1 召喚
「セイシロウとか言ったな、お前は追放だ。スキルも持たぬ無能はこの国より出て行け」
私は戸惑っていた。
砲煙弾雨の戦場からいきなり妙な所に呼ばれ、スキルがどうとか言われ挙句に国を出て行けと言われたからだ。
何を言っているのか分からない。いや、何故か言葉は分かってしまうのだが、意味がまるで分からない。
分からないまでも、きっと盗人でもここまで猛々しくはないとは確信を持って言えるが。
「それとロウとか言ったな。お前もだ。死者と話しかできない外れスキルなんぞ要らん」
傍らの少年はスキルとやらがあるそうだが、外れだなんだと言って同じく追放の憂き目にあった。
本当に、なんなんだろうな、こいつら。
「……」
「召喚の枠を二つも無駄にしてしまった」
「ですが王よ、残りの九人はそこそこの出来です。これで魔王との戦いも一安心ですな」
そんな事を言いながら王と呼ばれた偉そうな男と腰ぎんちゃくが去っていく。
それと入れ違いで、西洋の古い鎧で完全武装した兵士たちが私たちを取り囲む。
……甲冑組手で叩き伏せるには数が多すぎるし、確実に殺されるな。
いかに武を収めようとも、数の暴力の前ではなかなか……。
「……すまないが、王より国外退去を命じられた。国境沿いまでは馬車で送る、後は自由にしてくれ」
髪の長い髭を生やした上級騎士と言った感じの男が、何処かすまなそうに口にする。
「止む無し、か」
「……ですね」
私がぼそりと呟くと、少年も相槌を打った。
※※
馬車に揺られてごとごと進む。
囚人護送用か見世物にでもするためにか、檻に車輪をつけたような荷台に乗せられて。
「要するに、異世界から召喚された勇者にはスキルと呼ばれる能力が備わる筈が、セイさんにはなくて、僕のは死者と会話できるだけの期待外れの代物だったと言う訳らしいです」
「そんなん知らんよ、勝手に呼んでなんだってんだ」
道行く連中にはじろじろ見られるし尻も痛いが、同じ境遇のよしみか、年の離れた少年と打ち解けていた。
今もこうして、少年ロウが馬車の中でこの世界の死者から、そのスキルとやらを使い自分たちの境遇を聞き知り、私に話してくれた訳だ。
「召喚の秘儀はかつては大変だったらしいんですけど、今では簡易に行えるそうです。何人か生贄に出せば一軍に匹敵する勇者を呼べるとかで」
「生贄を出すのか……」
「それに、事が済めば、後腐れなく厄介払いができるから権力者に重宝がられているとか」
「腐ってんのか、ここいらの権力者は」
確かに権力者なんて大抵碌なもんじゃないけれど、真っ当な人も稀にいるはずなんだがなぁ……。
「一五の難事を解決した数百年前の大勇者クレヴィすら、その最後は追放の後に呪い殺したとか、封印したとか」
「ひどい話があったもんだ。追放で済むだけマシだったかね」
そんな風にロウに話しながらも私は感づいていた。
並走する兵士の数、その武装が明らかに護衛の域を超えていることを。
後腐れなく……か。
最悪、この子だけでも生き残れるように算段を取らないとな。