3:嫌な奴ムーブ
「っ!しょ、少々お待ち下さいっ!」
銀行の窓口
受付のお姉さんに新しい口座開設をお願いして、6億円を現金で入金したいと現ナマを見せたらこうなった。
正直知ってた。
けど、この反応が見たかったの。
その後も予想通りで、個室でお姉さんから偉いさんのオッサン達へと話し相手が変更されたのでチョット嫌。
遠回しにどういった金か?使い道?お得な保険制度?仕事はなに?的な探りを入れられたが、ここは強気。
「余計な会話は一切する気はない。それで口座が開設できないなら他行に行くだけです。念のため録音もしておきますね。口座開設に必要な会話だけでお願いします」
生意気だなぁと自分でも思うが、これくらい強気にならなければグイグイきやがる。
結論からいうと、金額の確認に時間がかかったが、銀行としても有り難いようで支店長まで顔を出して口座は開設された。
「有り難うございます。あぁそれと、融資や勧誘や営業、どんな内容でも一通でも私の住所に通知が送られたり、営業に訪ねて来られた時点で、弁護士を使って即時解約しますね。ほら、よく言うじゃないですか?宝くじ当選後、どこかから情報が漏れて色々な勧誘が来るようになるって・・・だからもう一度言っておきます。静かにしていただけると、またこれ以上の金額も預金しますし、メインバンクとしてどんどん活用させていただきます。ですが、アナタ達銀行さんはもちろん、保険会社、その他様々な方からの情報が漏れて接触が合った時点で、全てを即時全力で解約させていただきます。もちろん、名刺を頂いた中村さん、志村さんは基本として、情報漏洩の観点からもこれらの金額を全て使ってでも徹底的に、個人、銀行ともに戦わせていただきますのでそのつもりでいて下さい・・・ハハハ、スミマセン、生意気なこと言っちゃって。でも、分かりますよね?この金額です。そんなことは絶対にありませんよね?支店長の中村さん」
睨むように様子を伺ってみる。
「っ、、、も、もちろんです!そそんなことある訳ないじゃないですか。関係者はもちろん、行員として改めて個人情報の管理、徹底をいたしますので、どうぞ今後とも宜しくお願いします」
支店長の中村さん、第二営業部の志村さん
ガバッと立ち上がり、勢いよく頭を下げられる。
「えぇぇ、止めて下さい。別に非難はしてませんよ、ただの念押しです。うぅ~ん、そうですね、まさかここまで寄り添った態度をとって頂けるとは思ってなかったので、私の方もこうしましょう。要望通りしっかりガードしていただけるなら、貴行のご都合の良い時に、ご希望に合わせて億単位ででも預金をする用意があります。なんていうのは誠意になりますか?」
「も、もちろんですっ!有り難うございます!!」
「では、志村さんが窓口でお願いします。その時は私の携帯に連絡下さい」
なんかしらんが、winwinな関係が成立した。
オレとしては当たり前のことしかお願いしていないので、冷静に考えればおかしな話である。
まぁけど、これで憂いが消えるのなら有りだと思おう。
「ぅ~~んっ、、、」
銀行を出た歩道の隅でのびをする。
時刻は昼過ぎ、結構な時間が掛かってしまった。
本当は口座を大金で開設する危険性や、面倒を避ける意味でも基本タンス貯金で、銀行を挟まない方向性を考えたが、ゆくゆくなにかと支払いが面倒になりそうなので思い切って行動してみた。
宝くじ都市伝説が本当かも確認したかったし、もし嫁にバレたり勧誘が大量発生したとしても、どうとでもなると思っている。
現実味無い金額だし、最悪今のオレにははした金といっても支障はない。
あんま自重はしたくないんだよね
さて、
なんかちょっとリッチに、美味いもんでも食べにいこう♪
「・・・満足じゃ」
ホテルのバイキングに行ってみた。
43歳にして初体験
美味かった・・・
スモークサーモン、超好き♪
一人でモクモク食っちゃった。
一食、5600円
正直、バカじゃないか?とも思うが、こういう贅沢もあるのだろう。
けど、これを日常にするのは止めておこう。
なんか、怖えぇわ、
この金銭感覚と高カロリー(汗
ふむ
腹をさすりながら考える。
次は不動産屋ってことになるのだが、なんかちょっと面倒臭く感じてきた。
さっきの銀行の時に感じたんだけど、自分でアレコレしなくても、それこそ金を使って用意してもらう方がいいんじゃねぇか?ってことだ。
なんかの映画かマンガとかの知識だから、現実にあるのかどうかも知らないが、コンセルジュ?っていうのかな、客の要望になんでも答えてくれる超有能な秘書や執事のような存在。
まぁ、ぶっちゃけ、有能じゃなくてもいいんだけど、こういった面倒を肩代わりしてくれるオレ専用のナンデモ屋がいてもいいんじゃないか?ってことだ。
スマホで分からないなりに検索してみる。
うん、
あるね。
ライフコンサルタント?みたいなのがそうなのかな?
けど、、、
なんか違う
そうじゃない
こんな企業的な感じじゃなくて、もっとオレが気楽に何でもワガママが言える存在がほしいんだよ。
その分その人にも、たまにオレのワガママ聞くだけで、超リッチな生活を一生おくれるリターンを用意して、みたいな?
「う~~~ん、、、、」
いつもの癖でコンビニの100円コーヒーを買い、街のベンチに腰掛けながら考える。
ならいっそ、これもゲームの一環として自分でスカウトしてみるのも面白いかも。
別に失敗しても、仮にお金を持ち逃げされたとしても痛くはない。
それですら、winwinといえるだろう。
なら、オレ以外にもオレと関わったことで、楽して年収1000万越のお裾分けをしてあげようじゃないか。
「と、いうことで、スミマセン」
「え?、、私、ですか?」
すぐ向かい側に座っていた、リクルートスーツの女性に声を掛けた。
「うん、そう。突然ゴメンね。探るつもりは無かったんだけど、目に入っちゃってね、キミ、就職活動中だよね?さらにその様子だと余り上手くいってないように見える。そしてボクはちょうど今、人材を募集していてね。ハハ、超怪しいけど、誓ってヤバイ系やエロイ系ではないよ。それだけはマジで誓える。ちょっとだけ聞くだけ聞いてみない?」
オレがこのベンチに座るより先に座っていた女性だ。
梅田のど真ん中。
高層ビル中層に設けられた公園のような広場。
けど、近くに映画館こそあるものの、結構穴場で周りに余り人はいない。
「はぁ、、、えっと、、、どこかの人事部の方ですか?」
広げていた手帳やスマホ、その他モロモロをカバンへとしまいながら、いつでも離脱出来るように警戒しながら答えてくれる。
「うん、正しい判断だね。心配しなくても近付かないし、キミの個人情報を聞いたりしないから、このままで喋ろう。そうだね、人事部というより個人事業主?になるのかな?ああ、事業ではないか、ハハ・・・あ、訳分かんないよね。だからマジで赤裸々に正直に喋るけど、、、ボクは宝くじのようなものに当たって、最近、超ぉぉ~、金持ちになりました、これ、見える?」
さっき出来上がったばかりの通帳を彼女に見せる。
「っ!すご、、、え、桁が分かんない」
「うん、6億だね。ホントいまそれ作りたてホヤホヤの通帳なんだけど、これがまぁ、結構時間掛かったし面倒臭かったんだよね~、で、他にもこれから賃貸とかなんやかんや動こうと思ってたんだけど、かなり億劫になりだしてね。そんで誰か秘書のような人を雇おうかなって考えてた時に、目の前にキミがいたって訳さ」
乱雑に投げて渡した通帳を、マジマジと見ながらフリーズしている彼女。
「正直、自分で嫌な奴ムーブしてるなって思うよ?けど、これが本当にボクの現実なんだ。マジでその6億ですら端金で、無くなってしまっても痛くも痒くもないからね・・・でだ。これでだいたいの状況は伝わったと思うけど、興味はある?」
ゆっくりと立ち上がって、丁寧にオレへと通帳を返す彼女。
ついでに、オレの近くへと座る場所を移動する。
「・・・はい、まだ分からないことだらけですが、状況は理解できました・・・お察しの通り、就活中なんですが、なかなか上手くいってなくて・・・そのぉ、きょ、興味はあります」
一人分のスペースを空けて近くに座る彼女。
怖いけど、説破詰まっている様子だ。
「有り難う。ボクが個人で雇う形だからちゃんとした就職にはならないし、社会保険とかもありはしない。けど、だからこそ最低でも月給100万はだそうと思う」
「っ!!!、、、え、それは」
「いや、でもよく考えてみてね。税金とか明細書とか法律とか、そんなの一切知らないよ、オレ。それら全ては自分でやってもらう、、、いや、待てよ、そのへん対策は誰か同じように税理士?的なスペシャリストを雇えばいいのか?あれ?やっぱり会社的になるのかな?」
ふぬぬ、、、
考え出したオレに、彼女が話し出す。
「えっと、間違えているかもしれませんが、だいたいの求められている雰囲気は理解出来たのですが、、、一つだけ、質問です。そそのぅ、、どど、どこまで、要求されてしまったりするのでしょうか?」
俯き、赤面しながら話す彼女
「ああ、やっぱり、そこに行き着くよね。嘘みたいに聞こえるかもだけど、キミにエロいことは一切しないよ。セクハラにも気をつけるし、そんな愛人のようなことは一切要求しないから安心して。仮にお尻触られたって思ったら、慰謝料ふんだくってやる、くらいで丁度いいよ。仕事もオレがチョイチョイ出すお願いに出来る範囲でやってくれたらそれでいい。出勤も必要に応じてくらいでかまわない。空いてる時間は好きにしてくれ」
改めて真剣な顔で彼女に伝えてみる。
「で、ですが、それでは余りにも金額が、」
真面目な性格なのだろう。
そんなお使い程度では申し訳ない、くらいには感じているのかもしれない。
「有り難う。なら、もう一度だけ言っておくよ。ボクは超金持ちになったんだ。それこそ、何十人何百人の人が遊んで暮らせる程の超大金持ちさ。だからそのお裾分けくらいに思ってよ。こんな言い方はスッゲェ上からで失礼だけど、ボクに選ばれた時点で宝くじに当たったようなものさ。そう考えてほしい」
軽いノリだけど、ちゃんと真面目を意識して答えてみる。
彼女もそれを受けて、真剣に考えている様子だ。
少しだけ彼女が話し出すのを待ってみる
「・・・・・分かりました。お言葉に甘える方向で検討したいと思います・・・ただ、その、宜しいのでしょうか?私はそんな有能でもなんでもありませんよ?ご希望にお答え出来る自信が・・・」
ニコッと笑顔で了承する方向性を示す彼女。
けど、そうなると、次は仕事がこなせるかどうかへの不安に繋がっていく。
「ああ、大丈夫大丈夫♪そだね、いまオレが考えているのは拠点なんだよ。また後で詳しく説明するけど、例えば、、、賃貸を借りてもらいたい。そしてそこに家具も揃えたい。けどオレにはデザインセンスも無ければ知識もない。だから、美大とか行って誰かキミと同じように雇ってマル投げしたい。で、さらにゲーミング部屋?みたいなオタクな部屋も作りたいんだけど、PCとかネット環境とかもド素人なので、これまた日本橋とか電気屋とか行って、誰か詳しい奴を捕まえたい。みたいな?きっとそんなプロもいるんだろうけど、面白くないだろ?それならロープレしながら、そんな感じでマッタリ遊びながら整えたい。けどオレが先頭に立つと一々怪しいからさ。で、キミの出番だよ。交渉係くん」
俯く彼女。
あれ?
気楽だよって安心させるつもりが、ヘコませちゃった?
「・・・その、影武者的な役割も込められてますよね?話を聞いていると面白そうだなぁって思いますし、報酬も高く、夢のような話ではあるのですが、、、私のような面白味も無い、地味な女では高額なやりとりをする交渉には向きません。えっと、、、派手で面白く、相応しい人物を知っています。その人を紹介しますので、私は辞退し、」
「待ったっ!」
オレは立ち上がり、彼女の正面に立つ。
取り分け美人でもなければ、自分で言うように地味でおとなしい、真面目がセールスポイントというような女性だ。
「うん、会って間もないけど、オレはキミのような真面目で実直。さらに自分が損をしてでも、合理的な判断を優先しようとする人物を雇いたい。どうか、このままオレに雇われてはくれないかい?オレの名前は[ジュンペイ]だ」
俯く彼女へと右手を差し出す。
「・・・・・暗い、面白味が無い、愛想笑い、地味、真面目だけでは、、、そう言われて今日まで落とされてきました・・・・ハイッ!宜しくお願いしますっ!!私は岡本恵梨香、[エリカ]です!」
ガバッと立ち上がり、少し潤んだ目で、けど力強くオレを真っ直ぐに見つめて、右手を握り返すエリカ。
ハハ
面白くなってきた
これから、このエリカといろいろ企んでいこうじゃないか
うん、
相談相手が出来たのは大きい。
考えてなかったけど、確かにエリカがいうように影武者的な存在とするのも面白いかも。
まぁ、マッタリやっていこうか