朱影剣
明と翼は本当の姉妹のように仲良くなっていった。庭で遊んでは土まみれになっ怒られて、夜にはこっそり起きて庭に出て怒られて、ついには、家臣たちの目をかいくぐって、城下町へ遊びに行って怒られて・・・。
やってることは悪ガキであり、翼は何度か殺されたり外に放り出されたりされそうになったが、いつも九紫が止めてくれて、今ではそんなことはなくなった。怒られはするが。そんなこんなでもう一年がたっただろう。
今、明と共にいることができるのはのは九紫のおかげでもあるのだろう。翼はそう思っていたのだ。
それは突然だった。明の追いかけっこで遊んでいる途中、翼は九紫に呼び出されたのだ。明は少し寂しそうに翼を見たが、素直に行ってらっしゃいと言ってくれた。そして、翼は城の倉庫に連れられた。そこには、戦で活躍する戦士が二人、待ち構えていた。翼は緊張感を覚える。
「やぁやぁ翼君。君は最近姫といつも遊んでくれているようだね。感謝してるよ。」
「ええ、どうも。」
「姫はいつも一人でこの国の頂点に立っていたため、ずっと一人で寂しかったんだ。そんな時、君が姫の妹として、ここに来てくれて、姫はもう嬉しそうにしている。」
「はい。」
「話がそれてしまったねぇ。さて、本題に入ろう。」
九紫は片方の戦士の目を見ると、戦士はお辞儀をして、倉庫の中心あたりから細長い箱を取り出した。九紫は
「座りたまえ」といい、翼を座らせ、自分もその場に座った。戦士は九紫の目の前に箱を置く。九紫は翼を見てニヤリと笑う。そして、ゆっくりと箱を開き、中身を取り出した。それは、鞘に赤い羽根が散るように模様が描かれた黒い刀だった。
「こ、これは・・・。」
翼は目を見開いて刀を見た。
「これは、君が流れていた時に乗っていた船と一緒に乗っていた刀だ。これは、君の物だね?」
「これは、父上様の刀でございます。父上様、まさか、私を船に乗せた時に一緒に・・・・、やっぱり、父上はもう・・・。」
翼は涙をこらえながら俯いた。
「君の父上のことは、とても悔やむものだ。君はきっと、父上の形見として、この刀を父上に受け取ったんだろう。だからこれは君の大事な物。だから、君に返さなくてはならない。」
「あ、ありがとうございます。」
「しかし!」
突然九紫が叫び、翼は驚いて顔を上げた。
「翼君、この刀の伝説について、ご存知かな?」
「いいえ、まったく。」
九紫は目を閉じ、長い話を始めた。
「この刀は「朱影剣」。遠い昔、この地が強大な力を持つ妖に襲われた時、この国が祭る神「朱雀」様が、妖と己の身を一本の剣に封じ込めたという伝説がある。そうして出来た剣がこの「朱影剣」。この朱影剣は朱雀様のしもべの一族が持っていたと伝えられていた。」
「はぁ、そんな凄いものを、私の父が?」
翼は首を傾げ、そういった。
「そう。こんなにもすごい剣を我々の国は触れた。これをやすやすと逃すのはもったいない。かといって、君からこの剣を奪うのはいけない。そこで!」
九紫は翼に指を指した。
「この剣は君に返そう!その代わり、君はこの国の戦士となり、この国のために戦え!」
翼はすぐに理解した。
この男は、自分を戦にだそうとしていることに。翼は考えた。この国は自分を拾ってくれたから、その恩返しに戦うべきなのだろう。しかし、そうなったら、自分は明と遊べなくなってしまう。それは寂しい。
九紫は翼の迷いに勘づき、翼の耳元に自分の口を近づけ、静かに話した。
「迷うことはないだろう?お前が戦えば、姫のためになる。違うか?」
その言葉に、翼の意思が大きく傾いた。
そして翼は首を縦に振った。
計画通り。