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番外編1 第三王子のひとりごと

番外編です。本編には出てこなかった人物です。

 怖い。


 初めて彼女を見た時の印象が、未だ強く根付いている。





 第三王子ながら正妃の息子で言えば二番目の僕は、とにかく波風を立てないことをモットーとして生きてきた。

 第一王子が優秀だし、側室の子である第二王子も武の才能に長けている。第二王子は早々に臣下に下ることを宣言していたので、もし王位継承争いが起こるなら第一王子か僕か、になる。そんな気はないから、とにかく穏やかに。


 もう一人、第四王子もいる。ただ、こいつはちょっと・・・うーん、どういったらいいのか、心配になるくらい頭が悪い。直情的で理性がないのかな?と思うくらい癇癪持ち。第二王子とは違う側室の子なんだけど、第二王子が「側室の子どもとしてアレと一括りにされるのは心外だ」とよく口にしている。

 もし僕が第二王子の立場だったら同じことを言うと思う。一緒にされるなんて最悪だ。



 そんな第四王子は後ろ盾もないし性格にも難があるので、王子としての価値は殆ど見出されていない。なので、僕たちよりも身の危険に晒されることはないのに、なぜか父と母、つまり国王と王妃だけど、その二人は彼のことを特別心配していた。出来の悪い子ほどかわいい、というやつだろうか?


 父と母はちょっと頭のネジが飛んでいるというか、平和ボケしている感じで、何につけても今一つ。だから早く第一王子が王になるようにと誰もが願っている。実際この国は今斜陽を迎えつつあり、それは両親や祖父母たちがそういう性格で、貴族たちが腐敗していくのを見て見ぬふりし続けていたせいだと、僕たち三人は思っていた。本人たちはこの国は平和でそんなことは無いと言い続けているみたいだけど。


 そんな父と母がわざわざ人目に付く場所で頭を下げて、第四王子をとある侯爵家に婿入りできるように頼んだ。聞いたとき耳を疑った。

 国王と王妃が頭を下げて断れるわけがない。しかも第四王子にだけ利点があるような内容で結ばれたことも知ってしまった。最悪すぎて吐き気さえする。

 だけど父は「親友に頼んだら快く引き受けてくれた」と言っていた。親友という概念を勘違いしているだろ、と言いそうになったけど黙っていた。

 兄たちも同意見で、古くからあり王家の血筋も引いてるあの侯爵家からの信頼が得られなくなったことを嘆いていた。しかしまだ未成年だった僕らはどうにもできず(長兄は相当抗議したらしいけどなしのつぶてだったと肩を落としていた)せめてこれ以上両親が暴走しないように祈るだけだった。



 

 


 その婚約は白紙に戻されるだろう、という噂が流れ始めたころにかの家の当主が亡くなり、第四王子が婿入りする予定の令嬢だけが残された。当主を継いだけれど幼いから代理を立てた、という話は聞いていた。


 だけどその頃から彼女は表舞台に一切出てこなくなった。それまでも殆ど出ていなかったけれど、母が主催のお茶会に年に数度出てはいた。

 そんなお茶会をはじめ王宮で計画される催し物に顔をだすのは代理の家族たちで、その人たちがあまりにも感じが悪く、マナーも教養もないので評判は落ちるばかり。そうなっても彼女は出てこない。


 不思議に思って一度父に聞いてみたけれど、第四王子が毎月会っている、元気にしている、とだけ言われた。兄たちもそれぞれ母に聞いたりあえて第四王子に聞いたりしたけど、誰もかれも同じ答えだった。


 本当にそうなのか?疑問がよぎる。

 どう考えてもあの代理家族に虐げられているのではないか?と。


 ただ、そのことばかりを考えているわけではなく、その他のことの始末や自分の勉強に追われているうちに、第四王子とその婚約者である彼女が学園に入学してきた。



 愕然とした。

 彼女はどう見ても虐待されていた。


 初めて会ったので、以前と比べてどうなのか、ということはわからない。ただ、侯爵を継いでいる令嬢とは思えないみすぼらしさ、生気のなさ。第四王子はそれを当たり前のようにしているだけでなく、彼女を奴隷のように扱っていた。


 だけど僕は、そんな彼女を怖いと思った。恐ろしくて目を見ることが出来なかった。


 死んだような表情なのに、猛禽類のような鋭い目つきになる瞬間を見てしまったから。背筋が凍る。



 これはまずい。そう思ったが学園内で彼女をかばうものが一人もいなかった。僕が手を出すと余計ややこしくなる気がするけれど、見過ごせるものでもない。

 どう出るべきか迷った僕は父と母にそれを伝えたけれど、取り合ってもらえないどころか「あの子はレオナールの婚約者なのよ、ちょっかいかけてはダメだからね」などとお門違いの忠告までもらってしまう始末。あんな怖い女性は勘弁願いたい。


 僕は兄たちにも相談したけれど、その時二人は多忙を極めていてこちらに手が回せないと言われた。禁止薬物が貧民街で蔓延していて、その対処に追われていた。確かにそうだ。だけどこのままでいいのか。


 仕方なく僕は自分の側近たちにかの侯爵家のことを調べさせようとした。



 しかし、あっという間にそれは止めざるを得なくなった。

 侯爵家に調べに行った側近の一人が僕の住んでいる離宮の前に縄で縛られた状態で置かれていた。調べようとしたらすぐに誰かに捕まってしまって、伝言を頼まれて解放されたという。怪我もなく、ただ縛り上げられただけだった彼が伝えたのは

「首を突っ込むな」

 だった。


 その伝言を僕は・・・彼女からだと感じた。彼女本人ではなく手のものがやったんだろうけれど、その言葉は紛れもなく、あの鋭い目のあの人のものだと確信した。



 見過ごすのはしたくないが、もしかして誰かが動くことで余計に彼女の立場が悪くなるのなら・・・と言い訳のようなものをたくさん積み重ねて、僕は国外に逃げた。本音を言えば単純に怖かったからだ。彼女にかかわってはいけないと本能が告げていた。


 そうして前々から行きたかった医療技術の高い国へ留学することにした。



 魔法での治癒が当たり前のパリス国と違い、留学先は魔法を使わず病気や怪我を治す技術があった。この技術が広まれば魔法を使えない人たちも怪我や病気に悩まされる確率が減るはずだ。


 交流大使としての仕事もしつつ、留学先で最新技術を学ぶ日々はとにかく楽しかった。兄たちに比べて特色のない僕はとにかく知識を広げて文官として第一王子を支えようと思っていた。学園でのことは記憶の片隅に追いやっていた。



 そうして時間が過ぎていき、ある時パリス国から緊急の手紙が届いた。


 そこにはあの令嬢が、第四王子や代理家族をはじめ自分を虐げた人たちを一網打尽にした、という内容が詳細に記されていた。

 そして、獣人奴隷と結婚したとも書かれていた。


 その後伝え聞いたパリス国からの情報では、彼女と獣人奴隷との身分差の恋、虐げられた女性を守り抜いたというストーリーに国中が沸いているらしい。

 獣人奴隷との結婚に対しても、苦言を呈する人は殆どいないという。


「なるほど・・・そりゃ僕が手を出したら怒るよなぁ」


 僕の予想通りなら、この結末のためにあんなにも酷い状態を甘んじて受け入れた彼女。そんな彼女の邪魔をしたのなら、自分も第四王子と同じ道を歩んだかもしれない。

 もしくは、求心力を失った両親たちのようにか。


 首の皮一枚ギリギリ助かった両親はどうやら早々に引退するようだ。それがいい。第一王子を支えるために、僕ももっと勉強しなくては。

 どうやらその一件によってパリス国には新しい風が吹き始めている。まだ日は沈まないでくれるようだ。


 いなくなった弟のことよりも、これから先の未来のことのほうが僕の頭の中を占めていた。



あともう一話番外編を投稿して完結となります。

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