S or M
「どっちかって言われたらSだな、俺は」
「いやぁ、先輩はMでしょう。だって……」
男だらけの飲み会は決まってこのような話題に終始しがちだ。
そこに遅れてきた女性陣が加わると、会話の内容はより混迷を極める。
「私はSだけど?」
淡い恋心を抱いている女性スタッフの衝撃発言に、わたしは聞き耳を立てた。
アルコールの援護射撃もあって、妄想が加速する。
「へぇ~。そうは見えないですよ」
座席を少し移動し、話題に加わったものの何か様子がおかしい。
明らかに彼女の機嫌が悪そうなのだ。
「……例えばだけど、状況によってSかMになったりするとか?」
程よく酔いが回った先輩がギリギリを攻める。コンプラが厳しくなった昨今、わたしはそれ以上つっこまずに戦況を見守ることにした。
「ずっとよ。中学……もっと前からS。変わってないし、変えるつもりもないわ」
すかさず先輩が追撃をかける。
「でも、時々Mっぽいところもあったりするじゃないですか」
ドン! と、ジョッキをテーブルに置いた彼女は、怒気を強めてこう言った。
「失礼ね! 私はずっとこの体型を維持してるの。
服はいつもSを買ってるし、太る予定もないわ!!」
テーブルを囲っていた一同が黙り込む。
途中から話が理解できていたわたしは、スマホをいじるフリに必死だった。
(筆休めシリーズ『S or M』 おわり)




