表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現金無双オジサン  作者: めがねスライム
2/5

2:リスタート







 「おかえり~。今日は早かったわね♪」


 結婚12年目の妻[つぐみ]が暖かい声を掛けてくれる。


 「「パパおかえりぃ~」」


 中二と小6の娘達も、宿題をしながら口々に声を掛けてくれる。


 「ああ、ただいま」


 オレはこの瞬間が一番幸せなんじゃないかと感じる。

 我ながら良い家庭を築けていると、誇らしく思える。


 「へへへ、お土産だ。二人で開けてごらん。ツグにも、ほら、折角晩ごはんを準備してくれてるところ悪いが、じゃんっ!これ、焼いてくれないか♪」


 オレは帰りにデパートで買った高級ケーキの箱を娘達に手渡し、キッチンで晩ごはんの準備をしている妻に最高級の牛肉を渡す。


 「ちょっと、すごぉぉい!なにこのお肉っ!うぅわ、ケーキも凄いじゃないっ!どうしたの、これ!?」


 大ハシャぎする家族に、さらに追い打ちをかける。


 「ふっふふ、これしきのことでなにを驚くことがある?我々は今日、貴族へと叙爵したのさ♪これを見よっ!」


 カバンより三百万円を取り出し、一人ずつに百万円の束を手渡していく。


 「・・・・・ママ、警察に通報して。タマ、こんな時期の転校になるけど、頑張って新しい友達見つけようね」


 上の娘の[イツキ]が無表情で怖いことを言い出した。


 「そ、そうね、実家に部屋は余っていたかしら?何年になるか分からないけど、家族への影響を考えたら離婚は確実よね。あれ?出頭後でも離婚って出来たっけ?」


 オレは冷蔵庫からプリン体ゼロの発泡酒を取り出して、カンの蓋を開けてグビグビ喉を潤す。


 「プハァ~、、、え、冗談だよね?あれ、なんで戸棚探ってるの?つか、普段からそこに離婚届入ってるの?って、タマ!早速アマゾソで物色しないっ!」


 下の娘[タマヨ]は、なにも言わずにアマゾソのカートにいろいろ彫り込みだした。

 ある意味、一番怖い子だ・・・


 「あのさぁ、黙っていたけど、オレ、ロト買ってたんだよね。で、これが当たったってわけ♪」


 「「「でかしたっ!!!」」」


 その後、みんなで焼き肉をしてから、就寝前の禁断ケーキを食べて、和気藹々と過ごすことが出来た。




 そして次の日、いつものように準備をして、いつものように出勤する。

 ソワソワしながら管理職が出社して来るやいなや、覚悟を決めて辞表を提出する。


 かれこれ30分、事情を聞かれたり引き留められたりと正直面倒だったが、すんなり受け入れられる方が、オレの20年の勤務が無駄に感じてしまうので、思い直し真摯に対応する。


 それから一週間、引継作業や業務のマニュアル作成などに出社して、逆に忙しい時間を過ごすこととなった。


 途中、何度か梅田のホテルに顔を出して、トランクケースに抱きつき、中身を確認してグヘヘヘしていた。

 ついでに宿泊数も今月末まで延長している。


 そして今日、最後の引継が終了して、残りの出勤日は有休消化となり、これより私物を持って早退する。

 同僚や後輩などにもいろいろと心配されて、嬉しい言葉なんかも受け取った。

 けど逆に、困った時はオレに連絡をくれと伝えて会社を後にする。




 「さて、と」


 梅田へとやって来た。

 多分、これからここが、オレのホームグラウンドになることだろう。

 時刻は13時半。

 なんとなく以前のスタパでコーヒーを飲みながら、これからのことを考えよう訪れていた。 

 注文を終え、たまたま以前と同じ席につくと、イヤでも一週間前のことが思い出される。




~~~~~~~~~~




 「不躾で申し訳ありません。これ、いりませんか?」


 封筒に入った100万円を、彼へと差し出した。


 「っ!な、え、、ちょっと、これ・・・」


 封筒の中を確認した青年は、動揺を隠せずにあたふたとしていた。


 「本物だよ。別にキミを騙そうとか、リアクションを撮影?なんて、そんなのじゃないから落ち着いて話しを聞いてくれ・・・取り敢えず、それはもうキミの物だ、返せとか責任とか言わないから安心して受け取って欲しい。あ、理由なんてないよ、ただの思いつきで、たまたまキミが目に付いただけさ。意味なんて無いよ」


 前のめりに少し小声で彼へと話しかける。


 「・・・・・いや、怖いんですけど、な、なんっすか?これ?」


 封筒を手にしたまま、警戒心MAXの青年。


 「まぁそらそうだわね、いきなりこんなの渡されても胡散臭いわな。う~ん、、、シンプルに宝くじで大金手に入れました、幸せのお裾分け、くらいに思ってよ」


 余裕を見せるようにコーヒーを口に付ける。


 「・・・そういうことなら話し聞くくらいならいいっすけど。でも、変なことには手を貸しませんよ」


 「OKOK、それで十分。じゃあ手短に結論から言うと、、、」


 チョイチョイと顔を近付けるように指示をして小声で続ける。


 「あそこの娘、落とせると思う?」


 「・・・オジサンがっすか?金を積み上げたらワンチャンありそうに思いますけど」


 斜め向かいに座る、如何にもキャリアウーマンって感じのキレイな女性だ。


 「違う違う、キミがだよ。実は少し前からキミが彼女を意識していたのは気付いている。で、さらに言うと、彼女もキミが意識していることに気付いている。そして彼女はその優越感を楽しんでいるようにも思う。けどきっとそれは、彼女の無意識だけど確信犯的な行動の結果であり、キミが彼女に声を掛けても絶対に相手にはしてもらえない・・・どう?ボクの超勝手な推測だけど」


 失礼極まりない内容だが、金の力って怖いね

 堂々と本人に問いかけてみる。


 「・・・・・そっすね、冷静に俯瞰してみれば、概ねそれで間違いないように思うっすね」


 思ったより頭のいい青年なのかもしれない。

 意外にも冷静な答えが返ってきた。


 「でだ、、、そんな彼女を落としてみない?チャレンジするなら後300万進呈しよう。使い方は自由だ。正直に頭のおかしいオジサンに言われたって言ってくれても構わないし、シンプルにその報酬で演技するようお願いしてもかまわない。ゴールはただ、二人で一緒に店を出る。それだけさ。その後すぐに分かれてもらっても良いし、もちろん断られても失敗しても300万を返せなんて言わないよ。極端な話し、300万を受け取って、彼女には話しかけずにそのまま店から逃げてもかまわない。ただの娯楽さ。ここで降りるならその100万だけ。チャレンジするなら結果はどうあれあと300万を今すぐ渡す。どう?やる?」


 かなりのムチャブリだが、彼にとっても悪い話しじゃないはずだ。

 まぁ、怪しさは満点で、そっちの方がネックだけど。


 「・・・・・やります。失敗でもいいんですよね?さらにその後アナタへの連絡もいらないんですよね?」


 「ああ、これっきりさ。連絡先も聞かないし、名前も知りたくない。ただキミの行動を見て楽しみたいだけさ・・・じゃあ、そういうことでボクは席を外すよ」


 テーブルに残りの300万の入った封筒を置いて、自分のコーヒーを持って最初のカウンターへと移動する。


 そしてまた、気配を消して周囲と彼を観察する。


 どうやらボクの動きに注意を向けている人物はいないようだ。

 彼もまた、金額を確認して、慌ててカバンへと封筒をしまっている。


 しばらく、アレコレと考えて準備をしている様子だが、チラッとこちらを向き、目があった瞬間、ガバッと立ち上がり、勢いよく彼女のテーブルへと向かい、許可もなく彼女の正面に座り込んだ。


 (マジで!)


 そんなパワープレイを予想していなかっただけに、それじゃすぐに逃げられちゃうよと悲観する。


 だが彼は、すぐに意外な行動に出た。


 驚き、イヤな顔ですぐに立ち上がろうとする彼女に対して、ノートパソコンのモニターを見せている。

 さらに開いたノーパソのキーボードには封筒が挟まっている。

 多分、オレと同じように現金を使っているのだろう。


 いぶかしみながらも、モニターに書かれているであろう内容を確認している彼女。

 そして、立ち去ろうとしていた行動を止めて、座り直し、封筒に手を伸ばした。


 ここから見ても、彼女が驚愕しているのが分かる。

 けど、封筒の厚みから、百万ではなく十万くらいじゃないかと予想する。


 彼は一切喋ることなく、手早くノーパソを操作して、また彼女の方にモニターを向けていた。

 

 今度は食い入るようにモニターを確認する彼女。


 そして真剣な表情で、彼へと2、3、質問をしている。

 彼もまた、新たに出した封筒の中身を彼女に見せて、説得に掛かっている様子だ。


 そこからは早かった。


 すぐに二人は立ち上がり、店の出口へと向かった。

 一瞬、彼がこちらを向いて会釈したように感じたが、気のせいかもしれない。

 そんなふうに彼を見ていた瞬間、予想外の行動にでた。


 手をつないだのだ。

 カップを捨て、自然な動きで手をつないで出口へと向かう二人。


 (ああぁぁ???)


 オレは驚きすぎて、思わず立ち上がってしまった。


 店外に出てからも、手をつないだままで歩き去る二人。

 本来もうここでゲームは終了なのだが、余りにも驚きすぎて、思わずオレも店を出て二人を尾行してしまう。




 「・・・やりやがった」



 二人はラブホへと消えていった・・・




~~~~~~~~~



 コーヒーを飲みながら思考にふける。




 はぁ~、マジか・・・


 思い出しただけで、なかなかにカルチャーショックだった。


 思ったより彼は交渉上手で、彼女の貞操概念は見た目より低かったって訳だ。


 いや、

 いやいやいやいやいやいや、、、

 そうじゃない!


 それだけ、金の力がスゲェェってことだよな?

 こわっ

 金、こわっ

 まぁ、オレも結構大胆に行動したけど、それも踏まえて金こわっ


 なんか初日にして、自分の性格の悪さが浮き彫りになっちまった気がする。


 うん、


 羨ましいなんて思ってないよ?


 オレ、浮気や豪遊がしたい訳じゃないし?

 そ、そんなのに興味が無いし?

 この二重生活にエロいことを求めているか、いないかで言えば、まぁ~、チョット興味?くらいな訳だし・・・

 べ、別にあの青年にコンニャローとか、なんならオレも!なんて思っちゃいないし?

 みたいな?・・・



 ・・・サァーセン


 ナマ言いました

 カッコ付けやした・・・


 超したいっす!


 行ったことないけど、キャバ豪遊?とか、金チラつかせて愛人?とか、なんせ金でイロイロ買いまくってグヘヘ超ハーレムとか超ぉぉぉしたいっす!!


 嫁、家庭、大事


 知ってるし、それは、それ!


 裏切り、罪悪感、背徳行為


 うん、分かっちゃいるけど、これは、これ!


 分かるよね?


 男なら、オレが言ってることは誰でも考えるよね?

 こんな超大金手に入れて、もしかしたら芸能人すら愛人に出来ちゃうとか考えるよね?

 間違えてないよね??

 誰だってそうだろ?

 ハーレム王に、オレはなるっっ!!


 ですよね?




 ・・・

 ・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・・・うん、


 けど、オレは、この金で、そういうことはしない。


 キレイゴトのつもりはない。

 事実、自分の汚ねぇ欲は認めてるし、本気でやってみたい。


 でも、

 なんだろ?

 バレるバレないじゃなくて、自分が後ろめたい、とか、自分に対する裏切り?とかにこの金を使ったら、、、なんだろ?


 すぐに、終わっちゃうように感じる・・・


 理由はない


 なんとなくインスピレーション?

 この非日常にダークサイドを持ち込んだら、すぐに消えちゃいそうに感じるだ。


 小心者ゆえの発想かもしれない・・・


 けど、やっぱりオレは、そんな大それた背徳行動じゃなくて、精々やったことないような自家発電に期待寄せている方が、気楽で、お似合いの、小者ってだけの話だ。


 しかし、


 ちょっと開けてはいけない扉が開いてしまった・・・


 金の力で人を動かす。


 なんだろ?

 楽しかったっ!

 優越感MAX!

 支配者!?

 んぅぅ、、、よく分からんっ!

 けど、こう、、、、

 ゾクゾクゥゥって背筋に走ったの。

 あれ?

 変態?

 しらんっ!

 楽しかった

 だから、こういった人を使っての悪い遊びはやっちゃおうと思う。

 上から目線だけど、だってその人たちも大金手に入れてwinwinだしね♪


 さて、

 方向性も決まってきた訳だし、今後のことに目を向けねば。


 まずは、拠点だ。


 ホテルは落ち着かん!

 私物、貯め込めねぇーし!


 超タワマンの最上階とか買ってみたいけど、多分固定資産?贈与?所得?なんちゃらな税金とか、金の流れ的な証明とか、いろいろややこしいことになりそうな臭いがする。


 知らんけど


 ゆえに、賃貸とかウィークリー?マンスリーとかなら、気軽で税金がどうのとかにはならないんじゃないかな?

 と、考えている。

 

 知らんけど


 と、いうことで、明日よりは不動産方面から攻めていくことにするとしよう♪



 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ