7☆始まりは些細なことから
鬼ごっこを無事終了した藍堂一家は、陣取った場所へ戻る。
「3日は自由だぜ!」
「本当に。 棗吾ったら…ダサイわね」
「あれは不意討ちだ。見事に当たったね」
「あんな事する人いるんだねぇ! 棗兄、漫画から飛び出したキャラみたい」
梓、醍哉、翔太、実景は大声で笑う。
「カッコ悪かったけど、棗兄ちゃ…かわいそう」
凛が泣きながら言う。
「マイエンジェル凛…!」
棗吾は感動のあまり、目尻に涙が浮かぶ。
「まあ、たしかに痛そうだったよね――色々と」
実景は、梓をチラっと見る。
「実景…! 心配してくれてるのか…」
「しし、心配!? するワケないじゃん馬鹿!」
腕を組み、そっぽを向く。
「みぃのツンデレかわ……」
言い終わらないうちに、醍哉の口を手で押さえる。
「言うな、それ以上言うな!!」
そんな顔を真っ赤にさせられてもと醍哉は思った。
ぐぎゅるるる―――
誰かのお腹の音が鳴った。
「……誰? 言っとくけど、あたしじゃないからね」
「みぃじゃねぇな。違う方から聞こえたぜ」
「私でもないわよ。まさか、棗吾?」
「俺でもないぞ。 凛は食べt」
左右から梓と実景のパンチが飛んできて、棗吾は奇声をあげながら倒れる。
「凛でもないよ?」
5人は翔太の方を見ると、
「いないじゃない」
「おい、翔兄1人で飯食ってるぜ」
醍哉の言うとおり、翔太はシートの上に堂々と胡坐をかいて座り、弁当を食べていた。
「何してるんだい? 遅いからさき食べてるよ」
卵焼きを頬張りながら言う。
「翔太…腹、減ってたんだな」
「朝飯食べてなかったもんね。そりゃ減るよ」
「同情するような目とコメントはやめてくれるかい? お茶ぶっかけるよ」
少し眉を寄せて、お茶の入ってるペットボトルを手に取ってはキャップを外す。
「やれるもんならやってみ……」
「ふぅん、そう」
ニヤリと笑った翔太は、棗吾の顔面に向けてお茶をぶちまけた。
わなわなと震える棗吾。だいぶ頭にきたみたいだ。
「ふん、これぐらいのも避けられないなんて……」
バシャッ
右手に梓のアップルティー(最近のお気に入りらしい)のペットボトルを空にさせて持っていた。
一方翔太の全身には、梓のアップルティーがかかっている。
「ああぁあぁぁあっ!!??」
声をあげたのは梓。 梓は顔を真っ青にして、両手を頬にあてている。
「わ、私の…アップルティーが……」
鬼の形相で棗吾を睨み、乱暴に胸ぐらを掴む。
「テメェ等のやり合いに私のアップルティー使うんじゃないわよ、クソが!」
「たかがアップルティーでそんなに怒るなよ!」
「ああん? たかが、なに?」
反発した棗吾だが、容赦なく跳ね返される。
「あず姉大人げなっ」
実景がポツリと呟く。
「ちょっと、僕にまでアップルティー飛んできたんだけど」
(面倒になるから余計なこと言うな!!)
という醍哉の願いも虚しく、翔太も梓に突っかかる。
そこからの3人の浅はかな言い合いは、放送禁止用語が連発で発っせられ、実景は凛の耳を塞ぐ。
「聞いたら駄目だよ、凛」
「う~!?」
そんなことをしている間にも3人の行動はエスカレート、梓が翔太に向かってサッカーボールを投げる。
「そのくらい、簡単にかわせるよ」
そのままサッカーボールは弁当箱に直撃、卵焼きやらタコさんウインナーやらが散らばる。
「ちっ、おい! サッカーボール投げるとか馬鹿だろ!! 食いモンねぇじゃねーか!!!」
食べ物の恨みは恐ろしい。
食べ盛りの醍哉にとって、許しがたいことだ。
「あず姉! 一発殴らせろ」
と、3人の争いに醍哉が加わり凄まじいことになっていく。
「年下が私のこと殴るなんざ1年早いわよっ」
(短っ!!)
ツッコむのも実景だけで、梓のツッコミどころ満載の台詞には耳に届かず。
「年なんて関係ねぇな! 殴らせろ」
「年下の梓は、よく俺を殴るよな…?」
「この前のマジカルバナナの屈辱……忘れてないよ」
梓ピンチ。
危機を感じた梓は、3人から逃げようと走りだす。
「逃がすかっ!」
醍哉はサッカーボールを蹴り、梓の背中に見事当てる。
「痛ぁ!?」
ボールが当たった衝撃と痛さで、前に倒れこむ。
ドサッ
バキッ――
梓は、実景の荷物の上に倒れこんだ。
実景は荷物の上から梓をどかし、フルートの安否を確認する。
「あ……あたしの、」
実景のフルートは、見るも無惨な姿になっていた。
「私のせいじゃないわよ!? 悪いのはボールを蹴った醍哉だわ」
「はあ!? 人のせいにすんじゃねーよ」
「全員座れええぇえぇぇえええぇ!!!!」
今までに聞いたことのない実景の大きな声に、固まる。
「なに突っ立てんだよ、座れって聞こえなかったかっ!?」
実景の恐ろしさに、すかさずその場に座る。
「アンタたちさぁ、本当に懲りないよね」
4人は肩を縮ませる。
(みぃってこんな恐かったか!?)
(し、知らないわよ!)
(心から恐ろしいと思う…)
(フルートだけでこんなに怒るんだね)
「ゴルァ、誰だフルートだけで怒るって思った奴?」
犯人は翔太だが、名乗り出ない。隣に座っている棗吾が、気付かれないように翔太をつつく。
(触らないでくれる?兄貴)
(早く自首しろ、自首!!)
「――まあ、いいや」
深く追求するのをやめ、ホッと一息つく棗吾。
「ところで、あたし来月部活で演奏会あるんだよね」
嫌な予感がした4人は、息を飲む。
「あたしのフルート、弁償よろしく。丁度新しいの欲しいと思ってたんだよね」
実景は上機嫌になり、鼻歌を歌いはじめる。
「安物なんて買わせないよ。 買いに行くときは、必ずあたし誘ってよね」
「なんで僕たちが……」
翔太がポロリと本音を零すと、実景はキレイに折れたフルートを突き出す。
「高かったの、フルート。あたしの貯金全部使って、棗兄やあず姉にもお金出してもらったの」
フルートの値段は、20万円。10万円を実景が出し、棗吾と梓が5万円づつ支援して買った大切なものだ。
藍堂家のお財布状況は謎だ。
「もちろん、買わないなんて言わないよね?」
梓顔負けの黒い笑顔を向け、無理矢理頷かせる。
(みぃ強っ!)
(あの翔太に脅迫が通用したなんて――)
(実景、俺たちが買ったフルートをそんなに大切に……!)
さすが棗吾と言うべきか、シスコン発言万歳。
その後、話しはまとまり土曜日買いに行くことに。
散らばったものを片付け、梓と翔太にコンビニへ弁当を買いに行かせた。
「買ってきたぜ」
「あ、ちなみに私のはこのメロンパンとパスタ」
「俺のはカレーだぜ」
「待って、僕はカレーを食べたいから醍哉はこっちでも食べてなよ」
「俺はそれを食いたい!」
「あ、それあたしも食べたいし。 棗兄、醍哉。引っ込んでろ」
「凛、メロンパン食べたい!」
「いくら凛でもメロンパンは譲れないわ」
「はあ? 翔兄、カレーなんか食いたいわけ?」
「カレーを馬鹿にする醍哉は、食べる権利なんかないね」
「やだ! あたしはグラタンが食べたいの。棗兄はうどんでも食べてよ」
「グラタンは俺のために誕生したんだ! 実景がうどんを食え」
「こうなったら…さんましかないわね!」
「いーよ。凛、絶対勝ってメロンパン食べる!」
「しょうがないね…じゅげむで勝負だ。ストップウォッチがあるからそれで測ろう」
「やってやろうじゃん。俺が勝って、翔兄はポテチでも食ってな」
「戦争で勝負だよ! 先に痛いって言ったら負けだから」
「さすがの実景でも手加減するつもりはないからな」
お花見に行っても、藍堂家はにぎやか。
「っしゃああぁ!!! グラタンの神があたしを選んだっ!そして微笑んでる!」
★つづく★
最後、無理矢理終わらせちまいました←
藍堂家は、どこにいてもその場所が戦場になっちゃいます。
今回の戦場の始まりは、棗吾と翔太ですね。
ううん…棗吾も馬鹿だ←
なんか棗吾がMに見えてきた。くふ。




