売
驚いた。
寝ぼけまなこを擦りながら
ベッドから起きてきたのは
紛れもない私自身だ。
私はもう死んでいるのではないのか。
窓の向こうの私は、風呂場へ歩いていった。
シャワーの音が微かに聞こえる。
暫くしてリビングに戻ってきた私は
身体のラインが出る黒のワンピースを着ていた。
そして鏡の前に座り化粧を始める。
眉毛を書くのに苦戦し、1度描いた眉毛をこすりもう一度描く。
その光景に憶えがある。
自殺をする前日の光景だ。
静かな空間の中、慣れた手つきで私は髪の毛を巻き始める。
丁度髪の毛を巻き終わった頃、電話がかかってくる。
「はい、分かりました。ではまた後で。」
と私は電話を切る。
この電話は、風俗店のオーナーからだ。
私は1年前から風俗のアルバイトをしていた。
単に収入が欲しいだけではなかった。
風俗嬢になったきっかけは、彼氏の一言が原因だった。
暴力的な性格の彼は気に入らないことがあると、私を殴ったり蹴ったり怒鳴ったりした。
そんな彼を私は可哀想だと思っていた。
彼は私以外に暴言を吐くことはない。
彼の友人達から彼は本当に良い奴だとよく聞いていたし、私も彼の良い部分はたくさん知っていた。
きっと、私の前でだけ弱い部分を見せられるのだろうと。
「お前、風俗やれよ。」
そう彼に言われたのは1年前。
衝突する度に
「死ね。」
「お前は価値がない。」
「居なくなれ。」
と言う彼をなだめていたがふと思ったのだ。
本当に私が居なくなったらどう思うのだろうか。
そんな時に風俗という、なんとなく現実味のある言葉を放たれた。
私も感情が高ぶっていたため、勢いでその日のうちに地元の風俗店を探し、電話をした。
その風俗店のオーナーは女性だった。
「では、21時に面接をしましょう。」
待ち合わせた喫茶店で彼女に初めて会った。
40代半ばのふくよかな女性だった。
昔はモテたろうなと思わせる綺麗さがあった。
彼女は淡々と仕事内容を説明した。
手取りは50%。
1時間働けば、7000円が手元に入ってくる。
未経験だった為相場は分からないが、
悪くない、と思った。
その日のうちに話を取り付け、翌週から私は晴れて風俗嬢になった。