番外 やっぱり好きです
◆
「出でよ、我が手に。その姿を示せ。水球」
教えの通りに指先で魔法陣を描き、発動させます。
手の中には微かに青い光を帯びた水球が生まれました。
緑の庭園の広場で、今、私はラフィラス様に水魔法を教えていただいております。
「出来ました。ラフィラス様」
輝く陣の青い残光の中、ラフィラス様の満足そうなお顔が見えます。
周りがきらきらした光に包まれていましても、無闇にきらきらと眩しくない、目に優しい灰色のラフィラス様が素敵です。
私は自然に微笑みを浮かべて、ラフィラス様を見つめました。
「ラフィラス様の教えのおかげです。ありがとうございます」
私の言葉に、ラフィラス様はほんのり誇らしそうな表情をされます。
「よ、かった……」
ですが、私が見つめていることに気づかれてしまったのか、灰色の瞳が私をちらりと見つめて視線を外されます。そして少し顔を赤らめ俯き、はにかむような表情をされました。
別の意味で私には眩しく素敵です。いつまでも見つめていたいです。
「こんなかんじで大丈夫ですか?」
「よ、よく、頑張りました……魔法陣も、うまく描けて、発動していたし、ちゃんと、見事な水球だ」
私が出した水球に近づき、まじまじと覗き込み見つめるラフィラス様。
ほんのりとラフィラス様の香りが香ってきます。
水球に夢中になっていて、いつもより近いことに気づいていないようです。
──いい香り。
ずっとかいでいたい香りです。安心します。
──もっと近づきたい。
逃げてしまわれそうですが。こうして私の作り出した水球を見つめて下さる間だけでも。
もっと知りたい。どんな小さなことでも、ラフィラス様のことを。
「アレリーヌ、近い、よ」
うろたえるラフィラス様は少し距離を離されます。仕方がありません。
「他にも教えて下さいね。ラフィラス様」
「どんな魔法?」
魔法のことに気を取られているラフィラス様に私はそっと一歩近づきます。
その時──
「そこの美しい君、喜びたまえ、このわたしがつきっきりで教えてあげるよ」
赤い髪、紫の瞳のきらきらです。
また来ました。きらきらです。
また台無しです。身分が高そうです。めんどうそうです。
身分高いきらきら嫌悪症になりそうです。なっているかもですが。
どう断ろうかと思っていると、ラフィラス様が私の前に出て下さいました。
「いえ、彼女のことは私が教えておりますので……」
つっかえることのない口調。聞くことのない硬いお声に内心驚きが隠せません。
「わたしが教えたいのだ」
きらきらが言います。せっかくラフィラスさまが断って下さっているのにしつこいです。
「彼女は私、ラフィラス・レリアドが教示している者ですので、失礼いたします」
ラフィラス様の遮るようなお声とお言葉。
こんなラフィラス様は初めてです。ついラフィラス様を見つめました。鋭い表情できらきらを見据えています。
ドキドキしている私の手に、ふいにあたたかなものが触れます。
──まさか?
まさかです。ラフィラス様の掌です。私の手をとって握ってくれています。
世界が薔薇色に感じました。こんな日が来るなんて……。
ぱちりと音が聞こえました。
すると、庭園からラフィラス様の魔法研究室へと場所が変わっています。
「手、ごめん、僕、君を連れて……無理やり、僕の研究室に転移した。彼は、あの、危険だから、つい…………僕の、名前を出しているし、だから……うん、なんかごめん……」
謝るラフィラス様。そんな必要ないですのに、必死につっかえながらも色々と言って下さいます。
「ありがとうございます。ラフィラス様、嬉しいです」
満面の笑みでおろおろしているラフィラス様を見つめると、握った手をそっと離そうとしています。
私がもう片方の手でラフィラス様の手を包み込むと、ラフィラス様は赤く赤く赤面されました。
──やっぱり好きです。
ラフィラス様。こんなの好きにならないはずがないじゃないですか。
end
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