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朱色の流れ星~価値無し令嬢は魔獣使いの侯爵令息に溺愛されてる事に気づかない~  作者: 紺名 音子


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第28話 魔獣使いの恋煩い・1(※リュカ視点)


 青ペンギンのつがいを助けてから、二週間が過ぎた。


 ステラさん達の治療でだいぶ足が動かせるようになったペンギン達は、そのまま灯台近くの岩場に住み着いた。

 いつも寄り添ってキュイキュイ嬉しそうに鳴いている。


 二匹ともニアちゃんとしっかり信頼関係を築いて、他の人達にも愛想を振りまくようになった。

 お陰で村人から魚や貝を分けてもらうようになって、もうすぐ冬が来るという事もあるんだろうけど二匹とも初めて見た時よりふっくらしてきた。


「リュペンもニルルも、元気になってよかったね!」


 夕陽を見ながら寄り添い合うペンギン達の背中を見ながら、ニアちゃんが嬉しそうに呟く。

 ニルルは岬の洞窟にいた雌のペンギンで、リュペンは俺が魚をあげ続けた雄のペンギンだ。


 ニアちゃんが二匹の青ペンギンに名前を付けようとした時、「こっちのペンギンさんは師匠に名前付けてもらいたいんだって!」って言ってきた時は驚いた。


 足の怪我でまともに魚を捕れなかった時、魚をやり続けた俺に一応恩義を感じてくれていたらしい。

 「キュ!」と鳴いて頭を差し出してきた時はちょっと涙が出そうになった。


 ワシワシ撫でたらクチバシで手の甲を突かれて『調子乗んな』って睨まれたけど、嬉しかった。


「そうだな。あの二匹はもう大丈夫だな」

「次は師匠と先生だね!」


 ニアちゃんに同意すると、ニアちゃんは俺を見て楽しそうにニヤける。


(他人の恋路に首を突っ込みたがるのは、何処の女子も同じだなぁ……)


 元々いた村はもちろん、都市の大通り、街の酒場、村の井戸の近く――旅の中で恋愛話に花を咲かせる婦女子の会話が耳に入って来た数は数えきれない。


「雪が降ったら皆ここに来れなくなっちゃうし、その前にもうちょっと仲良く……」

「ニアー!」

「あ、イチル、ヨヨ、おかえりー!」


 ニアちゃんが手を振る方向を見ると、イチル君とヨヨちゃん、その後ろからステラさんが歩いてきた。


 ペンギン達を助けた夜から、イチル君とヨヨちゃんがステラさんの所で授業している間、ニアちゃんは俺から魔獣使いについての心得を学んで、授業が終わったら俺が三人を村に連れて帰るようになった。


 灯台の光には魔除けの力もあるらしく、おまけに呪われた村って広まってるお陰で賊も寄って来ない。ここは他の街や村に比べてずっと平和な場所だ。


 それでもたまーに海の魔獣が岩場に現れるって話を聞いた以上、子ども達三人で帰すのも心配だと思って俺が自主的にやりだしたんだが――


「授業の度に子ども達を送って頂いて……本当にありがとうございます。何かお礼が出来ればいいのですが、生憎うちには何もなくて……」

「俺が好きでやってる事だから、お礼なんてしなくていいよ」

「……すみません。それでは子ども達を宜しくお願いします」


 ステラさんは普通に俺に近づいてくれるようになった。

 それは嬉しいんだけど、どうにも申し訳無さそうな態度が他人行儀というか――また完全には心を開いてない感じがして、結構寂しい。


 前にもどんどん頼ってほしいって言ったけど、ステラさんの遠慮がちな性格みたいだし、ここは俺がもっと強く押すべきか――


「ステラさん、もし何か悩んでる事とかあったら、俺に出来る事だったら遠慮なく」

「ふふ、また私から何か出てますか……? 大丈夫です。私は元気ですから心配しないでください」


 ステラさんは困ったように微笑むと、足早に灯台の方に帰っていく。

 嫌な予感がしてリュルフに目配せすると、俺が感じた事と同じ答えが返ってきた。


『ステラ、嫌がった』

(失敗した……!!)


 微笑んでいても伝わってきた、言葉の最後の拒否感。

 ガックリ項垂れてため息を付くと、子ども達に心配かけてしまったようで、


「どうしたの? 師匠」

「いや、ステラさん最近ずっと元気ないから……余計なお世話だったかなぁ……」

「元気ない?……先生、元気だって言ってたじゃん?」

「今日の授業も笑顔で優しく教えてくれたの!」


 笑顔――確かに今微笑んでたけど。

 最初出会った頃に比べたら頬のコケもマシになって、体格がまともになってきた気がするけど。

 でも――何か違うんだよなぁ。


「顔じゃなくて、こう……危うい感じが凄い出てると言うか」

「危うい感じ?」

「俺それ知ってる! 大人の魅力ってやつだ!」

「イチル君……あのはかない感じは、大人の魅力とはまた違うんだよ……」

「……はかないってなんだ?」

「触ったら崩れてしまいそうな位脆い、って意味よ」

「えーっと、つまり……弱いって事か! 父ちゃんが言ってたぞ! 弱ってる女は狙い目だって!」


 イチル君が自信満々に言った言葉に、女の子達の表情が冷めていく。


「……イチル?」

「イチル、最低なの……」

「ち、違ぇし! ニアはその、そんな、狙い目だとか思ってねぇし! あの時はニアが泣いてて心配で、何か俺に出来る事ないかなって……俺、必死で……!」

「わ、分かったから! イチルまで泣かないでよ……!」


 ああ――俺の半分も生きてない子ども達が良い感じに恋愛してんの、いいなぁ。

 俺はそんな風に誰かに心揺さぶられる経験、ステラさんに会うまでなかったから。


 20も半ば(こんな歳)になるまで恋をした事が無い、って街の酒場で酔った勢いで言ったら馬鹿にされたっけな。


(そういや、《《族長と次期族長は一夫多妻》》って慣習の事も話したら羨ましがられたなぁ……)


 視界いっぱいに広がる草原に、遠くに見える白い山々――

 久々に故郷の村(クレーブス)の景色を思い返すと、どうしてもあの夜の事を考えてしまう。


 複数の女に迫られて、断って、親父に殴られて、逃げ出した情けない夜の事を。




 広大な草原と壮大な山々に恵まれたローゾフィアが皇国内の一つの領として正式に認められたのは、7年くらい前。

 ノース地方を治める公爵と親父が仲良くなって侯爵位とローゾフィア領の自治権をもらうまで、俺達は農作物を荒らす魔物や近隣の民族と何度となく諍いを繰り返していた。


 だから、ローゾフィアの族長は村で最も強い男だと決まっていた。


 大草原や雪山に巣くう魔物や、村を襲う敵に真っ先に立ち向かって見事に勝って見せる男にこそ男は従いたいと思うし、女は子を成したいと思う。


 だから強い男が族長になり、子の中で一番強い男が次期族長になる。

 それが広大な自然の中で生きる民の常識だった。


 だけど、戦いに犠牲はつきものだ。魔物や敵との戦いで男はどんどん死んでいく。

 特に族長の一族の男達は最前線で戦うから特に死にやすい。


 俺より強い兄貴達が、俺の前に立って死んでいった。

 俺が生き残れたのは、兄貴達より後に生まれたから――運としか言いようがない。


 親父は獣人なんて揶揄やゆされる位には体格も大きく、昼も夜も強い人で、長い間最前線を譲らなかった。

 そんな親父が6年前――爵位を賜った後、これを機に一線を引きたいと言いだした。

 生き残っている兄弟で、成人しているのは3人――俺は5つ年上の兄貴が選ばれると思ってた。

 一番強くて、親父に似てて、豪快で村を率いていく兄貴を補佐して生きていくもんだと思ってた。


 だけど――


「これからの時代、強いだけでは村を守れん」


 親父が後継者に指名したのは俺だった。

 反論する間もなく、兄貴達の顔を見る事も出来ずに続けられた言葉は、


「女は用意しておいたから、さっさと跡継ぎを作れ」


 親父は勝手に俺の子どもを産む為の女を何人も用意していた。


 一人の女が産める数は一年に一人。

 女は子を宿すという使命があるから戦には出せないし、男も成人まで無事に育ちきれるかどうかも分からない。その上、出産は母体を危険にさらす。


 だから族長と次期族長は半ば強制的に複数の妻を娶る事が課せられる。

 街の酒場で酔っ払った人達が想像していたような一夫多妻ハーレムとは全く違う。


 村を守る為の、民の生存率をあげる為の一夫多妻――族長は心身の拠り所を失った女達を平等に愛さなければならない。


 親父と母さん達を見て、それが族長になる者の使命だと理屈では分かってたんだ。


 でも――俺の伴侶にと選ばれた子の中には、死んだ兄貴が想いを寄せていた子がいた。

 想いどころか、死んだ兄貴の子ども産んでる人もいた。

 死んだ友達の事が好きだって言ってた子もいた。

 死んだ弟に想いを寄せてた子もいた。


 分かってるさ。族長には村の者達を守る使命があるように、村の女にも強い子どもを産むと言う使命がある。

 そうじゃないと大切な村を守り続ける事が出来ないから。


 だから、彼女達がどんな決意をして、どんな想いで俺の妻になろうとしてるのか、痛い位に分かってた。

 

 分かってたからこそ――俺には無理だった。


 あの人達の感情とか、決意とか、そういうの全部ひっくるめて受け止めて、まとめて複数の女性を平等に愛せるような度量が、俺にはなかったんだ。



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