食べても食べても太らない体に生まれ変わったけど、困ってます
食べても食べても太らない体になりました。
そのせいで、今ものすごく困ってます。
えっ何言ってるのって感じだよね。
いや私もそう思うんだけど。
でも本当なんだよ!!
ちょっと聞いてくれる?
前世、日本人女性だった時はさ、食べたら食べた以上に肉がつくって感じだったから、ほんと、痩せの大食いとか、食べても太らないんだよねー、っていう人がうらやましかった。
どんなに気をつけてても、ややポチャだったし。
気を抜いて食べようものなら、すーぐに2キロくらい増えたりして。
で、その時は願ってたんだよ。
生まれ変わったら、食べても太らない体になりたい!神様お願い!って。
で。
本当に生まれ変わっちゃったんだよね!
なに、流行りの異世界転生ってやつ?
しかも、乙女ゲームの悪役令嬢になっちゃったー!ってやつ!
割と若く、って言っても社会人にはなってたけど、事故で死んじゃったから、神様が願いを叶えてくれたのかもしれないけどさ。
前世でプレイしてた乙女ゲームの悪役令嬢に転生してて。
まぁ、オタクでウェブ小説も超読んでた私としてはね、むしろラッキーかもって思ったよね。
子供の頃、攻略対象の王子と会って、ここが乙女ゲームの世界だって気づいて。
悪役令嬢の定番としてさ、王子と婚約者になって。その辺は家の都合で避けられなくて。あ、うちは今この国の筆頭貴族家だったりするんだけど。
定番だけど、王子がゲームのヒロインとハッピーエンドになると、悪役令嬢である私がヒロインをいじめたとかで断罪されて、生涯修道院コースになるんだよね。それを知ってたから、どうにかしなきゃなって頑張ったんだよ。頑張ったんだけどさあ……
そう、そこで問題です!
突然だけど。
食べても食べても太らない人ってさ、そのエネルギーどこに行くと思う?
前世でいたそういう人は、多分、そもそも吸収しないで、エネルギーになる前に体外に排出してたんだろうね。それだったら良いよね。まぁ、食費はかかりそうだからそれは大変だけど。
私の場合、ものすごくエネルギーになりやすいみたいなんだよね。
え?太らないって言ってたのに?って思った?
そう。太らないんだけど。
この世界には魔法があってさ。
わりとベタなファンタジーな世界なの。
剣と魔法の世界って感じの。
魔物とかもいて、貴族もいるけど冒険者もいるし。
でね、魔法って、自然に溢れているエネルギーを使うんだけど、自然エネルギーってとっても効率が悪くって。個人の持つエネルギーを着火装置みたいに使うことで、使えるレベルの魔法が生み出されるのね。まぁ、一般人だと、かまどの火をつけるための火花を出したりとか、冷たい水を少しあたためたりとか、そういうレベルね。
普通は、少し生活の助けになるかなーって程度で。限られた、本職の魔法使いになるような人たちは、もっと使えるんだけど。
はいここで、さっきの問題の答えです!
覚えてる?
食べても太らない人の、そのエネルギーはどこに行くか?
答えは……私の場合は、だけど……魔力になります!
聞く、ねえ聞いちゃう?いやもう聞いて!
一般人の魔力は、さっきも言ったけど水を温めるくらいね。魔法使いだとピンキリだけど、まぁ炎そのものを出すことはできるくらいかな。氷の礫を出したり。それで十分、ファンタジーだよね、魔獣と戦ったりする魔法っぽいよね。
私の魔力で、何の気なしに水を温めようとすると、爆発します。
水蒸気爆発だね。
これマジで危ないからね、施設壊れるし岩が砕けて吹き飛ぶからね!
しかもこれ通常時だからね。気づいたんだけど、うっかり食べ過ぎたなーって時にうっかり魔法使うと、威力倍くらいになるからね!爆発規模も倍だよね!今のところ、荒野で実験しただけで、まだ人的被害は出してないけど、時間の問題だよもう……怖いわ……
王子がゲームのヒロインと出会いイベント報告してきた時とか、今後への不安のあまりやけ食いしてふて寝したら、いつも念のため近くに置いてある手のひらサイズの魔石が私から溢れ出る魔力吸い取って馬くらいのサイズになったからね、寝てる間に。あのサイズの魔石があったら飛空挺半永久的に飛ばせるって大喜びされたけどさ。
……というわけで、私はとても困ってます。
食べないと死ぬから、食べるよね。
でも食べたら食べただけ、それ以上に魔力が増えちゃって。お菓子食べたりしようものなら、ちょっと近くの狩場に行ってドラゴン討伐してくるわ〜☆ってレベルで魔力が満ちててさ、でもお腹は減るんだよね!酷い!
一度頑張って食べないでいたら、魔力が減るのかなって試してみたんだけど。
魔力は減らない上にお腹は減るんだよ!なんならお腹が減って凶暴な気分になったからか、魔力が暴走し始めて周りの家具とかがヒビ入ったり植物が異常な成長したりするんだよね!
今のところは誰かに危害を加えた訳じゃないし、やっぱり食べちゃうよね。限界までお腹減ると。そこでリバウンドするんだよ。身体がじゃなくて魔力がね!増えるの!前より!
ホントどうなってんの?!食べると魔力になって、食べないで頑張ってそのあとちょっと食べるとリバウンドするんだよ魔力があぁぁ!
食べても食べなくても増えるじゃん!
そんな感じで、マジ困ってたんだけどさ。
え?何が困るのって?魔力あるのは良いことじゃんって?
まぁそう思うよね、私も他人事だったらそう思うかもしれない。でも考えてみて。マジででかい岩壊す、いや山壊すレベルの魔力をさ、毎日の生活の中で使うことってある?無いよね?
でも毎日異常な量の魔力が生成されるんだよ。
さっきも言ったけど、魔石があればまだ良かったの。魔石に余剰分の魔力をうつせるから。
だけど、最近魔石が手に入りにくくなってきて。いやそれも私のせいなんだけど。
もともと数の少ない、魔力を貯められる空の魔石を、私が異様に魔力が溢れてるとわかってから、筆頭貴族家のツテでもってかき集めて使い続けてたんだけど。いよいよ数がなくなってきたんだよね。魔石は空じゃないと新しい魔力を入れられないし。
私が育ってきたこの16年間で、魔力を入れた魔石は3桁はある。それ全部使い切る事ってないよね。日々の生活でさ。戦争でもするなら別だけど、今世界は割と均衡を保ってるし。でも危ないから私の魔力入りの魔石は国外には出さないようにしてるみたいで。つまり、そんなに消費されないよね。飛空挺とか、魔石で動く魔石車とかが開発されて稼働してるけど、割と長期間保つんだよね、私の魔力入りの魔石。何なの、何でそんな省エネなの。
そんな訳で、ある意味私、国のエネルギー源みたいになってるところがあって。
割と大事にされているというか、丁重に扱われてるよね。筆頭貴族の娘という以上に。
だから、王子との婚約が破棄されるなんてことは、まぁ起こらないと思うんだけど。だって私が国外に出たり死んだりすると超便利な魔力供給源がいなくなるってことだからね。王子とは普通に仲良いし、そこは良いんだけどさ。今後王子とヒロインがどうなるかはわからないけど。ヒロインにはまだ他の攻略対象って選択肢もあるし、べつにゲーム通りに進まないかもしれないし。
それは良いの、それは。
ただ、空の魔石が手に入らなくて、周りからは丁重に扱われてて、魔力を発散させる場面がないんだよ!
それが私の目下の悩みです。
魔石がなくて、魔力を発散させないとどうなるかというと、私の周りに異様なことが起きるんだよ。家具が壊れたりはまだしも、この間なんか魔力生命体であるスライムが突然発生しちゃったからね。魔力使ってなくてヤバいなどうしようと思いつつお風呂入ってたら、お風呂の水が急にデロデロしてまとまって、スライムになってたんだよ!それを皮切りに、部屋に飾ってあった花から妖精みたいな子が生まれるわ、ぬいぐるみが動き出すわ、魔力生命体ってこんなにポコポコ発生するの?!ってもう驚愕だよね、私の周り以外でそんな話聞いたことないけど。
そこらへんに生えてるふつうの植物もさ、ずっと近くにあるとだんだん意思を持ってる感じになってくるんだよね、うちの家の花壇とかヤバいよ、私が近く通るときお辞儀してくれるし、水やりとか自分でやるからね。
今までのところは、発生しちゃった魔力生命体も、まぁいい子たちだし、何とかなってる……と思うの、多分。だけど、1番の問題は、終わりが見えないことなんだよね。リバウンドで育った魔力は、普通に私が大人になるにつれて増えてってるんだよ。最近身長があんまり伸びなくなったと思ったら、横に太る……んじゃなくて魔力が増大してるんだよね!で、すごいお腹が減るんだよ!成長期なの?魔力の成長期なの?!
国を挙げての一大プロジェクトとして、ずいぶん前から私の魔力が研究されてるんだけど。
まだ、なぜ私だけこんなに魔力生成されちゃうのかはわからないみたい。
魔力の活用法のネタも研究されて、魔石車とか、魔力コンロ、魔力冷蔵庫みたいなものもできてて、全体的に生活が便利になっていってるけど。
そっちもどんどん省エネ化して一般化を目指してて、つまり、私から大量に生まれる魔力の使い道が無い解決策にはならないんだよね!
あと!
私は言いたい!
食べても食べても太らない体になったんだから!
もっと思い切り美味しいもの食べたいよー!!
なんで魔力を気にしてダイエットとか節制しなきゃいけないのおぉ!
何なら前世より常にお腹減ってるの我慢してるよ!
はぁ。
最近だんだんこの状況にムカついてきて。
今度、ホントにドラゴン狩りに行こうかなって思ってる。
あ、もちろんはじめは初心者向けから始めるけど。冒険者にでもなって魔物相手にバンバン魔法使うくらいしか、魔力の使い道が思いつかなくて……!
すっかりペット化してるスライムちゃんも、妖精のフェアちゃんも、熊のぬいぐるみのベアちゃんも、相談したら乗り気で手伝ってくれるって言ってたし。このままだと私の周りが魔窟にでもなっちゃいそうだもんね。適度に毎日発散するしかないよ!そうだそうだ!
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数百年後。
人としてはじめて魔王となり、今も世界に君臨する女性が少女時代に悩みを綴ったと思われる手記が発見された。
魔王研究所に持ち込まれたが、その存在を知った魔王が「やめてぇーみないでえぇ!」と叫びながら一瞬で現れて回収していってしまったため、実物を確認できたものはごく僅かである。
お正月太りなど……無い……!!と良いのに!
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