なぜ、生きている
「なぜ、お前が生きている?なぜ、ここにいる!?」
「へっへっへ、随分と驚いているようだなぁ。なぜって?」
「それはワタシがお教えしましょう。」
後ろの集団の中から真っ黒の布を身にまとった、明らかに人ならざる者が現れた。
「少し昔の話になりますね。ある日、ワタシは己の願望をかなえるため、誰にもワタシの存在を知られぬように世界を回っていました。それから、ワタシはある日、とある場所にたどり着きました。そう・・・・。」
「朱雀城に!」
布の者はゆっくりと顔を上げた。そして、その黒い布の下の顔、いや、骸を、恵瑠と翼には見えていた。
「お前は・・・・・・・霊術師か。」
「霊術師?なにそれ、初めて聞いた・・・。」
「霊術師、太古から存在し、死に逝った人の魂を霊とし、操ることのできる。場合によっては、魂の負の感情を膨張させて怨霊に変えることができる。」
「え、つまり、どういうこと?」
「全く、物分かりの悪いおバカなお嬢ちゃんですねぇ。つまり、ワタシがワタシの力を駆使し、彼らの死体をある程度修復し、魂を呼び寄せたんです。」
「へっへっへっへっ、その通り!そのお礼に俺たちはこいつの願望を叶えるためにこいつの協力をしていたんだ!」
へっへっへと、笑い声が響く。
「それで、なんで私たちを狙うの?」
笑い声が止み、恵瑠を見た。
「私たち?私たちだぁ?お前には関係ねぇ。俺たちが用があるのは赤羽翼だ。なんだお前?殺人鬼と仲良しごっこかぁ?物好きなガキだぜ。」
「殺人鬼?翼は殺人鬼なんかじゃない!共に世界を守り抜いた英雄だ!私の友達だ!」
翼は恵瑠を嬉しさや悲しみの混じった目で見つめた。一方、男は、眉間に思いっきりしわを寄せて、怒りに満ちていた。
「英雄?友達?ふざけたことを抜かしてんじゃねぇっ!お前から先に死にてぇか!!」
男は恵瑠に斬りかかる。恵瑠は目をギュッとつぶるが、金属音が大きく鳴り響き、目を開く。
目の前には翼の背。翼は恵瑠に斬りかかった男の剣を己の剣で受け止めていた。
「させない、絶対・・・。」
翼は男を睨みつける。男は怒り狂い、そのまま叫びだした。
「なんだよなんだよ!そいつを守るってのか?何も守れなかったお前が!?人を殺すことしが出来ないお前が!?俺の親父や沢山の戦士たち、色んな人々を殺しまくった癖に、さっきの通り、本当に英雄やら友達やら気取ってんのか!!?なぁ、「朱雀の殺し屋」さんよぉ!!!」
ギリギリと、剣を翼へ、力任せに押す。翼の表情は険しかった。精神的苦痛に悶えているように、ように、剣を押し返す。
「なぁ、俺は、あの場所でお前の死体を探した。だが、あの場所にはなかった!お前はまだ生きている。そう分かった時、胸の底から湧き出てくる殺意を感じたんだ。その日から再び、お前を殺してやると!!そう誓ったんだ!!!」
そう聞いた翼は冷静に言葉を返した。
「残念だったな。あの時の私なら、そう告げられればすぐに素直に殺されていただろう。でも、とあるバカが言ったんだ。死んで償える罪はないけれど、絶対に償えない罪もない。私は己の贖罪を果たすため、今を生き続ける。そして、この世界を守り抜いてみせる。この命が尽きるまで。」
翼は男を再び押し返す。男は霊術師の横まで押し飛ばされた。
「くっそぉ~、あのやろ~!!」
「まぁまぁ、そこまでにしましょう。」
怒りに満ちた男を霊術師は止めた。
「赤羽翼を殺したいのであれば、私の願望に付き合ってもらいますよ。そうすれば、彼らがあなたの手助けをしてくれるでしょう。」
「へっ、そうだな。おい!命拾いしたなぁ!次会ったときは、ぜってぇ殺す!お前ら二人なぁ!!」
「さぁ、いきましょう。「姫様」。」
霊術師は集団の中の一人の女を「姫様」と呼んだ。
「姫様」と呼ばれた女を見た翼は、目を疑った。
「そ、そんな・・・・、あ、あなた様は・・・・!!」
翼は大きく目を見開く。そんな翼を恵瑠は不思議そうに見ていた。
「つ、翼?どうしたの?あの人は、誰なの?」
霊術師は地面に大きく円を描く。描かれた円は黒浮き出て、男たちを包み込む。
「あ、姉上様!!」
翼は円の中の集団に向かい走った。
手を、その中の女に伸ばす。
しかし、円はスゥと消え、男も、霊術師も、女も、集団全体がいなくなった。
そこに残っていたのは何もないところを呆然と見つめていた恵瑠と、同じところに手を伸ばした翼だった。