転生試験 1
「ここは、森だよな…」
気がつくと日本には無いような原生林が眼前に広がっていた。生えている植物は前の世界に似てはいるが、全て知らないものだ。
鎖帷子の上に外套を羽織っている自分の服装の異世界感に高揚しつつ、ふと足元に目をやると、バックパックが置かれていた。その中にはちょっとした食料品と水、それに紙切れ1枚が入っていた。入ってた物のショボさに落胆しつつも、紙に書いてある文を読んだ。
「なになに…森を抜け、塔の下に10日以内に集まれ。ってそれだけ?!おいおい、試験管の神さんよ雑すぎやしないか!何をすればいいのかすらも分からないじゃないか…ってうわっっ!!」
紙切れがいきなり光り始めて宙に浮いたのだ。そして光は形を変え気づけば剣の形になっていた。
気づいた頃にはアーミングソードとなり手に収まっていたのだ。
「剣だ…。試験と言っていたけれど、この世界も転生先の世界と同じようなは剣と魔法のファンタジーのような世界って事だよな。つまり、戦うモンスターなんかも出るのか、覚悟しないとな。」
軽く、剣を2、3回振り回してみる。前の世界で剣なんて触った事もなかったが、ある程度は扱えそうだ。
「こんな重そうな剣をぎこちないけれど、まあまあの速度で振れるのか、前の筋トレもしてない俺だったら無理だよな。もしかしたらこの世界に来たときにある程度戦えるように身体能力が強化されたのか?確かに前はこんなに腕は筋肉質では無かったな。だけどチートって言える程の強化じゃなさそうだな。」
この時の俺は戸惑いながらもゲームの様な世界が待っているだろうという期待に満ちていた。
暫く歩くと人の声らしき音が聞こえてきた。何のヒントも無しに森の中を彷徨い続けたので人の声が聞こえた事が嬉しくて何も考えずに、声が聞こえた方向に走り出していた。
走り出して森を抜けた先は森の中に簡易的に作られた道だった。
幅は5mくらいだろうか、その道の真ん中に倒れている少女といきなり出てきた俺に警戒心を顕にした4体のゴブリン集団が各々攻撃態勢に入っていた。ゴブリンはそれぞれ1.2m程で前の世界のファンタジー作品に出てくる様ないかにもなゴブリンだった。
2体は簡単な造りの弓の様なものを構えていて、一体は棍棒のような木の塊を両手に持ち、残りの一体は木製の盾と所々刃こぼれをしている剣を持っていた。恐らくは盾持ちがリーダー格なのだろう。言葉は分からないが何かを他のゴブリンに伝えていた。
その瞬間弓持ちのゴブリンが起き上がろうとしている少女に弓を向けて絞った。
すかさず少女とゴブリンの間に割って入る。
「戦えますか?」
「大丈夫です。」
短いやり取りだが、時間はあまりない。
抜刀して、剣をゴブリンの身長に合わせて構える。県の振り方や戦い方なんて分からないが、やるしかないな。緊張と興奮で手が震えるのを抑え一番前にいた棍棒持ちのゴブリンに突撃する。同時にゴブリンから弓が放たれていたが狙いは俺ではなく後ろの彼女だろう。後を気にする余裕などなく、当たらない事を祈る。棍棒持ちのゴブリンが棍棒を上段に構えてこちらに振り下ろそうとしているが、振り下ろされる前に突撃の勢いのままゴブリンの体に剣を突き刺した。瞬間に肉を裂く気持ち悪い感覚が手を覆い、赤黒い血がゴブリンの身体から流れ出ていた。棍棒持ちのゴブリンは数歩後に下がり県が抜けるとすごい勢いで血が吹き出し、地面にうずくまった。盾を持ったゴブリンが近づいていたので上段からゴブリンに向かって剣を振り下ろしたが盾で防がれたが、力でそれを押し返し、後によろめいたゴブリンの体に蹴りを放ちさらに後方に飛ばした。
すると後から雷の様な電撃が弓を持っていた一体のゴブリンに一直線に襲いかかった。そのゴブリンは呻きながら倒れた。
その電撃を放ったのは倒れていた少女だった。彼女は魔法使いなのだろう。彼女が放った魔法に気を取られていると肩がいきなり熱くなった。
もう一体の弓持ちゴブリンが放った矢が肩にかすったのだ。その瞬間無駄に考える事をやめ、盾持ちのゴブリンを仕留める事に集中する。弓持ちのゴブリンが次の矢を放つ前に魔法使いの少女が仕留めてくれるだろう、ならば自分がやるべき事は一つ、目の前にいるゴブリンを倒さなけれだならない。
盾持ちのゴブリンが一気にこちらに襲いかかって来た。盾で体の半分程を覆いながらこちらに接近してくる。ゴブリンのリーチは短いが盾が厄介だ。
こちらも前に出てゴブリンを迎えうつ、そのゴブリンの左側、盾を持つ手の方に入り込み、脇腹に剣を突き刺す。ゴブリンが大きなうめき声を上げ最後の力を振り絞ってこちらに剣を振りかざす。剣を捨て後方になんとか回避をするとゴブリンはもう動けなくなっていた。
その時もう一度電撃が少女から放たれ最後まで立っていた弓持ちのゴブリンが絶命した。この世界に来て始めての戦闘は何とか勝利を収める事ができた。
勝利した安堵感と同時にさっきの矢がかすった肩の痛みが襲ってきて、肩を抑える。前の世界ではこれほどの痛みを味わった事がなかった。戦闘中は脳内麻薬が出ていたのだろう痛みを忘れて戦う事ができたが、今は痛い以外考えられない。結構血が出ててやばいんじゃないかと考えてると少女がこちらに駆け寄ってきた。
「ありがとう御座います。今治癒魔法をかけさせていただきます。」
少女がそう言うと彼女の体が淡く緑色に光った。彼女が俺の肩に手をかざすと少女と肩の周りに光りが球体になって集まった。するとみるみると肩の傷が
癒えていき、痛みもなくなっていった。
「ありがとう!君は魔法が使えるんだね。」
「いえ、大した魔法は使えませんけどね。私はミツキといいます。助けて下さりありがとう御座いました。」
ミツキという少女は端正な顔立ちで綺麗な黒髪を肩辺りで切りそろえて、いかにも魔術師的なローブを羽織ってワンドを持っていた。
「いや、全然。俺はシュンだ。所で何でこんな所で一人、ゴブリンと戦っていたんだ?」
「私実はとある試験でここら辺まで、来たのですが道に迷ってしまって、ようやく道に出たと思ってはしゃいでたら。ゴブリンの集団に遭遇してしまったんです。」
「ん?試験ってもしかして?転生試験の事?」
「そうです!あなたも受験者なんですか?」
「そうだよ!良かったー何もヒントがなく、とりあえず塔に行けとしか言われて無いから、どうしよーって思ってた所だよ。」
「そうですよね!受験者に優しくないですよね!」
「ミツキさんも同じ内容の紙を?」
「そうです!」
「で、この後どうすればいいんですかね?」
「…さあ?」