1:欲望と願望
ただの作者の願望です。法や団体などリアルに受け止めないでくださいね。似てますが異なる世界です!断固
「・・・気のせい、じゃ、ない、よな?」
オレの手には、ピン札の百万円の束がある。
もう一度カバンへと手を突っ込み、その確かな手触りに確信を持ちながら取り出してみると、やはり新たな百万円の束だ。
駅構内のトイレの個室。
予備のトイレットペーパーの上には、取り出した百万円の束が13束も積み上げられていた。
どうして、こうなった・・・?
困惑しながらも、ついさっきまでの行動を振り返ってみる。
今朝のルーティーンはなんの変哲もない、いつもの流れだった。
ただ一つ違いがあるとすれば、昨晩、部屋の掃除中に見つけた昔のキーホルダーを、何となくカバンに取り付けたくらいのものだ。
いつもの通勤ラッシュの電車の中。
いつもと同じドアで、いつもと同じ吊革に、痴漢などの冤罪に巻き込まれないよう、右手を吊革に、左手の親指にカバンをぶら下げながら右腕を掴んで、ユラユラ揺られてボケーとしていた。
もう十年以上も続けている、いつもと変わらない、いつものルーティーン。
けど、
だからこそ気がついた。
(ん? カバンになにか入れたっけ?)
若干ではあるが、いつもよりカバンに重みを感じる。
十年以上使っているボロボロの通勤カバン。
カバンの中身も十年間ほぼ変わらずに、殆どなにも入っていない。
手ぶらだとなんかイヤだし、常備薬やマスクの予備、ガラケー時代の名残で電池などがサイドポケットに入っているだけの、くたびれた通勤カバンだ。
ふと、昨日取り付けた小さなキーホルダーと目が合った。
勾玉型をしたシンプルな物だ。
どこで手に入れたか思い出せないが、なんとなくお守りのような感覚で取り付けてみた。
通過待ちの駅に停車し、揺れが収まったタイミングでカバンを開き、中を確かめてみる。
「はぁ!?」
思わず声を上げてしまった。
慌ててカバンを閉じる。
周囲に注目されていることから、動揺して車内より飛び出してしまう。
(え?え?、ど、どうなってんだ?)
見間違いかと思い、ホームの真ん中で再度カバンをのぞき込む。
やっぱり、カバンの中には百万円が入っていた・・・
普段降りない駅ではあるが、構造はなんとなく知っている。
急いでトイレへと駆け込み、奥の個室へと入って気持ちを落ち着かせる。
「ふぅー・・・・・」
取り敢えず、取り出してみた。
うん、
百万円だ・・・
43歳にもなるが、こんなちゃんとした百万円の束を見るのは初めてだ。
ただ、これだけは分かる。
・・・・・・本物だ
嫁、か?
いやいやいやいやいや、、、
[つぐ]がこんな悪戯をする訳がない。
小、中学生の娘たちな訳もないし・・・
昨晩は確実になにも入っていなかった。
う~ん・・・と答えが出ないまま、取り敢えず百万円をトイレットペーパーの上に置き、カバンになにかヒントはないかと開いてみる。
「・・・・・・・・」
また、百万円が入っていた。
訳も分からず、取り敢えず取り出してみる。
うん、
間違いなく、本物だ・・・
一瞬、さっきの百万円をカバンにしまったのか?とも思ったが、違う、ちゃんとトイレットペーパーの上に鎮座されていらっしゃる。
・・・見間違いか?
実は、最初から二百万も入っていたのか・・・
オレは手に持った百万円を、トイレットペーパーの上の百万円に重ねて置く。
再度、カバンを開いてみる。
またも、百万円の束が入っていた・・・
もう、見間違いなんかじゃない。
こうなってくると、逆に思考は停止して、取り出しては置いて、取り出しては置いてを繰り返して、現在に至る。
うん、、、
一千三百万円もある。
トイレットペーパーの上に、ジェンガのように積み上げられた札束。
ここが汚ねぇトイレだろうが、隣の個室より漂う不快な臭いやオナラ音すらも、今はどうでもいい。
うん、、、
これは、もう、、、
非日常体験、入りました~・・・
パチパチパチ~・・・
ハハハハハハハハ・・・
頭の中で壊れた自分がフザケている。
だって、しゃーねぇーよ
どう考えたってリアルだもん
臭せぇーよ、
ツネったら痛いよ?
超~、百歩譲って、
超~、見間違いで、
最初から、一千三百万が入ってたとしよう・・・
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
無理よっ!
入んねぇーよ!!
このビジネスバックに、この体積入んねぇーもん!
ゆえに、
これは、異次元収納バックですか?
いいえ、これは安い通勤カバンです。
って、ほらっ!
またでたっ!!
これで一千四百万よ!
うぅぅぅぅぅんんっっっ・・・
取り敢えず、現状をフラットに受け止めて、これからの行動に思考を向けてみよう。
うん、
もう有休をとるのは確実だ。
オレの朝の行動は早いので、もう少ししてから電話を入れれば大丈夫だろう。
家には帰り辛い。
ツグ(嫁)は居るけど、なんかまだ人に言える余裕がない。
言った瞬間に夢と消えそうで、なんか怖い。
うん、
とりま、ここから出よう!
けど、このお金、どうしよう?
なんかカバンにしまったら、消えてしまったりはしないだろうか・・・
うん、
リスクは避けよう
あらゆるポケットに、お札が見えないようにつっこんでみる。
今は11月。
ジャケットを着ているので、そこそこポケットはある。
けど、見えないように頑張ったところで、まだまだ一千万は残っている・・・。
・・・ひらめいた!
靴下に入れてみる。
あんま入んない
あっ、
インナーシャツの中にジャンジャン放り込んでみる。
おなか周りが凄いことなってしまったが、ジャケットの下にニットを着ているので、透けて見えたりはしない。
う、
ちょっとくすぐったい。
うん、少なくとも札束だとは分からないだろう。
・・・・・これで、よし。
何度も個室内を確認してから駅のホームへと戻る。
まずはコンビニにでも行って、中の見えないバックを購入しよう。
あまり知らない駅だが、駅前にコンビニの一つや二つはあるだろう。
モゾモゾとした動きで、ゆっくり駅前へと出る。
ねらい通り、コンビニはすぐ目の前にあった。
普段見ることのないコーナーを物色すると、エコバックと思われるビニール製のでかいバックを発見する。
(なんでこんな派手なのか?)
大小の星が散りばめられた紺色のエコバック。
念のため三つほど購入してから、コンビニのトイレへとしけこむ。
ありとあらゆる所から札束を取り出して、エコバックへとしまう。
口を団子結びで縛って、さらにエコバックへと入れる。
さらに口をギュウギュウに結んで、またエコバックへと入れる。
ふぅーー・・・
なんか知らんけど、人心地がついた・・・
トイレから出て、ホットのペットボトルコーヒーを再度購入して外へと出る。
うん、
甘いがうまいっ
いつもの癖で、ノールックでビジネスバックへとペットボトルコーヒーを入れてしまう。
慌ててカバンの中を確認してみたが、コーヒーはちゃんと存在していて、普通にいつものカバン中だ。
うん、、、
また百万円が入っていること以外は、、、
だけど(汗
シレッと抜き出し、内ポケットへと素早くしまう。
なんか知らんが、見たら出さなきゃいけない謎の脅迫概念が生まれていた。
キョロキョロと周囲を見渡すと、少し離れたところにタクシー乗り場を発見する。
(電車に乗る気にはなれないな。落ち着いて検証したいし、取り敢えず街中にでも出た方が後々動きやすいだろう)
タクシーに乗り込み、大阪の中心地[梅田]へと移動する。
滅多に乗らないタクシーで、電車で行けるところに、電車より時間を掛けて移動していることに、なぜか後ろめたさを感じてしまう。
時刻は8時過ぎ
中心部のヨドハシカメラの前でタクシーより降りて、職場へと連絡する。
「・・・・・・はい、、、はい、ご迷惑お掛けします」
このご時世、熱っぽいという理由で、今はある意味有休がとりやすい。
「さて、と」
これで気兼ねなくフリーとなった。
腰を据えてゆっくりと検証しよう。
ここヨドハシカメラに来たのには理由があった。
「じゃあ、広い方が良いのでダブルでお願いします」
まず一人になるための方法として、最初に思いついたのがカラオケボックスだった。
けど、カラオケボックスの個室には監視カメラがあるという謎の噂を思い出して、ならいっそホテルで部屋を借りてしまおうと思い至ったのだ。
「一泊4万か・・・なら、ご、五泊でお願いします」
早朝につき、まだまだショップは開いていない。
今日中に必ず必要となるのは、キャスター付きのトランクケースだ。
その購入を考えた時に、ヨドハシカメラなら品揃えも多そうだし、すぐ上のホテルなら動きやすいと考えたのだ。
「一泊4万で、、、こんなもんなのか」
小市民のオレは、普段絶対にこんなリッチなホテルには泊まらない。
一泊数千円のビジネスホテルだ。
確かに綺麗でそれなりの広さはあるが、4万円のラグジュアリーをオレは理解することが出来ない。
朝のバイキングも付いてねぇし、なんなら一泊料金でスイッチ買えるし、好んでこんな高級ホテル泊まる感覚が理解できない。
ま、
そんなことはどうでもいい!
とりま、はやく、いろいろと検証してみようっ!!
しばらくして、
「・・・・・取り敢えず、、、控えめに言って、無限、かな?」
いくら取り出しても終わりが見えない。
何回でも100万円が湧いて出る。
ベットに腰掛け、ひたすらに取り出してみた結果、10億円は軽く越える札束が足下に転がっている。
シリアルナンバーを調べてみても、多分バラバラで偽札という訳でもなさそうだ。
もう、流石にこれだけあれば十分過ぎる金額なので、ダメもとでいろいろと検証した結果、以下のことが分かった。
・カバンに札束を入れても無くならない。ただしその場合には新たな札束は湧いてこない。
・札束は取り出した後に、一瞬でも口を閉めればまた湧いて出る。
・札束が湧く以外は、ただの普通のカバンであり、他の荷物に全く影響は無い。
・キーホルダーを外すと、100万円は湧かなかった。
・再度取り付けてみると、100万円が出現した。
・エコバックにキーホルダーをつけてみたら、100万円が沸いて出た。
「これはもう、確定だな」
キーホルダーが原因なのだろう。
しかし不思議なもので、昔から持っていた記憶はあるが、いつ、どこで、どのようにして手に入れたのかは全く思い出せない。
少々引っかかりは感じるが、今となっては過去より今後のことの方が優先だ。
キーホルダーをまたカバンへと装着し、立ち上がって延びをする。
時刻を見れば、すでに10時30分をまわっていた。
もう、ショップが開いている頃だろう。
数十万円を財布へと入れて、キーホルダーの付いたカバンをたすき掛けに肩へと掛け、隣接したヨドハシカメラへと降りていく。
チェックインの際にも掃除不要、部屋には誰も入らないで、と伝えてはいたが、念のため「起こさないで下さい」の札をドアノブに掛けて外出する。
だって、部屋の中には10億円の札束が乱雑に転がっているのだから。
大きめのトランクケースは思惑通りすぐに見つかった。
キャスター付きの暗証番号のあるタイプの物だ。
スマホで軽く調べたところ、1億円とは大体10kgの重さで、50リットルの体積に4億円くらいが入る、と掲載されていた。
その知識を参考に、大きめのトランクケースを4つ購入して3億円ずつ保管するつもりだ。
さらに、持ち歩きに便利そうな小さめのスーツケースも購入する。
何度も何度も行き来をするオレは、もしかしたら不審に思われたかもしれないが、そんなことを気にしてはいられない。
全てを部屋へと運び込み、思惑通りに札束を積み込み終了した頃には13時をまわっていた。
3億円の入ったトランクケースが4つ
小さめのキャリー付きスーツケースには1億2千万円。
総額で13億2千万円が目の前にある訳だ。
「・・・・・はぁ、不思議と有り難みを感じない」
作業途中からは、もう、レゴ?パズル?麻雀パイの片付け?の気分だった。
お金を数えるのは楽しいが、実感なんて持てる訳がない。
なんとなく、無意識に方向を揃えて収納している自分の几帳面さこそを実感していた。
あれだけ乱雑に転がっていた札束は、キレイさっぱりトランクケースに収納されて、また無機質なホテルの一室へと戻っていた。
これで誰かが入って来ても大丈夫だろう。
部屋の隅にトランクケースを並べて満足する。
「・・・・・・」
サァーセンッ!
ナマ言いました!!
超うれしいっす!!
有り難みMAXです!!
そんな冷静な感想じゃないっす!!
何度も何度もトランクケースを開けては閉めて、大金を確認しては悦にひたり、セミのように抱きついてグヘヘする。
うん、
かれこれ、30分は経過した。
流石にちょっと満足した。
そして腹が減ってきたことを自覚する。
時刻は14時すぎ
遅めの昼食となるが、一度冷静になる意味でも部屋を出よう。
取り敢えず、キーホルダーの付いたボロボロのビジネスバックをたすき掛けにして部屋を出る。
財布には今まで入ったことがないくらい、パンパンにお札が入れられている。
多分、30万くらいは入ってんじゃねぇかな?
そんなフクフクに太った財布に満足しながら、飲食街をブラついてみる。
ウナギ?お寿司?、超ステーキ?・・・
普段は絶対に入らない高級店に目は行くが、いざ入ろうと思うと後込みをしてしまう。
「ん?」
一昔前、よく通っていたラーメン屋が目に入った。
ま、背伸びすることないか。
気楽に楽しもう。
店内に入り、発券機の前で小市民的な贅沢が脳裏に浮かんだ。
普段は絶対に食べないフル装備のラーメンを注文してやる!
肉多っ!
けど、ノーマルラーメンに慣れているせいか、逆に麺とのバランスが悪いようにも感じてしまう。
うん、
美味いが、バランスが大事。
「「「ありぁりゃっしたっ!」」」
軽くお腹をさすりながら、腹ごなしに人混みにあわせて歩いてみる。
考え事をする時に、歩きながらというのは嫌いじゃない。
さて、
今後についてだ。
まず、嫁や家族には・・・
うん、
正直、言うつもりはない。
妻は8歳年下の35歳、専業主婦だ。
強く自己主張するタイプでもないし、優しく明るい性格だ。
しかし、子供っぽく、浅慮なところは多いし、悪質ではないが流されやすく、セレブな生活への憧れが強い。
二人の娘も素直で、反抗期もなく笑顔で楽しく過ごせている。
たぶん、オレはいま、幸せな家庭を築けている。
[生活が変われば、関係が変わり、人が変わる]
なにかで聞いたことがある言葉だ。
[幸せな環境とは、少し貧乏で、たまのお寿司やお肉に一喜一憂出来る家庭にこそある]
その通りだと思う。
セレブな生活をしたことはないが、常に高級なお肉を有り難みもなく食べていては、思いやりのようなモノが薄れてしまいそうに感じてしまう。
知らんけど。
まぁ確実に言えるのは、事実を伝えると、今の家庭の雰囲気は間違いなく崩れてしまうだろうということだ。
ゆえに、このことを家族に話すつもりはない。
精々、ロトなどで数百万円が当たった程度に伝えて、少し贅沢をさせてやれたらとは思っている。
だが、
オレは仕事を辞めようと思う・・・
自分だけ甘い汁を吸うことに、若干の後ろめたさはあるが、もうこんな状態でまともに勤労することなんて出来ない。
比喩ではなく、毎日精神と肉体を磨耗させ、家族のために、という一心で踏ん張り、頑張れてはいたが、一生働かなくてもいい金額を目の前にして、逆に強いメンタルが無いことには、平常勤務など出来る訳がない。
だからゴメンな、ツグ。
オレは仕事を辞めるよ。
そしてさらに家族を騙そうと思う。
通常通り出勤して、いつも通り帰宅時間には家に帰る。
そして、時折そこそこの金額に当選したことにしよう。
それで苦労なく、人並みの贅沢を与えられたら・・・
うん、
そんな仮面生活をしようと思う。
完全に自分に酔っている自覚はあるが、遠からずこの方向性で間違いは無いはずだ。
「えっと、ショート、いや、グランデのホットノンファットラテを」
なんとなくスタパに入ってみた。
普段はコンビニの百円コーヒーだ。
いや、バカに出来ないほど美味しいけどね。
スタバは高い。
けど、こんな真っ昼間に、出張中ではない自由な時間を持て余していることに、不思議な面白さを感じてしまい、吸い込まれるように入店した。
時刻は15時過ぎ。
商品が出来るまでのあいだ、周囲を観察する。
店内には、どこかオシャレっぽいサラリーマンやキャリアウーマンが、チラホラと仕事?をしながらお茶をしている。
学生っぽい男性や女性も、なぜかみんな勉強をしたり、パソコンでなにかイソイソしている。
う~ん、、、
みんな、それ、[振り]だよね?
全員がそうとは言わないけど、疑い出したら面白くなってきた。
まぁ分かるけどさぁ~
オレも若い頃、スタバで新聞ってのに憧れたもんさぁ~
そういうことだろ?
お、二人掛けのソファー席が空いている。
一人だけど、遠慮なく座らせてもらおうかなって、、、
つか、みんなお一人様でテーブルやソファー席使ってんじゃん
あ、そういうものなのね。
ちょっと気を使いすぎたかな?
けど、なんか気が削がれたので、中央の一人用カウンターの端へと腰を下ろす。
「・・・・・フゥー」
オッサンのオレには、蓋が邪魔だ。
なので、蓋をとってテーブルに置き、一口飲んで深呼吸する。
そして、怪しまれない程度に再度周囲を観察する。
改めて思う。
この人たちは一体どんな仕事をしているのだろう?
昭和世代のオレにはいまいちピンッと来ないのだが、仕事というのは職場であくせくするもんだってのが魂に定着してしまっている。
業種にもよるものなのは分かっているが、テレワークなどで勤労が成立するというのが、知識では理解できても、なにか現実味の無い絵空事のように感じてならない。
年齢平均年収より多く稼いでいるオレだが、それでもこんなエリート臭を放つ若造どもに、なぜか負い目を感じてしまっている自分がいる。
ただのコンプレックスか、それとも小心者ゆえの負け犬根性か・・・
ふと、一人の青年が目に入った。
キレイなスーツに身を包み、ノーパソを開いて優雅に仕事をしている様子だ。
年齢は20代後半くらいか、清潔感のあるイケメン?、いや、雰囲気イケメンという奴だろう。
まぁなんにしても、スタバの教科書的な模範青年だ。
特に理由はないが、何となくマークして観察してみる。
真剣な顔で画面と向かい合っているが、どこか集中力に欠けており、必ず新しく来店した客に意識を向けては、さり気なく周囲の女性客を意識している感がある。
かれこれ10分ほど経過した。
はい、ダウト!
間違いない。
彼は仕事をしていない。
あれはフェイクだ。
普段、書類仕事を生業としているのだから分かる。
あんなもんじゃない。
あんなふうに企画や書類をまとめられるのは、過去に作ったデーターのリメイクくらいでしかありえない。
つまり、彼は仕事をしていない。
ただの時間潰しだ。
もしくは趣味のゴッコ遊びでしかない。
そう考えると、一気に哀れに見えてきた。
いい若者が、こんな真っ昼間から仕事もせずに、見栄を張ってお茶をしている。
それも休憩やお茶を楽しむというより、見栄の為だけにここにいる感じだ。
そう思ったとき、ふと、悪魔的な発想が稲妻のようにオレを駆け抜けた。
オレはさっさと下準備を済ましてコーヒーを持って、彼のテーブルへと向かう。
オレは小心者で、コミュ力も人並み程度だ。
普段なら、初対面でこんな怪しい行動など絶対にとれない。
だが、
なぜが、迷いは無かった。
失敗しても痛くも無いし、彼にとっても絶対に美味しい話でしかない。
ゆえに、
「突然スミマセン、ちょっとこちら良いですか?」
「え?、、、い、いや、え、ちょっと、」
周囲の席は空いている。
そんな状況で、いきなりオッサンに相席を求められ、日本人特有の人の良さが発動して、動揺しながら曖昧な返事となる青年。
オレは図々しく彼の正面へと座り、笑顔でこう続けた。
「不躾で申し訳ありません。これ、入りませんか?」
封筒に入った100万円を、彼へと差し出した。
タラタラやっていきます。気長にお付き合いください。