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たまにはこんな冒険物語  作者: 神玉
サヤカのその日暮らし冒険記
17/19

サミアッドの城跡

サミアッドってどんな妖精なの?

サミアッドは願いを叶える妖精だよ。

どんなお願いを叶えてくれるの?

どんなお願いも叶えてくれるよ。

パパとずっといっしょにいたいってお願いも?

パパとずっといっしょにいたいのかい?

うん。パパは違うの?

ううん。パパだってそうさ。

本当?

本当だとも。

それじゃあお願いする。サミアッドにずっとずっとパパといっしょにいられますようにって。




 平和で平凡な民家がひとつ。野原にポツリ。周りは明るい緑色。それと花。色とりどり。空を遮るような高い建物はなく、壁になるような広い建物もない。青空はこんなにも広いのかと驚かせてくれる。

 何も疑うことのない優しく穏やかな空間に父娘が仲睦まじく暮らしている。何も邪魔することないふたりだけの世界。


 そこへ突然の訪問者が現れた。その少女は長い髪を後ろで結んでいる。

「すみません。私、こんな薬草を探しているんですけど……」

 少女は自らをサヤカと名乗った後に、ここに来た目的を語った。

「なるほど、その薬草なら心当たりがありますよ」

「ホントですか!? よかった……もうずっと探してるのに見つからなくて……」

「そのお疲れの顔を見ればなんとなくお察しします。この子に案内させましょう。このお姉さんを連れてってくれるかい?」

「うん! ついてきて!」

「ありがとうございます。助かります。よろしくね」

 娘に連れられて民家から離れ森の中へ入っていく。珍しい薬草らしく、なかなか見つからなかったのだが、案内されて行った場所ではそこら中に生えていた。

「凄いこんなにたくさん。私のさっきまでの苦労はいったいなんだったの……」

 サヤカはぶつくさ言いながら薬草を袋に詰め込んでいった。

「はい。お姉さん」

 差し出された小さな手には薬草が握られている。

「ありがとう手伝ってくれるのね。とっても嬉しい」

 そう言うと「えへへ」と笑った。花たちにも負けないほど明るい笑顔だった。サヤカも思わずつられて表情がゆるんでしまう。


 仕事を終えたので街に戻ろうとするサヤカだったが、それを父が止めた。

「そろそろ日も落ちます。どうです、夕飯を食べて泊まっていきませんか?」

「いいんですか?」

「こんなところに客人なんて珍しいですから娘も喜びますよ」

「何から何までありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて」

 家の中に入ると既に夕飯の準備がされていた。立ち上る湯気に香りが乗って鼻腔をくすぐる。食欲は最高潮にまで高まった。

 小さい体で椅子を引いて案内してくれる娘に従って席に着く。

「どうぞ召し上がってください」

「いただきます!」

 促されるままに口に運んで、いっぱいに頬張る。

「っ!」

 食べた瞬間、思わず目を見開いた。

(うげえ、な、何、これ……とても食べられたものじゃない!)

 瑞々しくつややかな見た目とは裏腹に、ジャリジャリとした食感に苦いのかなんなのか。本当に食材で作られたのかわからない味がした。例えるなら故郷の畑で顔から転んだ幼少期の味だ。なんとか失礼のないように口に入れた分だけは飲み込んだが、それ以降口に運ぶ度胸はなかった。

「うん! やっぱりパパの作るご飯は最高!」

「ははは。そうだろうとも。ほら、まだまだあるからね」

 勧められる通りに娘の小さな口の中に、料理が次から次へと吸い込まれていく。娘の食べる手は止まることを知らないようだった。

(嘘でしょ。なんであんなに美味しそうに食べられるの……?)

 その様子に驚愕の思いが隠せない。嫌がらせの料理ではない。間違いなく、もてなす為に作られているのだと。

「おや、サヤカさん。手があまり動いていないようですが……もしかして、お口に合いませんでしたか?」

「あ、ええっと、い、いいえ! そんなことないですよ。ただ、その、あの今日はちょっと疲れてるのでお腹が空いてないのかも……」

「なんと、これはすみません気が利かなかったようで。それではお休みの用意をしましょう。とは言ってもこんなところにお客様が来るなんて想定してないものですから、小さいかもしれませんがこの子の布団を使ってください」

「パパ、わたしは?」

「パパと一緒の布団だよ」

「やったぁ! パパのお布団あったかくて大好き!」


 翌日、サヤカは親子に別れを告げて、街に戻った。サヤカの背中側では娘のはしゃぐ、楽しげな声が遠ざかっていった。

 街に着き、仕事を終えたことを報告する為に酒場の入り口をくぐった。

「マスターさん、薬草持ってきました」

「ご苦労さまサヤカちゃん。珍しい物だからもっと時間がかかると思ってたけど早かったね」

「親切な親子に手伝ってもらいました」

「親切な親子?」

「街から離れて、森を抜けた先にある草原に、お父さんと娘さんのふたり暮らしの家を見つけまして」

「それって……」

 マスターは顎に手を当てて怪訝な顔をした。

「どうかしたんですか?」

「いや、まさかね」

「何ですか? 教えてくださいよ」

「確かにそこに親子で暮らしていたという話は聞いてるけど」

「けど……?」

「その親子はサヤカちゃんがこの街に来るよりも前、それくらいの頃に魔物に襲われてもういないはず。家だってその時に壊れて悲惨な状況だって」

「え?」

「まあでも、サヤカちゃんが会った親子とは別人かもしれないしね。さあ、薬草を見せて」

「は、はい。どうぞ」

 薬草を突っ込んだ袋から手を取り出し、マスターに差し出す。しかし、薬草はマスターの手に届くことはなかった。代わりにふたりの間を隔てるカウンターにサラサラと黄色い砂が落ちた。

「あれ!?」

 サヤカは困惑した。確かに袋には薬草を詰めたはず。しかし、袋の中をかき回してもひっくり返しても中に入っているのは砂だけだった。

「ど、どうして……?」

「もしかしたらさっきの話はあながち外れていなかったのかも」

「どういうことですか? 私は確かに会ったんですよ? 幸せそうな親子に」

「そこを疑ってるわけじゃないよ。ただこの砂はきっとサミアッドのものだ」

「サミアッド?」

「そう。願いを叶える妖精なんだけどね。叶え方は常に不完全。砂を使って叶えたように見せるだけ」

「それじゃあ……」

「きっとその親子もそうだろうね」

「そんな……」

 表情を曇らせるサヤカを見て、マスターは両手を合わせてパンと音を鳴らし、話の転換を示した。

「さて、悲しいけれどそれはもう過ぎた話。どうすることも出来ないよ。というわけでサヤカちゃん」

「なんですか?」

「薬草探し、やり直しだね」

「あっ……そうですね」

「でもその前に掃除してね」

「…………ですね!」


(サミアッドの城跡 終わり)

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