七話 そして偽りの真実を創り始める
「ゆーたと美嘉ちゃんはどう思う?」
日向の暗い声が美術室に響いた。
放課後。段々と日は短くなり、外はオレンジ色に染まり始める。
「……」
「……」
沈黙が重くのしかかる。
「……先生?」
悠太と美嘉の表情が全く動かないことを察して、先生に縋る。
「ふぅ……まったく、協調性が無いねぇ?」
肌寒くなる日も多くなったにもかかわらず、先生はソーダ味のアイスを齧る。
「と言われても流石に……」
苦笑いをしながら肩を落とす日向を見て、悠太と美嘉は頷くのであった。
「この部活の方向が定まってないのに、学校祭で何をすればいいのかわかるワケがないでしょう?」
「そこはノリで何とかできない?」
悠太の言葉は当然のように答えを返された。
「「「無理です」」」
来週末に始まる学校祭に向けて、月研は何か出し物をすることになった。
否。
出し物をすることになってしまったのだ。
時は遡り、数十分前の事である。
「失礼する」
美術室に男子生徒が入ってきた。
彼の名は多氣修慈。生徒会副会長を務める二年生だ。
四角の眼鏡に校則通りの短髪。模範生と呼ばれる男だ。
「どーぞ」
日向は快く招き入れ、椅子を用意する。
「生徒会副会長の多氣修慈だ。よろしく」
椅子に腰かけ、丁寧に挨拶をする修慈に対し、悠太と美嘉は腕を組み守りを固める。
「よろしくお願いします……ところで今日はどんな要件でしょうか?」
今日は先生から集合するようにと言われ、美術室に集まっていた月研の面々だが、生徒会が来るとは聞いていなかったので少しだけ戸惑っている。
しかも当の先生は美術室には来ていない。
「先生から何か聞いてないのか?」
修慈は美術室内を見渡し、先生の存在がないことを確認する。
「いえ、なにも……」
答えを返す日向は申し訳なさそうに俯き、ただ黙ることしかできなかった。
「あの先生には困ったものだな。……今回の学校祭で出し物をするだろう?」
「「はぁ?」」
美嘉と悠太は同時に疑問と威圧をぶつけ、眉間にシワを寄せてチンピラの如く睨み付ける。
「まさか……そこからなのか?」
修慈は冷静に振る舞っていたが、流石に声が大きくなる。
「多氣、君が驚いてしまうほど私の部活は素晴らしいモノなのだよ? フハハハハハ!」
誇らしげに、ドヤ顔をしながら先生が美術室に入ってくる。
高らかな笑いはマッドサイエンティストさながらであった。
「驚いてはいません、呆れているんです。先生も今回の学校祭の厳重な体制を知っているでしょう? 何故そのことを生徒に伝えていないんですか?」
深い嘆息。修慈は眉間に指を当て、シワを寄せる。
「あぁ知っているとも。私は生徒指導部だからな? なんならこの体制を作った内の一人は私だからな? 伝えなかった理由としては、その方が面白いから。それだけ!」
胸を突き出し行われた宣言に、全員が言葉を失った。
しかし、誰も咎めず責めない。それが先生という存在なのだから。
「それでは月研の皆さんには私から伝えます」
諦め。
そして、そこから導ける最善の道を選ぶ。
冷静な判断。修慈の性格が故だろう。
「おう、よろしくー」
先生は修慈に全てを任せ、いつもの席に座り冷凍庫からアイスを取り出した。
「では月研の皆さん、今回の学校祭について話そうか」
「はい」
改められ、背筋を伸ばした日向は表情を切り替える。
「今回の学校祭では出し物をする部活に対し、生徒会の生徒が一人、担当として監視を行う。監視と言っても、ルールを守っているかどうかを見ている……それだけだ。それと、協力できる所は協力していく」
「なぁ? なんで生徒会は部活の監視なんてやるんだ? 生徒会は生徒会でやることが山程あるのに……手間だろ?」
腕を組みながら威圧的に美嘉は質問を投げる。
「去年な……ステージ発表をしていた軽音楽部が、盛り上がった勢いで花火をドンパチやってな? ちょっとしたボヤ騒ぎになったんだ」
悪夢を思い出すかのように溜め息をつきながら修慈は語る。
「あー……それで今年は監視役を、ね?」
理由を聞き、納得した美嘉は椅子の背もたれに勢いよく寄り掛かった。
「そういうわけだ。ちなみに今回は書類を渡しに来ただけだ。この紙に団体名、担当教諭、発表教室、内容等を記入して生徒会室まで持ってきてくれ。ステージ発表を希望するなら事前に申請が必要だから早めに決めてくれ」
「は、はい」
情報を一気に提示され、それをなんとか処理した日向はスカートのポケットから手帳とペンを取り出し、メモを取る。
「提出期限は無いがなるべく早く提出してくれると助かる」
「わかりました……」
そう言いながらメモを続け、書類に一通り目を通す。
「それじゃあ今日はこの辺で失礼する」
修慈はそう説明をし、足早に美術室から立ち去って行った。
……そして話は冒頭に戻る。
「先生は何故相談もせずに生徒会に申請してしまったんですか?」
「漆原の入部申請やらで忙しかったんだよ。それと、間に合うだろ?」
悠太の指摘に先生はアイスを齧りながら雑に答える。
「来週末ですよ? 厳しいですって」
表情を少し厳しくしながら悠太は声を出す。
呆れ、ほんの少しの憤り、先生の行動を把握しきれなかった後悔、全てが入り混じり溜め息という形で吐き出された。
「そう言わず、頑張ってみようか!」
食べ終わったアイスの棒を振りながら先生は指示を出す。
聞く耳を持たない先生を早々に切り捨て、日向は状況を確認する。
「とりあえず、学校祭までの計画を立てちゃおう」
「そうだな」
美術室内に散らばる机を集め、日向たちは予定を組み始めた。
日向と悠太は学校祭までの平日は部活に来ることになり、美嘉は来られない日が多くなるとのことだ。
発表場所は美術室、担当教諭も問題なく決まり残すは発表内容だけとなった。
「なぁ、一ついい案があるんだが?」
美嘉は顎に手を当てながら提案する。
「いい案?」
「あの多氣っていう副会長さんに手伝ってもらえば? 協力するって言ってたし」
口角しずつ上がっていき、不敵な笑みが浮かんだ。
「あー……ありだな」
悠太と美嘉は共に笑い出し、やるべきことを明確にしていくのであった。
翌日
「さてと、ゆーたさん」
夕日の差し込む美術室。
机を間に挟み向かい合う日向と悠太。
「なんだい? 日向さん」
何もない机に綺麗に手を乗せた日向を見つめ、返事をする。
「発表内容をどうしましょうか?」
「適当にネットで調べて……とかかな?」
妥協案を出し、やる気なく答える。
「おいおいそれでいいのか月研? もっと詳しく調べてみようとは思わんのかね?」
溜め息をつきながら先生はそう言う。
先生はいつも通りの席でアイスを齧る。
「いいじゃないですか? それ以上は真実に迫ってしまいますよ?」
笑いながらそう答える日向。
しかし、真意は秘匿にすべきことを守ろうとする。
「お前らの発表の醍醐味は、真実をどれだけ知られずに明かしていくかだろ?」
「そんな趣味はありません。月鳥と烈に怒られますから」
悠太もそう反論する。
「そうか? 意外と許してくれるかもなぁ?」
呑気に欠伸をしながらそう答えを返した。
「失礼する」
修慈が両手に大量の本を抱えながら美術室に入ってきた。
「おー……多氣、早いなぁ?」
「もう時間がありませんからね? 的確で迅速な協力を行いますよ」
表情を一切変えずそう答え本を机の上に置いた修慈は、本の上に積もっていた埃を払った。
「流石、次期生徒会長」
ニヤニヤとしながら修慈をおちょくる先生。
「決まった訳ではありません。対立候補がいるかもしれないですから、気を抜かないように最善を尽くすだけです」
先生の言葉を冷静に処理する。
「高校二年生とは思えないねぇ?」
「本題に入っても?」
「そうだな、頼んだ」
「それでは……今回は図書室から資料を集めてきた」
修慈は机の上に積まれた本を丁寧に並べる。
「司書の先生にも協力を頂き、奥の書庫にある本まで貸し出してもらった」
表紙や背表紙がボロボロになった本がいくつも並ぶ。
月鳥町の歴史を記録した本から日本に存在した神々の本など実に様々な種類が揃っていた。
「よく司書の先生も貸し出してくれたな」
「生徒の為なら……と喜んで貸し出してくれた。特例で返却期限も学校祭の後にしてもらっている」
「後でお礼を言わないとだね」
「資料の提供はした。ここからは君達の仕事だ」
「はい。ありがとうございます!」
修慈は頑張れよ、と言い、資料を丁寧に広げる。
悠太と日向は本を広げ、内容をノートに纏めていく。
月鳥という『街』がいつ根付き、いつ町として制定されたのか。基本的な情報を整理していく。
「……あれ?」
『月鳥神の顕現』という本を読んでいた日向は、ページの間に挟まれたメモを見つけた。
そのページには『月鳥神の数奇な運命』と題されたページが開かれていた。
「これって……」
日向は明らかに狼狽え、思考回路を回し続ける。
その刹那。
「大変よ!」
生徒会の女子生徒が勢いよく美術室の扉を開けたのだ。
「どうした? そんなに急いで」
修慈は女子生徒に問いを投げる。
「……軽音部が!」
突如として日常は反転し、喧騒が訪れる。
こんにちは、
下野枯葉です。
最近ユーチューブで料理動画を見るようになって、料理を始めました。
多分、一週間で飽きると思います。
でも、出汁から作ったお好み焼き……おいしかったなぁ。
さてさて、
前回、美嘉に関するお話が一段落しました。
そして今回から新たなお話です。
因みに、
この作品の初期構想で出てきたキャラが段々と登場します。
いやー……書くのが楽しみぃ。
他の作品も同じなのですが、基本的に下野枯葉は作品を作り始める時、実際に見た光景を参考に書き始めます。
なので今回も学生時代に見たあの光景が見えるのが楽しみです。
きっと、きっときっと。
美しい空が描けるハズなんです。
その日まで、続けていきたいなぁ。
うん。
それでは、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。