、中に入らないのか?」


「入ります!」


 アレクシスの後についてリリカも小走りで神殿の中へと入って行った。




 神殿の中へ入ると、床も天井も白い。

 月と星の模様が所どこに散りばめられており、豪華とは言えない内装でリリカは物珍しくキョロキョロと顔を動かして観察をする。


「もっと豪華なのかと思っていました。意外と人の姿が多いですね」

 

 国に守られている聖女が暮らしている神殿には多大なお金が使われていると噂されている。

 それにより豪華な食事や最高級のおやつが食べられるのだとリリカは認識していたが、神殿の中は華美な装飾が見当たらない。

 すれ違う人も、聖女だけかと思っていたが男性の姿も多く見える。

 白いローブをまとっている聖女と、アレクシスのように黒い騎士服に剣を下げている人や事務員のような初老の男性の姿も廊下を歩いている。

 ズンズンと歩いて行くアレクシスにすれ違う人は軽く頭を下げている。


「聖女を全国に派遣しているから、仕事は多くなる。ただ祈っている存在かと思っていたか?」


 アクレクシスに言われてリリカは口を閉ざした。

 確かに、たまに祈っている聖女のお世話をするだけだと思っていた。

 そのために三食昼寝付きだと喜んでいたが、神殿の中で働いている人は忙しそうに動き回っている。


「三食昼寝付きだと思っていたんだろう?」


 意地悪く言うアレクシスをリリカは見上げる。


「どうしてわかるんですか?」


 リリカの思考を読み取ったかのような言動に小さく言うとアレクシスは意地悪く笑う。


「顔に書いてある」


「そんなバカな……」


 思わず両手で頬を触るリリカを見てアレクシスは軽く笑うと立ち止まった。

 

「聖女候補生とはここで顔合わせ予定だ」


「私が侍女としてつく人ですね。どんな人だろう」


 ワクワクしながらアレクシスに続いてリリカも部屋へ入った。



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