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たまにはこんな冒険物語  作者: 神玉
サヤカのその日暮らし冒険記
8/19

大人になったら……

 冒険者とは主に、困っている人間を助けることが仕事だ。その中には当然ながら、危険なことも含まれる。人間の生活を脅かす魔物なんかがいるなら駆除を頼まれることもある。


 魔法が使えるならば、その力で済むだろうけれど、私にはそんな素敵な力はない。


 だから、鍛冶士に頼んで武器を作ってもらうというわけだ。


「……で、嬢ちゃんはどんな武器にして欲しいんだ?」


 鍛冶士の「ドノバン」さんは、長く伸ばした口ひげを撫でながらたずねてきた。


「私に合うので、お願いします」


 もちろん、てきとうな仕事をすると疑っている訳じゃない。私の手にすっぽりと馴染むことが何よりも大切なんだ。


「だからよ、そんな注文じゃあわかんねえって言ってんだよ」


 ドノバンさんは呆れた調子で言った。


「私にふさわしい武器をひとつお願いします」


「…………お前さんには、その腰の木剣がお似合いだ」


 あっちへ行けと言わんばかりに手を振る。


「そう言わないでください」


 私は武器を作ってもらいたくて、頼み込む。いつまでも木剣では不便だし、格好もつかない。ここらで奮発して良いものを使おうと思ったんだから。ドノバンさんは武器を作る才能に長けている、と聞いたものだからドノバンさんに頼むのだと、私は伝えた。


「そんなことをいわれてもな……俺にはそんな才能、嬉しかないね」


 ドノバンさんはもともと、鍛冶士になんてなりたくなかったんだと、つぶやいた。


「そうだったんですか……それじゃあ、どうして鍛冶を?」


「別に、ただ、なれそうだと思っただけさ」


 子供の頃はなりたい夢を追いかけてきたはずなのに、大人に近づくほどに、なれる夢を探そうとしちまう。そう言うと、ドノバンさんは設計図を書く予定あろう、白紙の紙に目を移した。


「そんなもんなんだよ……お前さんには夢とかあんのか?」


「私はですね……勇者に憧れてるんです」


「勇者? これまた変な夢だな」


 ドノバンさんはハンと鼻で笑い続けた。


「同じおとぎ話なら、お姫さまじゃあねえのかい? 女の子ってのはそういうのに憧れると思ってたんだがな」


 たしかに、お姫様も素敵だとは思う、ひらひらの衣装を身にまとい、優雅に踊るのだ。しかし、私にはそれ以上に勇者が素敵に見えた。ただそれだけの話なんだ。


 この話を深く取り上げるつもりはないのか、ドノバンさんはやや無愛想な返事をした。私も聞かれないのなら、自分から語るようなこともない。少しの間、沈黙が出来た。


「……ドノバンさんの夢って何だったんですか?」


「あん?」


 武器の設計図だろうか、書いている手を止めてこちらを見ている。


「いえ、さっき言ってましたよね。子供の頃はなりたい夢を追いかけてきたって、何になりたかったんですか?」


「……さあな、忘れちまった」


「多分、嘘ですよね」


「いいだろ、なんでも。俺の夢の話なんてな。俺はもう鍛冶士なんだ」


「鍛冶士になったら、夢は忘れなきゃいけないんですか?」


「そうじゃねえけど……こんな年になりゃあ、もう次なんて……」


 若いならやり直しが出来るが、いい年になってしまったら、あとは決まった人生を進むしか無いんだと。諦めた夢を冷めた視線で見ている。


「関係ないと思いますよ」


 夢を捨てる理由はないし、いつからでも始めて良いんだと、私は思う。たとえ、明日が人生最後の日だとしても、今日からでも、今からでも。


「子供の頃にドノバンさんが描いた夢は、今もきっと叶えてもらうのを待ってるはずです」


「だから、今からでも追いかけろ、夢は必ず叶うからってか? おとぎ話の読み過ぎだよ、嬢ちゃん」


 そうかもしれませんと言って、笑ってしまう。


「……それで、ドノバンの夢は何だったんですか?」


「しつけえな。………………誰にも言うんじゃねえぞ」


 私は誰にも言わないし、決して笑ったりもしません、と約束した。


 ドノバンさんは諦めたように、ささやく声で言った。


「………………………………菓子職人」


「……………………」


「な、なんだよ。変だって、似合わないって思ってんだろ!」


「いえ、そんなことありませんよ。いいじゃないですか、素敵だと思いますよ」


「………………そうかよ」


「いつか、お店を開くことがあったら、教えてくださいね」


「…………………………おう」


 その前に、私の武器を作ってくださいね、と笑顔で伝える。ドノバンさんはイカしたやつを考えてやったと、設計図をひらひらしながら答える。


 今日のところは別れを告げる。そして後日、完成した武器を見に、私は鍛冶屋に来た。


「こんにちは」


「おう、来たか。こいつが、お前さんのために作った武器だ」


 ドノバンが運んできた武器はとても大きく、どう見ても私が使うには不釣り合いな剣だった。


「どうだ? お前さんに合う立派な剣を作ってやったぞ」


「あの、すみません。重すぎてまともに振れないんですが……」


 私は、手を震わせながら剣を持つ。持つので精一杯で、こんな武器で戦うことなど出来るわけがない。


「ああ、今はそうかもな。でもそいつを振り回せるようなら、立派な勇者になってるはずさ」


「……」


 私は剣を背負って、鍛冶屋を出た。


(大人になったら…… 終わり)

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