3 死
何度斬られ、刺されたか。
視界どころか多くの感覚がマヒしているのが分かる。
今立っているのか、横たわっているのかも今一つ判別がつかない。
ただ、聴覚だけはまだ残っていた。
「そんな男をいつまで構っている!」
戦っていた連中とは違う声が響く。
……誰だ?
「小僧にも逃げられるとは……この無能どもがっ!」
「お言葉ですが、団長。これほどの勇士は我が団にもおりません」
「黙れ! 己の無能を押し隠すために、こんな男を勇士と呼ぶとは……情けない!」
「……」
部下を無能と言うとは、敬愛すべき伊田中将に比べれば下品な輩だ。こんな奴に部隊を指揮できるのかね……?
「……なるほど、我らは無能かもしれません。ですが、異なる世界より、無関係な者を戦わせるために呼び寄せる方が、より情けないではないですか」
「き、貴様!」
「もはや貴方にも、王にもついていけない! この男の死を見て……死してなお子供を守るために立っているこの男を見て、決心がつきました」
「我らはこれより王国を捨てまする」
この場にいる誰の言葉も怒りに声が震えているのが分かった。
そして、自分自身が立ち往生していると思われていることに驚いた。
まだ、生きているのだがと思うのだが、体が動かない。間抜けな状況だとか事を考えていると、聞こえていた言葉すら遠ざかっていく。
「国の家族がどうなっても……」
「戦士としての誇り……」
聴覚すら失い始め、すべてが喪失していく。すべてが零れ落ちていく。
なるほど……これが、死か。
そんな思考を最後に私の意識は消えた。
※※
何かが沸き立つ音がする。目を覚ますと灰色の空が見えた。曇り空ではなく、全てが灰一色の空だ。
いや、空気その物が灰色なのか?
「目覚めたかね」
「誰だ?」
突然声をかけられて、慌てて周囲を見渡す。ボコボコと不快な音が響いているだけで、声の主は見当たらない。
「かつて君であったものだ。君が殺された世界では絶えた呪術の担い手」
「……意味が分からない」
「私は言わば魂の残滓、戦い破れ散った呪術師が転生した姿が君だ」
「私も輪廻をめぐるのか?」
「いや、それは今ではないな。君を呼ぶ声がするだろう」
耳を澄ますと確かに誰かの声がする。
「今を生きるがよい、神土征四郎」
「……名前は。私だけ名前を知られているのは、癪だ」
「ジュアヌス」
その名を聞き、私は何かを思い出す。思い出しはしたが、それが何かまでは分からなかった。
急速に夢から覚めるように灰色の空間から抜け出そうとしていることを自覚した瞬間に、ジュアヌスは語った。
「プロフォンドゥムを探せ。旧文明の鎧にして兵器。死人の声を聴く者ならば、簡単に見つけ出せるだろう。それを纏えるのは、今は絶えた呪術の力を持つお主だけよ」
その言葉の意味を問い返す間もなく、私は目を覚ます。
そこにはロウの面影を残した青年と、耳の長い美しい女、それに作り物めいた女が私をのぞき込んでいた。
その背後では青空が広がっていた。