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Cloud=NOISE  作者: 下野 枯葉
台風隠し編
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四話 最悪の雲

 金曜日の美術室は静謐に包まれていた。

 何しろ、普段と違うベクトルの人間がいたのだから。

 悠太と日向は横に並び、椅子に座っている。

 正面には美嘉が足を組みながら座っている。

「オホン。それじゃあ今後の部活の方針を話していこうかー」

「先生、私は二人の事を知らないのに部活をしろというのは不可能じゃないですか?」

 美嘉は極めて冷静に指摘する。

(ダウト! この前、「チッ、中世古か」とか言ってたでしょうが)

「そうだな。まずは自己紹介をすべきだったな……部長からでいいか」

 日向は指示を受け立ち上がる。

「えーっと、月研の部長をしています。七組の圦本日向です。……といっても部活は本格的に始まっていないので、私も何をするのか知りません! なのでスタートラインは同じです! よろしくお願いします!」

(かわわ)

 日向の精一杯の自己紹介が終わり、先生は悠太に視線を送る。

 小さなため息をついた後に立ち上がる。

「一組の中世古悠太です。一応副部長です。よろしくお願いします」

(無難だろう。これなら特に何も思われない自己紹介だろう)

 それを聞き、順番を理解した美嘉は立ち上がる。

「漆原美嘉。一組だ。先生に脅されて入部したが、それは言わない約束になっているから聞かなかったことにしてくれ。脅されたなんて口が裂けても言えないから」

 表情は一切変えず、入部の経緯を話す。

「おい漆原、それは言ってることになってるぞ」

「そうなんですか、日本語って難しいですね」

 珍しく先生が劣勢になっているような気がした。

 ギスギスした空気が美術室を包んだ。今日は空気がよく変わるなぁ……。と悠太は感心していた。

「美嘉ちゃん! ゆーたとクラス一緒なんだね!」

 空気を変えたのは日向の一言だった。

「美嘉ちゃ……名字で呼んでくれ、それと中世古と同じクラスだったのか」

(嘘だろ? クラスで一番浮いてる自信あったんだけど。それに自己紹介で一組って言ったよね? 話聞いてないのかよ)

「これで自己紹介は終わりでいいだろう……早速部活だ!」

 威勢のいい台詞は

「先生、活動内容を部長も把握してないみたいなんすけど?」

 新入部員、美嘉の一声で意味を持たなくなった。

「漆原」

「はい?」

「流れって知ってるか?」

「人と合わせるの苦手なんすよ」

「漆原と中世古は似てるねぇ? 特に話しにくい」

「は? 中世古と一緒にしないでください。不登校になりますよ?」

(奇遇だな。俺もお前と一緒にされたくない。っていうかなんで一緒にされたら不登校になるんだよ。そもそもお前、不登校気味じゃねーかよ。それと先生も教師なら生徒と話しにくいとか言っちゃダメだろ)

「すまんすまん、中世古と一緒は嫌だよな」

「はい」

(悲しいかな。俺が不登校になりそう)

 そんな中、日向は悠太と美嘉が一緒、ということを想像し、少しだけ嫉妬の気持ちを募らせていた。

「もう面倒だから私から説明するぞ。月研は月曜の夕方に雲が消える現象……『雲晴らし』の原因究明と、月鳥神について調べる部活だ」

 『月鳥神』……その言葉を聞いた悠太は、呑気に煎餅を齧る月鳥神を思い出した。

「雲晴らしって、有潜在者がやってる……ってことで結果が出てるんじゃないんすか?」

「それが一番可能性が高いというだけで、明確な原因は分かってないんだよ」

 原因不明の雲晴らし。衛星が、科学者が雲晴らしの前後を集中して観測したが、明確に原因は突き止められず、気象庁も月曜日の夕方は一度晴れるのが常識である。と研究を中止した。

 そして原因は有潜在者の仕業である……という噂が最も現実視された。しかし、原因の有潜在者は正体を現さず、本当に月鳥神の仕業では……とも囁かれている。

「それでも、ただの高校生が原因を突き止められるとは思えないんすけど……」

「まぁ、そこはあくまでも高校の部活の範囲で研究しましたーってやればいいから」

「はぁ……」

 そんな会話を聞きながら悠太はグラウンドを見つめた。

 野球部はいつものやかましい掛け声を出さずに、グラウンドを整備していた。

 週明けは保護者会が行われる。駐車場が少ないためグラウンドを駐車場として使うのだ。野球部は毎回駐車場整備係にされている。

「あっ、もうこんな時間じゃん。帰ります」

 美嘉はスマホで時間を確認し、慌て始める。

「なんだ漆原、バイトか?」

 声のトーンを変えずに問いを投げる先生。

「バイト禁止って校則ですよ? ちょっとした用事です」

 スマホをバッグに投げ入れ、足早に教室から出て行った。

「校内でのスマホの使用も禁止なんだけどなぁ」

 溜息と共にそんな台詞を吐いた先生は、椅子に座り天を仰いだ。

 ちなみに、バッグの中に有名ファストフード店の制服があったのだが誰も気づかないふりをしていた。

「……先生」

 悠太は美嘉の足音が完全に消えるのを待ってから声を出した。

「どうした中世古」

 先生はいつの間にか設置されていた小型冷凍庫からアイスを取り出しながら答える。

「なんで漆原を?」

 ビリビリ、とソーダ味のアイスを袋から取り出し、塩を振りかけた。

 シャリッ……と音を立てアイスを齧った先生は味を楽しみ、一呼吸してから、

「あぁ……気分で」

 と答えた。

「ダウト。そんな浅い理由で貴女は人を選ばない」

「正解だ」

 口角が上がり、眼鏡越しに真っ黒な瞳を覗かせる。

「じゃあ理由は」

「漆原の負の感情が消えないんだよ」

 深い嘆息の後、何もない美術室の天井を見ながらそう言った。

「いつから」

「私が気付いてから……三か月前くらいだな。中世古が完全に消しているはずの雲が漆原から消えないんだよ」

「だとしてもなぜここに?」

「月鳥の使命を果たせ。漆原の雲を消し去れ」

 豪快に残り少なくなったアイスを食らい、棒で悠太の顔を指しながら命令を出す。

「あの……」

 申し訳なさそうに右手を挙げた日向は会話を中断させる。

「美嘉ちゃんの負の感情って……一体何なんですかね? 三か月も消えないってものすごく大きいモノなんじゃ?」

「正解だ。原因は家族関係の悪化だろう。特に父親が暴力で家庭を制しているらしいからな」

「それって……」

 察した日向はそこから言葉を発せなかった。

「最悪だろう? だが漆原はそれを一人で解決しようとしているんだ」

「他人の家庭にまで介入できません」

 悠太の瞳は青空を見つめていた。

「普通の状況ならそれが正解だろうがな……この町にいる以上、使命の範囲内だからな」

「……そうですね」

 理解し難い現状を、無理や地理にでも飲み込まなければならない……それが使命だから。と自分自身に言い聞かせ、日向と悠太は視線を落とした。

「でも、月鳥の力で消せないのにどうやって消すんですか?」

 悠太は率直な疑問を投げる。

「それは、土日の宿題だ。月曜日に各々の考えを纏めておくように」

 先生のその言葉を区切りにし、その日の部活は解散となった。

 悠太はいつも通り、駅に寄る。

 金曜の夕方の駅には、スーツ姿のサラリーマンが沢山いる。

 路地裏の小さな居酒屋に入る者もいれば、早くも千鳥足気味にタクシーに乗り込む者いた。

 駅に併設されている本屋で目当ての本を探してから、小腹を満たすためにファストフード店に入る。

「ご注文お決まりの方、どうぞ」

 レジの女性の声に従い、注文を投げる。

「ハンバーガーとオレンジジュ……」

 注文の途中でレジの女性の顔を認識する。

「漆原……」

 美嘉が笑顔を引きつらせていた。

「ご注文をどうぞ?」

「オレンジジュースのMサイズ一つで……」

「Lサイズですね?」

(は? こいつの耳は機能してねぇのか?)

「Mサイズ」

「Lサイズですね?」

「Lサイズで」

(もういいよ、Lサイズ飲むから)

 美嘉の威圧に負かされ、渋々お金を払う。

 商品はすぐにお盆に乗せられ、提供される。

「お待たせしました」

 受け取るのとほぼ同時に、

「このこと喋るなよ?」

 互いにしか聞こえない声で脅された。

(なんだよ今の声、静かなクセしてハッキリ聞こえたぞ。怖ぇよ)

「誰にも言わねぇよ。言ったところで何の得もない」

「ならば好都合。もっと買って行けば?」

「これで十分だ。それに俺が沢山買ったところでお前の給料に影響ないだろ?」

「出来高じゃないからな」

 少し話してから後ろに他のお客さんが並ぶのを確認した悠太は、話を切り上げ適当な席に腰を下ろした。

 スマホのゲームを起動し、イベントを消化する。

 毎日、何らかのイベントを催すゲーム会社もネタ切れにならないのか? という疑問を頭の片隅に置きながら順調にこなしていく。


 時間はゆっくりと過ぎ、いつの間にか午後十時を回ろうとしていた。

 このままでは補導されてしまう可能性もあるので、悠太は荷物を纏め店を出た。

「おい! こんな時間まで何してるんだ!」

 店の裏手側に回った際に、そんな怒声を聞いた。

「アンタには関係ないでしょ!」

 聞き覚えのある声。

「親に向かってアンタとはなんだ!」

 先程よりも、大きな声が辺りに響く。

 悠太も好奇心から、様子を伺いに行く。

「アンタなんか親とも思ってない!」

 そこには美嘉と中年の男性が一人。おそらく父親だろうか?

 互いに頭に血が上り、感情的になっている。

「美嘉! 歯を食いしばれ!」

 拳を振り上げ、殴りかかろうとする。

 その姿を見た美嘉は、身体が震え、歯を食いしばり、両眼を閉じた。

「お巡りさん! こっちです!」

 悠太が咄嗟に出した声は助けを求める声だった。

「んなっ? 美嘉、帰るぞ!」

 腕を掴み荒々しく引っ張る。

「離してよ!」

 美嘉は抵抗し、逃げ出す。

「くそっ!」

 悪態をつき、その場を急ぎ足で離れる中年男性を見送り、悠太もその場を離れる。

(家庭環境……ね?)


こんにちは、

下野枯葉です。


今回は『最悪の雲』という題で書きました。

漆原美嘉。

とっても面白いキャラになりました。

この後の展開がすっごく楽しみです。

へへへ……学生時代の思い出が少し描けそうです。

とっても美しい世界だった。

頑張って書いていきましょう。


そういえば、最近寝不足なんですよ。

ヒーリングミュージックとか試したんですけど寝れなくて……。

でも、ケルト音楽を聴いてると熟睡できるんですよ。

なんでだろう、あんなにもテンポがいいのに。

まぁ、寝れるならいいや。


まぁ、いいや。


今回はこの辺で。




最後に、

金髪幼女は最強です。

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