1☆朝ぐらいお静かにっ!
始めちゃいました、新連載!
「今日の藍堂さん家!」は、「あいどうさんち!」って読みます。
ピピピ ピピピ...
四月二十日の朝。
五時四十分に、ケータイのアラーム音が鳴り響く。
「くぁっ……もう朝か」
小さな欠伸をして、アラーム音を止める。少女――藍堂実景――は、名残惜しそうにベッドからのそのそ出る。
「ハァ、料理当番まわってくるの早いっつの」
ぼそぼそ言いながら、着慣れた制服に腕を通す。
「本当に眠い…」
そんなけとをぼやきつつ、革のスクールバッグを掴んで階段を降り、キッチンへ向かう。
「さて、何作ろう…」
冷蔵庫の中を確認する。
「……何もねぇじゃんか!!!」
入っていたのは牛乳と、昨日の夕飯の残りの肉。
それから、4つの卵。
「4つ…後2つたりない」
仕方がないので、男は米と肉。女はパンとスクランブルエッグにすることにした。
「俺の飯どれ?」
制服を着た、実景の1つ下の弟――醍哉がリビングに入ってきた。
醍哉は、髪を銀に染め、左耳にピアスを付けている、れっきとした不良だ。
実景も髪を赤茶に染めているが、醍哉ほどではない。
時刻は6時35分。
「男組は米。起きるの早いね」
「今日の洗濯当番、俺なの」
醍哉は椅子をひき、ゆっくりと腰を下ろす。
「あ?そうだっけ…あず姉だと思ってた」
実景も椅子に座り、手を合わせていただきます、と言う。
それに合わせ、醍哉も言い、味噌汁をすする。
「あず姉は明日だ。みぃは今日も朝練?」
「今日は何曜日?」
質問に質問で返され、少したじろう。が、すぐに
「水曜日」
と応える。
「そ。だから朝練なし」
「ああ、朝会か」
「あのジジィの長いお話しの時間だよ」
「遅刻すっか」
「殺すよ、醍哉」
嘘だって、と言いながら牛乳を飲む。
ちなみに、実景は吹奏楽部でパートはフルート。八歳のころから習い始め、今までにいくつもの賞を取っている。
「にしても、みぃがフルートって合わないな」
「言うな…あたしもそう思ってるから」
「俺はそんなことないと思う!」
「そうね、実景はティンパニーを叩いてそう」
新たにリビングに入ってきたのは、高校2年の双子。兄の棗吾と妹の梓。
棗吾は黒髪で縁のあるメガネをかけている、シスコンである。
梓も黒髪で、長い髪を巻いている見た目は可愛い系。人をからかうのが好きなS。
「そう兄、あんま嬉しくない。あず姉は和太鼓でも叩いてれば?」
「お兄ちゃん悲しいぞっ」
「悲しんでろよキショい」
と醍哉が言う。
「私は可愛らしくトライアングルでも叩いてるわ」
「あそ」
「もう冷たいわねぇ」
とプリプリ怒りながら、2人は椅子に座り、朝食を摂る。
「翔太は相変わらず起きるの遅いな」
翔太、とは高校1年の藍堂家の次男にあたる。
「そう兄がお越しに行けばいいじゃねぇか」
「醍哉の言う通り。はい、行ってらっしゃい」
実景と醍哉は、棗吾に容赦ない。
「マジックハンド使う?これないと、噛まれて指持って行かれるわよ」
どこから取り出したのか、梓が棗吾に渡す。
「じゃあ梓が行けっ」
「棗吾が行きなさいよ!」
梓の言葉に実景と醍哉が、そうだそうだと言う。
抵抗していた棗吾だが、ついに折れ、渋々マジックハンドを受け取り翔太の部屋へ向かう。
しばらくすると、2階の翔太の部屋から棗吾の絶叫が響く。
「「そう兄…南無っ!」」
「マジックハンドでも駄目みたいね…さすが翔太……」
実景と醍哉は手を合わせ、梓は翔太の寝起きの悪さに感心する。
「ご馳走様」
「ぅえっ!醍哉早い」
「男は早いもんなんだよ。みぃはゆっくり食べてれば?」
「凛を起こしに行かなきゃ」
「あぁ、凛ね……」
醍哉は遠い目をする。
凛は小学4年の藍堂家の三女、末っ子。とにかく幼い。
「凛は…ゆすっても起きてくんないんだよな」
「凛は藍堂家の眠り姫ね!」
「悪くないネーミングセンス」
「実景ちゃん?ちょっとお外に行こうか」
真っ黒ねオーラを放ちながら、素敵な笑顔で手招きする。
「うん。遠慮しとこうかな」
「なんか今日、みんなうるさいよぉ…?」
リビングには凛が眠い目をこすりながら立っていた。
ピンクのパジャマのままで、左手にはうさぎの人形を持っている。名前はカトリーヌ。
「起こしちゃったね?」
と梓は凛に近寄り、頭を撫でる。
(っしゃ!今日ツイてる)
実景はひそかにガッツポーズを取る。
「ぅおおおおおっ!!!りぃぃん!愛してるぞぉ!」
凛の声を聞いて、棗吾が抱きつく。
「そーご兄ちゃ、おはよ」
凛のエンジェルスマイルに棗吾のロリコンメーターがMAXに到達する。
「テメっ、そう兄!凛から離れろっ!触れたところから腐るから!!」
実景は棗吾をバリっと剥がし、凛の体をはたく。
「俺もやる!!!」
「馬鹿だろ、兄貴」
エナメルで棗吾の頭を叩くのは、不機嫌そうな翔太。
「しょう兄、低血圧すぎだろ。朝いつもキレ気味じゃねぇか」
「僕の睡眠を邪魔されてるんだ。キレないでどうするのさ?」
「朝飯でも食ってればいいよ。早く食べてね。あたしが洗うんだから」
実景が翔太に言う。
凛は梓と一緒に顔を洗いに洗面所へ向かった。
「凛!俺が顔を洗ってあげる」
「乙女のテリトリーに踏み込むんじゃないわよ?」
「おかお、あらって」
「棗兄、翔兄と早く朝飯食え!」
「僕は1人で食べる」
「みぃ!昨日のうちに洗濯モン出せっつったろ!」
今日も藍堂家は、朝から破天荒。




